RE-AI

7体のAIによる収益物件評価プラットフォーム

融資

返済比率50%以内なら安全か|DSCR=NOI率÷返済比率に分解すると、同じ50%が1.767倍と1.305倍に分かれた

返済比率50%以内なら安全か|DSCR=NOI率÷返済比率に分解すると、同じ50%が1.767倍と1.305倍に分かれた

不動産投資の融資相談で最初に出てくる安全基準は、たいてい返済比率です。「年間返済額が満室想定家賃の50%以内なら安全」「金融機関は35%以下を見ることもある」といった説明が広く流通しています。

しかしこの指標には、決定的な性質があります。返済比率の分母は満室想定家賃であり、空室損も運営費も一切入っていないのです。つまり返済比率は、物件が実際にいくら稼ぐかを見ていません。

この記事では、返済比率をDSCR=NOI率÷返済比率という1本の式に分解し、全国40,979件の実態調査から得られた実データのNOI率を当てはめました。その結果、同じ返済比率50%が、地域によってDSCR1.767倍から1.305倍まで分かれることを確認しています。さらに修繕積立・空室率・金利改定を順に重ね、「返済比率を何%に抑えておけば金利上昇に耐えられるのか」を逆算しました。情報確認日は2026年10月30日です。

この記事で検証した疑問

  • 返済比率とDSCRは、どういう式でつながっているのか
  • 同じ「返済比率50%」は、地域によってDSCRがどこまで分かれるのか
  • 返済比率50%でDSCR1.2を割るのは、実質NOI率が何%を下回ったときか
  • 修繕積立を家賃の何%まで積むと、返済比率50%はDSCR1.2を割るのか
  • DSCR1.2・1.3を満たす返済比率の上限は、地域別に何%なのか
  • 同じ返済比率50%を、金利と融資期間の組み合わせで作ると中身はどれだけ違うのか
  • 金利が1pt上がったとき、返済比率は融資期間別にどれだけ跳ね上がるのか
  • 金利4.0%への改定に耐えるには、当初の返済比率を何%に抑えておく必要があるのか

「返済比率50%以内」はどこから来た目安か

返済比率の計算式は次のとおりです。

返済比率(%)= 年間元利返済額 ÷ 満室想定年間家賃収入 × 100

一般的な解説では、40〜50%の範囲に収め、50%以下に抑えることが望ましいとされ、金融機関側は35%以下を見ることもあるとされています(アットホーム「返済比率」解説、情報確認日2026年10月30日)。高い返済比率のリスクとしては、突発的な修繕費に対応しづらい、長期空室に弱い、金利上昇の影響が大きい、といった点が挙げられます。

ここで重要なのは、この40〜50%という水準は法令や公的機関の統一基準ではなく、業界内で広く共有されている経験則だという点です。そして経験則である以上、「どういう前提のもとで50%なのか」が示されていません。本記事はその前提を数式に戻して確認します。

返済比率とDSCRは、1本の式でつながる

DSCRは、NOI(純営業収益)を年間元利返済額で割った指標です。満室想定家賃(総潜在収入、以下GPI)を共通の分母に置くと、次のように書き換えられます。

  • 返済比率 R = 年間返済額 ÷ GPI
  • NOI率 = NOI ÷ GPI
  • DSCR = NOI ÷ 年間返済額 =(NOI÷GPI)÷(年間返済額÷GPI)

したがって、

DSCR = NOI率 ÷ 返済比率

これは近似ではなく恒等式です。そして、この式から直ちに次のことが言えます。

  • 返済比率だけではDSCRは決まらない。NOI率が分からなければ安全度は測れない
  • 返済比率50%でDSCR1.2を確保する条件は、NOI率が60.0%以上であること(1.2×50%=60.0%)
  • 同じようにDSCR1.3なら65.0%以上、DSCR1.5なら75.0%以上のNOI率が必要になる

つまり「返済比率50%以内なら安全」という主張は、暗黙に「NOI率は60%を十分上回っている」という仮定を置いています。問題は、その仮定が実際の物件でどこまで成立しているかです。DSCRそのものの意味や1.2倍を下回ったときに融資審査で何が起きるかは、不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例で整理しています。

分析の前提と使用データ

本記事は、実データと条件付きシミュレーションを組み合わせています。どちらがどこで使われているかを明示します。

区分

内容

出所

実データ

NOI率・空室率・運営費率(一棟・木造の地域別)

第13回(2025年版)全国賃貸住宅実態調査(IREM JAPAN・日本賃貸住宅管理協会・LIFULL)/有効回答40,979件

公開データ

政策金利1.25%(2026年10月30日据置)、短期プライムレート2.625%(2026年11月2日適用)

日本銀行の決定内容および長・短期プライムレート推移の報道

シミュレーション

返済比率、ローン定数K、金利改定後の返済比率、DSCR

元利均等返済の計算式により本記事で計算

架空の設定

修繕積立率(0〜8%)、ストレス時の空室率・運営費率、当初金利2.0%・融資期間35年など

本記事で設定した条件

この分析では物件価格を一切設定していません。DSCRも返済比率も比率であり、GPIを共通の分母に置いた構造だけで結論が決まるためです。物件価格・家賃・借入額を同じ比率で動かしても、本記事の表の数値は変わりません。3,000万円の区分でも3億円の一棟でも、NOI率と返済比率が同じなら同じDSCRになります。価格を固定する必要がないという点が、この指標の性質そのものです。

NOI率の実データは一棟・木造(調査数2,736件)の集計値を使いました。同調査のNOI率の定義は「NOI ÷ 総潜在収入」、NOIは「満室賃料 − 空室損 − 運営費 + その他収入」です。運営費には固定資産税・都市計画税、保険料、賃貸管理手数料、募集費用、原状回復費用負担、消防点検、共用部の電気・上下水道、清掃、植栽管理などが含まれます。

地域

調査数

NOI率

空室率

運営費率

差分(その他収入等)

東京都

755

88.34%

1.85%

12.88%

+3.07%

関東地方

1,947

83.95%

1.97%

15.55%

+1.47%

全国

2,736

81.62%

2.09%

17.79%

+1.50%

福岡県

280

79.51%

2.23%

19.35%

+1.09%

北海道・東北地方

336

76.42%

1.52%

24.60%

+2.54%

中国・四国・九州地方

413

75.70%

2.99%

22.14%

+0.83%

中部・近畿地方

40

72.63%

3.15%

24.61%

+0.39%

熊本県

69

65.26%

5.27%

29.38%

−0.09%

「差分」は、公表された3つの数値から100−空室率−運営費率を引いた残差として本記事が算出したものです。報告書の分母の扱いにより、その他収入以外の要素が含まれる可能性があります。

なお中部・近畿地方(調査数40件)と熊本県(69件)はサンプル数が少なく、参考値として扱う必要があります。また地域間のNOI率の差は、地域そのものが原因と断定できるものではありません。回答物件の築年数・規模・管理体制・賃料水準の構成が地域ごとに異なるため、構成の違いが数値差として表れている可能性があります。本記事では地域名を「NOI率水準のラベル」として使っています。

検証1:同じ返済比率50%が、1.767倍と1.305倍に分かれる

固定条件:地域別NOI率(実データ)/修繕積立0%。変更条件:返済比率(35〜60%)。

地域(NOI率水準)

NOI率

R=35%

R=40%

R=45%

R=50%

R=55%

R=60%

東京都

88.34%

2.524

2.208

1.963

1.767

1.606

1.472

関東地方

83.95%

2.399

2.099

1.866

1.679

1.526

1.399

全国

81.62%

2.332

2.041

1.814

1.632

1.484

1.360

福岡県

79.51%

2.272

1.988

1.767

1.590

1.446

1.325

北海道・東北地方

76.42%

2.183

1.911

1.698

1.528

1.389

1.274

中国・四国・九州地方

75.70%

2.163

1.893

1.682

1.514

1.376

1.262

中部・近畿地方 ※

72.63%

2.075

1.816

1.614

1.453

1.321

1.210

熊本県 ※

65.26%

1.865

1.632

1.450

1.305

1.187

1.088

※はサンプル数が少ない参考値です。

返済比率50%の列を横に読むと、DSCRは1.767倍から1.305倍まで、1.35倍の開きがあります。同じ「50%以内」という基準をクリアしていても、金融機関がよく目安とするDSCR1.2倍までの距離は、東京都水準なら0.567ポイント、熊本県水準なら0.105ポイントしかありません。

さらに注目すべきは、返済比率60%の列です。東京都水準なら60%でもDSCRは1.472倍あり、「50%以内」という基準は過度に保守的と言えます。一方で熊本県水準では60%でDSCR1.088倍、つまりNOIが返済額を上回る幅が1割を切ります。同じ基準値が、ある地域では機会損失を生み、別の地域では安全を担保しないという構造です。

検証2:修繕積立を入れると、境界はどこまで迫ってくるか

検証1のNOI率には、大規模修繕や設備更新といった資本的支出が入っていません。調査の運営費には原状回復費用負担や消防点検などの経常的な維持費は含まれますが、10年・20年周期で発生する外壁・屋根・給排水の工事費は別枠です。実際の投資判断では、この分をGPIの一定割合として積み立てる必要があります。

固定条件:返済比率50%、地域別NOI率。変更条件:修繕積立率(GPIの0〜8%)。

地域(NOI率水準)

NOI率

積立0%

積立3%

積立5%

積立8%

東京都

88.34%

1.767

1.707

1.667

1.607

関東地方

83.95%

1.679

1.619

1.579

1.519

全国

81.62%

1.632

1.572

1.532

1.472

福岡県

79.51%

1.590

1.530

1.490

1.430

北海道・東北地方

76.42%

1.528

1.468

1.428

1.368

中国・四国・九州地方

75.70%

1.514

1.454

1.414

1.354

中部・近畿地方 ※

72.63%

1.453

1.393

1.353

1.293

熊本県 ※

65.26%

1.305

1.245

1.205

1.145

DSCR=NOI率÷返済比率という式から、返済比率50%で許容できる修繕積立の上限は「NOI率 − 60.0%」として直接求められます。

地域(NOI率水準)

実績NOI率

返済比率50%でDSCR1.2を守れる修繕積立の上限

東京都

88.34%

GPIの28.34%

関東地方

83.95%

GPIの23.95%

全国

81.62%

GPIの21.62%

福岡県

79.51%

GPIの19.51%

北海道・東北地方

76.42%

GPIの16.42%

中国・四国・九州地方

75.70%

GPIの15.70%

中部・近畿地方 ※

72.63%

GPIの12.63%

熊本県 ※

65.26%

GPIの5.26%

修繕積立の水準としてよく挙げられるのは家賃の5%前後です。全国平均のNOI率81.62%であれば21.62%まで余裕がありますが、熊本県水準では5.26%、つまり一般的な目安をわずかに超えただけでDSCR1.2を割ります。修繕費を家賃の5%で足りるのかという検証は修繕費「家賃の5%」で足りるのか|国交省の長期修繕計画事例4件から逆算し、CF・DSCR・IRRへの影響を検証で行っています。

検証3:逆算 — DSCR基準を満たす返済比率の上限は地域で19.2pt違う

ここまでを逆向きに解きます。DSCR基準を先に決め、それを満たす返済比率の上限(=NOI率÷DSCR基準)を求めます。

固定条件:地域別NOI率(実データ)。変更条件:DSCR基準、修繕積立率。

地域(NOI率水準)

修繕積立0%

修繕積立5%

DSCR1.2

DSCR1.3

DSCR1.5

DSCR1.2

DSCR1.3

DSCR1.5

東京都

73.6%

68.0%

58.9%

69.5%

64.1%

55.6%

関東地方

70.0%

64.6%

56.0%

65.8%

60.7%

52.6%

全国

68.0%

62.8%

54.4%

63.9%

58.9%

51.1%

福岡県

66.3%

61.2%

53.0%

62.1%

57.3%

49.7%

北海道・東北地方

63.7%

58.8%

50.9%

59.5%

54.9%

47.6%

中国・四国・九州地方

63.1%

58.2%

50.5%

58.9%

54.4%

47.1%

中部・近畿地方 ※

60.5%

55.9%

48.4%

56.4%

52.0%

45.1%

熊本県 ※

54.4%

50.2%

43.5%

50.2%

46.4%

40.2%

DSCR1.2を基準にすると、許容される返済比率の上限は54.4%から73.6%まで19.2ポイントの幅があります。修繕積立5%を乗せると50.2%から69.5%になります。

ここから読み取れるのは、「返済比率50%以内」という一律の基準が、NOI率の高い地域では10〜20ポイント分の借入余力を使い残し、NOI率の低い地域ではほぼ余裕がない水準になっているという点です。熊本県水準で修繕積立5%を見込むなら、上限はちょうど50.2%。経験則の50%は、この水準ではすでに境界線そのものです。

なお、NOI率の違いを「必要な表面利回り」の側から逆算した分析はDSCR1.3に必要な表面利回りは7.5%か9.4%か|全国4万件のNOI率実データで地域別に逆算にあります。あちらは価格側(いくらで買うか)、本記事は融資側(いくら借りるか)からの逆算です。

検証4:実績空室率2.09%を市場ストレスへ置き換える

実態調査の空室率は、一棟・木造の全国平均で2.09%です。これは実際に回答した所有者・管理会社の実績値であり、継続的に管理されている物件の集計である点に注意が必要です。エリアの市場空室率(賃貸用空き家率)は、これよりはるかに高い水準で示されることがあります。両者がずれる理由はエリアの空室率の調べ方|「賃貸用空き家率」とポータル数値がズレる理由で整理しています。

そこで、運営費率と差分(その他収入等)を実データのまま固定し、空室率だけを5〜20%に置き換えた実質NOI率でDSCRを再計算しました。

固定条件:地域別の運営費率・差分(実データ)、返済比率50%、修繕積立5%。変更条件:空室率。

地域(NOI率水準)

実績空室率

空室5%

空室10%

空室15%

空室20%

東京都

1.85%

1.604

1.504

1.404

1.304

関東地方

1.97%

1.518

1.418

1.318

1.218

全国

2.09%

1.474

1.374

1.274

1.174

福岡県

2.23%

1.435

1.335

1.235

1.135

北海道・東北地方

1.52%

1.359

1.259

1.159

1.059

中国・四国・九州地方

2.99%

1.374

1.274

1.174

1.074

中部・近畿地方 ※

3.15%

1.316

1.216

1.116

1.016

熊本県 ※

5.27%

1.211

1.111

1.011

0.911

太字はDSCR1.2を割った組み合わせです。空室率の置き換えは、分母である返済比率を動かさず分子だけを削るため、空室率1ポイントの上昇がDSCRを0.02倍ずつ機械的に押し下げます(返済比率50%の場合)。この線形性は、DSCR=NOI率÷返済比率という構造から導かれる性質です。

同じ条件でDSCR1.2を満たす返済比率の上限は次のようになります。

地域(NOI率水準)

空室5%

空室10%

空室15%

空室20%

東京都

66.8%

62.7%

58.5%

54.3%

全国

61.4%

57.3%

53.1%

48.9%

北海道・東北地方

56.6%

52.5%

48.3%

44.1%

熊本県 ※

50.4%

46.3%

42.1%

37.9%

空室率20%を想定するなら、全国平均のNOI構成でも返済比率の上限は48.9%、つまり「50%以内」では足りません。

検証5:同じ返済比率50%でも、中身はLTV55%から100%超まで分かれる

ここまでは分子(返済額)の構成を見ていません。返済比率は「年間返済額÷GPI」なので、どんな金利と融資期間の組み合わせでその返済額を作ったかを区別しません。

年間返済額は「借入額 × ローン定数K」で表せます。Kは借入元本に対する年間元利返済額の割合です。

金利

20年

25年

30年

35年

1.5%

5.791%

4.799%

4.141%

3.674%

2.0%

6.071%

5.086%

4.435%

3.975%

2.5%

6.359%

5.383%

4.741%

4.290%

3.0%

6.655%

5.691%

5.059%

4.618%

3.5%

6.960%

6.007%

5.389%

4.959%

4.0%

7.272%

6.334%

5.729%

5.313%

返済比率 R = LTV × K ÷ 表面利回り という関係から、返済比率50%・表面利回り8.0%を成立させるLTVを逆算すると次のようになります。

金利

20年

25年

30年

35年

1.5%

69.1%

83.3%

96.6%

108.9%

2.0%

65.9%

78.6%

90.2%

100.6%

3.0%

60.1%

70.3%

79.1%

86.6%

4.0%

55.0%

63.2%

69.8%

75.3%

同じ返済比率50%が、金利2.0%・35年ならLTV100.6%(オーバーローン相当)、金利4.0%・20年なら頭金45%のLTV55.0%で成立します。返済比率は借入の大きさを制約しません。

さらに、返済額の中身も違います。初年度の返済額をGPI比で分解すると次のようになります(表面利回り8.0%、期首残高×金利による概算)。

金利/期間

LTV

年間返済/GPI

うち利息

うち元本

元本比率

2.0%/20年

65.9%

50.00%

16.47%

33.53%

67.1%

2.0%/30年

90.2%

50.00%

22.55%

27.45%

54.9%

2.0%/35年

100.6%

50.00%

25.16%

24.84%

49.7%

3.0%/35年

86.6%

50.00%

32.48%

17.52%

35.0%

4.0%/20年

55.0%

50.00%

27.50%

22.50%

45.0%

4.0%/35年

75.3%

50.00%

37.64%

12.36%

24.7%

返済比率50%という同じ数字の裏側で、返済額のうち元本に向かう割合は67.1%から24.7%まで変わります。返済比率は資産形成のスピードも区別していません。利回りと金利の差をローン定数Kで測り直す考え方はイールドギャップは「利回り−金利」では測れない|ローン定数Kで測り直すと、実質利回り−金利2.11ptでも負のレバレッジだったで扱っています。

自分の借入条件でローン定数Kや年間返済額、目標DSCRからの借入上限を確かめたい場合は、RE-AIの無料ローンシミュレーターで年間返済額とLoan Constantを試算することができます。本記事の表は表面利回り8.0%を前提にしているため、利回りが違えば同じ返済比率を作るLTVも変わります。

検証6:長い融資期間で作った返済比率ほど、金利上昇で大きく崩れる

2026年10月30日、日本銀行は政策金利を1.25%で据え置きました(賛成8・反対1)。会合後も追加利上げがメインシナリオという見方が示されており、短期プライムレートは2026年11月2日から2.625%へ引き上げられます。これは1995年以来の高さで、2024年9月の1.475%から1.15ポイントの上昇です。短プラ連動の借入では、この動きが返済額へ順次反映されていきます。

そこで、当初金利2.0%で返済比率50%を組み、5年後に残期間へ対して金利が改定される前提で、返済比率がどう動くかを計算しました。

固定条件:当初返済比率50.0%、元利均等返済、借入額、経過年数5年。変更条件:当初の融資期間、改定後の金利。

当初の融資期間

当初K

5年後残債率

改定なし

+1pt(3.0%)

+2pt(4.0%)

+1ptでの上昇率

20年

6.071%

78.61%

50.00%

53.66%

57.47%

+7.32%

25年

5.086%

83.78%

50.00%

54.81%

59.89%

+9.63%

30年

4.435%

87.20%

50.00%

55.94%

62.27%

+11.88%

35年

3.975%

89.62%

50.00%

57.03%

64.58%

+14.06%

結果は直感と逆方向です。融資期間を長くすると返済額が下がるため、返済比率は下げやすくなります。しかしその返済比率は金利上昇に対してより脆いのです。当初35年で作った返済比率50%は、金利1ポイントの上昇で57.03%へ、つまり14.06%も跳ね上がります。当初20年なら7.32%の上昇にとどまります。

理由は返済額の構成にあります。期間が長いほど返済額に占める利息の割合が高く(検証5の表では35年・2.0%で元本比率49.7%、20年・2.0%で67.1%)、金利が動いたときに影響を受ける部分が大きいためです。「融資期間を伸ばして返済比率を下げる」という対処は、返済比率という数字は改善させるものの、金利上昇耐性という意味では逆に働きます。

なお変動金利には返済額を一定期間据え置くルール(125%ルールなど)が付く商品もあり、その場合は返済額ではなく残債側に影響が出ます。この仕組みは変動金利の返済額据置ルールは投資家を守るのか|125%上限が効き始める金利3.56%と、据置10年で増える残債226万円を逆算で検証しています。

検証7:逆算 — 返済比率50%が耐えられる改定金利の上限

当初金利2.0%・融資期間35年・返済比率50.0%で組み、5年後に残期間30年で金利が改定される前提で、DSCR1.2を割る改定金利を逆算しました。修繕積立はGPIの5%とし、実質NOI率=実データNOI率−5%としています。

固定条件:当初金利2.0%、当初期間35年、当初返済比率50.0%、経過5年、修繕積立5%、空室率・運営費率は実データ。変更条件:改定後の金利。

地域(NOI率水準)

実質NOI率

許容返済比率

DSCR1.2を割る改定金利

当初2.0%からの許容上昇幅

東京都

83.34%

69.5%

4.61%

+2.61pt

関東地方

78.95%

65.8%

4.15%

+2.15pt

全国

76.62%

63.9%

3.91%

+1.91pt

福岡県

74.51%

62.1%

3.68%

+1.68pt

北海道・東北地方

71.42%

59.5%

3.34%

+1.34pt

中国・四国・九州地方

70.70%

58.9%

3.26%

+1.26pt

中部・近畿地方 ※

67.63%

56.4%

2.91%

+0.91pt

熊本県 ※

60.26%

50.2%

2.03%

+0.03pt

返済比率50%という同じスタート地点から、許容できる金利上昇幅は+2.61ptから+0.03ptまで分かれました。短期プライムレートが2年間で1.15ポイント上がった環境を踏まえると、NOI率の低い構成では返済比率50%はほとんど緩衝を持っていないことになります。

逆方向にも解いてみます。「改定金利4.0%でもDSCR1.2を維持する」という条件を先に置くと、当初の返済比率はどこまで抑えておく必要があるでしょうか。同じ前提では、改定後の返済比率は当初の1.2916倍になります。

地域(NOI率水準)

実質NOI率

改定金利4.0%でDSCR1.2を保つための当初返済比率の上限

東京都

83.34%

53.8%

関東地方

78.95%

50.9%

全国

76.62%

49.4%

福岡県

74.51%

48.1%

北海道・東北地方

71.42%

46.1%

中国・四国・九州地方

70.70%

45.6%

中部・近畿地方 ※

67.63%

43.6%

熊本県 ※

60.26%

38.9%

全国平均のNOI構成でも49.4%、NOI率の低い構成では38.9%です。つまり金利4.0%という改定を想定するなら、「50%以内」はちょうど境界か、すでに足りない水準になります。金融機関が35%以下を見ることがある、という実務上の目線は、この計算と整合する範囲にあります。

この逆算は、NOIと年間返済額が分かれば自分の物件でも同じ形で解けます。RE-AIの無料DSCRシミュレーターで、自分の満室想定家賃・空室率・運営費・融資条件からDSCRと「基準を下回る金利水準の目安」を試算することができます。本記事は実態調査の平均的なNOI率を当てた一般形であり、実際のNOI率は物件ごとに違います。

検証8:複数条件が同時に悪化した場合

現実のリスクは単独では起きません。空室率・運営費率・修繕積立・金利を同時に動かした3シナリオを比較します。

シナリオ

空室率

運営費率

修繕積立

金利改定

改定後の返済比率

BASE

実データ

実データ

GPIの3%

なし(2.0%)

50.00%

STRESS

10%

実データ+3pt

GPIの5%

3.0%

57.03%

SEVERE

15%

実データ+6pt

GPIの8%

4.0%

64.58%

地域(NOI率水準)

BASE

STRESS

SEVERE

BASE→SEVEREの低下

東京都

1.707

1.266

0.947

−0.759

関東地方

1.619

1.191

0.881

−0.738

全国

1.572

1.152

0.847

−0.725

福岡県

1.530

1.118

0.817

−0.714

北海道・東北地方

1.468

1.051

0.758

−0.711

中国・四国・九州地方

1.454

1.064

0.769

−0.685

中部・近畿地方 ※

1.393

1.013

0.724

−0.668

熊本県 ※

1.245

0.921

0.643

−0.602

STRESSシナリオで、東京都水準を除く全てがDSCR1.2を割りました。SEVEREシナリオではすべての地域でDSCRが1.0を下回り、NOIだけでは返済額を賄えない状態になります。これは「返済比率50%」という入口基準が、複合ストレスに対しては何の情報も持っていないことを示しています。

ただしSEVEREは、空室率15%・運営費率+6pt・修繕積立8%・金利+2ptが同時に起こる想定です。これは不安を強調するための設定ではなく、入口の返済比率だけでは複合悪化を検知できないことを確認するための上限ケースとして置いています。実際にどこまで同時に悪化するかは物件とエリア、運営体制によって変わります。

結果から分かること:転換点のまとめ

今回の計算で特定できた境界値を整理します。いずれも本記事の分析条件に限定された結果です。

転換点

数値

返済比率50%でDSCR1.2を割る実質NOI率

60.0%(DSCR1.3なら65.0%、1.5なら75.0%)

返済比率50%でDSCR1.2を守れる修繕積立の上限

GPIの5.26%〜28.34%(NOI率水準により23.08pt差)

DSCR1.2を満たす返済比率の上限(修繕積立0%)

54.4%〜73.6%

同(修繕積立5%)

50.2%〜69.5%

空室率20%想定時のDSCR1.2上限(全国・積立5%)

48.9%(50%以内では不足)

金利+1ptで返済比率が上がる幅(当初35年/20年)

+14.06%/+7.32%

返済比率50%がDSCR1.2を割る改定金利

2.03%〜4.61%(許容上昇幅 +0.03pt〜+2.61pt)

改定金利4.0%でDSCR1.2を保つ当初返済比率の上限

38.9%〜53.8%(全国平均49.4%)

投資判断への使い方

今回の結果から言えるのは、「返済比率を見るべきではない」ということではありません。返済比率は借入条件だけで即座に計算できる入口指標として有用です。問題は、それを単独で安全基準として使うことです。

実務では次の順序で確認する形になります。

  1. 返済比率で入口を切る。年間返済額÷満室想定家賃を計算し、提示された借入条件の重さを把握する
  2. その物件のNOI率を推定する。レントロールの空室・滞納実績、運営費の明細、修繕積立の必要額を積み上げる。ここが抜けると返済比率は安全度を測れない
  3. DSCR=NOI率÷返済比率で換算する。実質NOI率が60%を下回る構成なら、返済比率50%はすでにDSCR1.2未満である
  4. 許容返済比率を逆算する。NOI率÷目標DSCRで上限を出し、提示条件がその中に収まっているかを見る
  5. 金利改定を織り込む。変動金利や固定期間満了がある場合、融資期間が長いほど返済比率の上昇率が大きい。改定後の水準でDSCRが基準を満たすかを確認する

特に判断が分かれるのは、融資期間を伸ばして返済比率を下げるか、期間を抑えて自己資金を厚くするかという場面です。今回の結果は一方が有利と示していません。期間を伸ばせば初期の返済比率とキャッシュフローは改善しますが、金利上昇時の返済比率の上昇率は大きくなり、元本返済割合は下がります。期間を抑えれば金利耐性と元本返済は改善しますが、必要自己資金が増え、手元資金の厚みが薄くなります。収益性は維持されても金利改定への感応度が高い、という状態と、その逆が両方あり得るということです。この判断材料は融資期間25年・30年・35年で何が変わるか|自己資金4パターン×12通りでDSCR・CF・出口の手残りを検証でも扱っています。

また、今回のDSCRは取得時点の静的な数値です。DSCRは家賃下落・稼働率低下・運営費上昇によって時間とともに劣化するため、「今1.5倍ある」ことは「10年後も1.2倍ある」ことを意味しません。この時間軸の検証はDSCR1.30で買った物件は何年目に1.20を割るのか|家賃・稼働率・運営費を同時に劣化させ、10年維持に必要な初期DSCRを逆算にあります。さらに、金融機関側が規模拡大の判断に使う債務償還年数は返済比率ともDSCRとも分母・分子の構造が違い、同じ操作が効きません。こちらは融資期間を15年延ばしても2棟目の枠は広がらない|返済比率と債務償還年数を分けて、次が買える条件を利回り別に逆算で検証しています。

融資条件の見方を全体として整理したい場合は不動産投資ローン完全ガイド|審査基準・金利・融資期間・自己資金とDSCRの見方、収支計算の指標の関係は収益物件の収支計算完全ガイド|表面利回り・NOI・DSCR・IRRの計算方法と使い方をご覧ください。

今回のように、空室率・運営費・修繕積立・金利改定を同時に動かしてDSCRとキャッシュフローの両方を追うと、確認項目は急速に増えます。RE-AIでは収益性・融資・リスク・出口といった複数の視点をまとめて確認できるよう設計していますが、個別物件の融資条件や建物状態をすべて織り込めるわけではありません。最終的な判断は、実際の融資条件と現地確認を踏まえて行う必要があります。

この分析では分からないこと

  1. 実際の融資条件。金利・期間・固定/変動の区分・改定の仕組みは金融機関と借主の属性で決まります。本記事の当初2.0%・35年という設定は計算上の基準であり、実勢を代表するものではありません
  2. 個別物件のNOI率。使用したNOI率は実態調査の地域集計値です。同じ地域でも築年数・戸数・間取り・管理体制でNOI率は大きく変わります。地域名は水準のラベルとして使っており、特定地域の投資適格性を示すものではありません
  3. サンプル数の制約。中部・近畿地方(40件)、熊本県(69件)は調査数が少なく、母集団を代表しない可能性があります
  4. 調査対象の偏り。実態調査は回答した所有者・管理会社の実績であり、空室率2.09%という水準は継続的に管理されている物件の集計です。市場全体の空室水準とは一致しません
  5. 資本的支出の実額。修繕積立をGPIの0〜8%としていますが、実際の工事費は建物の構造・築年・仕様・工事時期の建築費水準で変わります
  6. 税金。本記事のDSCRは税引前です。所得税・法人税、減価償却の有無、デッドクロスの影響は織り込んでいません
  7. 出口。売却価格・出口利回り・残債との関係、売却時の譲渡税は対象外です
  8. 金利改定の実務。改定が5年後に一括で起きる前提にしています。実際は短プラ改定の都度、または固定期間満了時に段階的に反映され、返済額据置ルールがある場合は残債側に影響します
  9. 因果関係。地域ごとのNOI率の差は、地域が原因と断定できません。回答物件の構成差を含んでいます

まとめ

返済比率とDSCRは、DSCR=NOI率÷返済比率という恒等式で直接つながっています。この式に立つと、「返済比率50%以内」という経験則が暗黙に置いている前提は「実質NOI率が60.0%以上」であることだと分かります。

全国40,979件の実態調査の一棟・木造データを当てると、返済比率50%が意味するDSCRは1.767倍から1.305倍まで分かれました。修繕積立5%を乗せた上でDSCR1.2を満たす返済比率の上限は50.2%〜69.5%。さらに金利4.0%への改定を想定すると、当初の返済比率は38.9%〜53.8%(全国平均49.4%)まで抑える必要がありました。

そして、同じ返済比率50%はLTV55.0%でも100.6%でも作れ、元本返済割合は67.1%から24.7%まで変わり、金利1ポイント上昇時の返済比率の上昇率は融資期間20年で+7.32%、35年で+14.06%と2倍近く違いました。返済比率は、物件の収益力も、借入の大きさも、資産形成のスピードも、金利耐性も区別していないという結論です。

返済比率は入口の目安として使い、安全度の判断はNOI率を当ててDSCRへ換算してから行う。これが今回の計算から導かれる使い方です。

参考資料・出典

  • IREM JAPAN(全米不動産管理協会日本支部)・公益財団法人日本賃貸住宅管理協会・株式会社LIFULL「第13回(2025年版)全国賃貸住宅実態調査報告書」(有効回答40,979件、調査実施2024年9月〜12月)― NOI率・空室率・運営費率の実データ
    https://irem-japan.org/_assets/noi_files/2025-noi-summary.pdf
  • アットホーム「返済比率」解説 ― 返済比率の計算式と業界で使われる目安水準
    https://www.athome.co.jp/contents/for-owners/toushi-kiso/repayment-ratio/
  • マネクリ(マネックス証券)「【日銀金融政策決定会合】政策金利は1.25%で据え置き」(2026年10月29〜30日開催分)― 政策金利の水準と今後の見方
    https://media.monex.co.jp/articles/-/30417
  • 短期プライムレート水準(2026年11月2日適用 2.625%、2024年9月は1.475%)― 日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」(2026年10月22日更新)を出所とする推移まとめ
    https://lifemoney.info/prime-rate-suii-housing/
  • ローン定数K・残債・返済比率・DSCRの計算は、元利均等返済の計算式により本記事で算出

情報確認日:2026年10月30日

本記事は収益物件の投資判断に使う指標の計算方法を検証したものであり、特定の物件・地域・金融機関の推奨や、投資成果の保証を目的とするものではありません。税務・法務の具体的な取扱いについては、個別に専門家へご確認ください。

この記事をシェアする

この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

分析実績 87件(2026/08/07時点)X(旧Twitter)プロフィールと執筆記事 →