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賃貸併用住宅は一棟アパートより得なのか|損益分岐は自宅の代替家賃が月7.92万円、フラット35では月17.78万円に跳ね上がった

賃貸併用住宅は一棟アパートより得なのか|損益分岐は自宅の代替家賃が月7.92万円、フラット35では月17.78万円に跳ね上がった

賃貸併用住宅は「住宅ローンの低金利で収益物件が買える」と説明されることが多い商品です。たしかに2026年10月時点で、住宅ローンの変動金利は最も低い水準で年1.195%(三菱UFJ銀行)、一方のアパートローンは地方銀行で年1.75〜3.75%が目安とされています。金利差は2pt前後あります。

ただし賃貸併用住宅には構造上の制約があります。住宅ローンを建物全体に使うには、住宅部分の床面積が全体の2分の1以上である必要があります(【フラット35】の要件)。つまり床面積の半分以上は家賃を生みません。

審査基準や資金使途の違いそのものは住宅ローンと不動産投資ローンの違いで整理しています。この記事で見たいのは制度の違いではなく、その金利差が最終的な手残りをどこまで動かすのかです。

そこでこの記事では、同じ土地・同じ建物・同じ総事業費・同じ借入額という条件をそろえたうえで、床面積の使い方と資金調達手段だけを変えて比較しました。比較したのは次の2つです。

  • プランA:賃貸併用住宅(自宅85㎡+賃貸40㎡×2戸)を住宅ローン35年で取得する
  • プランB:同じ建物を一棟アパート(40㎡×4戸)として投資用ローン30年で取得し、自分は別に賃貸住宅を借りる

結論を先に書くと、物件単体の成績ではプランBが10年で950万円有利、家計全体の成績ではプランAが850万円有利という逆転が起きました。そして両者が並ぶ境界は「自宅の代替家賃が月7.92万円」でした。さらに【フラット35】(2026年10月:年3.83%)を選ぶと、その境界は月17.78万円まで跳ね上がり、結論が反転します。

以下、すべて実際に計算した数値で説明します。

この記事で検証した疑問

  • 賃貸併用住宅は、賃貸部分の家賃だけで住宅ローンを返済できるのか
  • 同じ総事業費なら、賃貸併用住宅と一棟アパートのどちらが残るのか
  • 「自宅に住めること」は、金額に換算するといくらの価値なのか
  • 自宅の代替家賃がいくらを下回ると、賃貸併用の優位は消えるのか
  • 住宅ローン金利が何%を超えると、投資用ローンで一棟買うほうが有利になるのか
  • 賃貸併用住宅は売りにくいと言われるが、何%の値引きまで耐えられるのか

前提条件:何を固定し、何を変えたか

この分析は実在物件の統計ではなく、条件を固定した架空ケースのシミュレーションです。金利水準・制度・建築費の水準は公開データを使い、物件条件は後述の考え方で設定しています。

固定条件(両プラン共通)

項目

設定

建物

新築木造3階建て、総床面積165㎡(50坪)

土地

30坪 × 坪60万円 = 1,800万円

建物工事費

50坪 × 坪90万円 = 4,500万円

総事業費

6,300万円

諸費用

総事業費の7.5% = 472.5万円(総投下額6,772.5万円)

借入額

5,700万円(両プラン同額。LTV 90.5%)

自己資金

1,072.5万円(両プラン同額)

賃貸1戸の家賃

40㎡ 1LDK = 月10万円(㎡単価2,500円)

空室・滞納損

5%

運営費

管理5%+修繕積立7%+共用部光熱費等2%(満室賃料比)、固定資産税・都市計画税32万円、火災保険4.5万円

減価償却

木造22年(定額法)

家賃下落

年0.5%

本業の課税所得

700万円(所得税23.483%+住民税10%=33.483%)

出口還元利回り

築10年5.8%、築20年6.8%(経年で年0.1pt拡大)

譲渡費用・譲渡税

売却価格の3.5%、長期譲渡20.315%

自宅と同等の賃貸住宅の家賃

月15万円(85㎡、㎡単価1,765円)

なぜこの規模・この金額にしたのか

物件価格を先に決めてから分析したわけではありません。この記事の分析では、規模は住宅ローンの要件から決まります。

  • 住宅ローンを建物全体に使うには住宅部分が床面積の2分の1以上必要なので、賃貸部分の上限が先に決まる
  • 自宅として成立する最小限(85㎡・3LDK相当)を確保すると、賃貸に回せるのは80㎡=40㎡×2戸になる
  • 総床面積165㎡=50坪が決まり、そこに木造3階建ての工事費水準(坪90万円)と、1LDK 40㎡が月10万円で貸せる立地の土地価格(坪60万円)を当てはめた結果が総事業費6,300万円です

この条件での満室想定表面利回りは、全戸賃貸(プランB)で7.62%(480万円 ÷ 6,300万円)、NOI率73.4%、NOI還元利回り5.59%です。家賃・利回り・借入条件の整合性が取れていることを確認しています。

変更条件

  • 住宅ローン金利:年1.20% / 1.60% / 3.83%(【フラット35】)
  • 投資用ローン金利:年2.50% / 3.00% / 3.50%
  • 保有期間:10年 / 20年
  • 自宅の代替家賃、賃貸部分比率、併用住宅の出口ディスカウント(各逆算で変動)

検証1:賃貸収入だけでは住宅ローンを返せない

まず初年度の返済余力を見ます。プランAの賃貸部分NOIは176.7万円、プランBのNOIは352.3万円です。

プラン

金利・期間

年間返済額

NOI

DSCR

帰属家賃込みDSCR

所得税・住民税

税引後CF

A 賃貸併用

変動1.20%/35年

199.5万円

176.7万円

0.89

1.79

▲15.0万円

▲23.8万円

A 賃貸併用

変動1.60%/35年

212.8万円

176.7万円

0.83

1.68

▲11.3万円

▲33.4万円

A 賃貸併用

フラット35 3.83%/35年

295.9万円

176.7万円

0.60

1.21

+9.3万円

▲96.0万円

B 一棟アパート

投資用2.50%/30年

270.3万円

352.3万円

1.30

-

▲2.3万円

+79.8万円

B 一棟アパート

投資用3.00%/30年

288.4万円

352.3万円

1.22

-

+7.2万円

+71.2万円

B 一棟アパート

投資用3.50%/30年

307.1万円

352.3万円

1.15

-

+16.7万円

+61.9万円

※税額の「+」は損益通算による還付、「▲」は納税。プランAの税引後CFには住宅ローン控除14.0万円を含みます(計算根拠は後述)。「帰属家賃込みDSCR」は、自宅に住むことで支払わずに済む家賃(月15万円=年180万円)をNOIに加算して計算したものです。

結果として、賃貸併用住宅のDSCRは変動1.20%でも0.89、【フラット35】なら0.60です。つまり賃貸部分の家賃だけでは住宅ローンの返済額に届きません。これは失敗の予兆ではなく、床面積の半分以上が収益を生まない構造から当然に出る数字です。賃貸併用住宅の返済は、賃貸収入ではなく本人の給与と「家賃を払わずに済むこと」で成り立っています。

逆にプランBは投資用3.50%でもDSCR 1.15、税引後CFは+61.9万円を確保します。物件単体の返済余力では一棟アパートのほうが明確に強いという結果です。

この表の返済額・DSCR・金利ストレスは、自分の借入額・金利・融資期間を入れればDSCRを自分の条件で計算することができます。賃貸併用を検討する場合は、賃貸部分のNOIだけを入力したDSCRと、帰属家賃を足したDSCRの両方を見ておくと判断がぶれません。

検証2:「物件単体」と「家計」で結論が逆転する

ここが今回の分析の中心です。賃貸併用住宅の損得は、何を成績表に含めるかで答えが変わります。

そこで2つの指標を分けて計算しました。

  • 物件単体の成績:税引後CFの累計+売却手残り-自己資金(自分の住居費は含めない)
  • 家計の成績:上記に住居費を加える。プランAは0円、プランBは自分が払う家賃(月15万円)を差し引く

保有期間

指標

プランA(賃貸併用・変動1.20%)

プランB(一棟アパート・投資用3.00%)

差

10年

物件単体の純増減

▲478万円(IRR ▲4.94%)

+472万円(IRR +4.72%)

Bが950万円有利

Bが支払う家賃累計

0円

▲1,800万円

-

家計の純増減

▲478万円

▲1,328万円

Aが850万円有利

20年

物件単体の純増減

▲451万円(IRR ▲1.94%)

+1,358万円(IRR +5.88%)

Bが1,809万円有利

Bが支払う家賃累計

0円

▲3,600万円

-

家計の純増減

▲451万円

▲2,242万円

Aが1,791万円有利

10年保有の内訳は次のとおりです。

項目

プランA

プランB

税引後CF累計(10年)

▲279万円

+595万円

10年後の売却価格

5,428万円

5,746万円

10年後の残債

4,308万円

4,333万円

譲渡税

57万円

262万円

売却手残り

+873万円

+950万円

注目したいのは譲渡税です。プランAは居住用部分(51.5%)に3,000万円特別控除が使えるため、譲渡益576万円に対して税額は57万円にとどまります。プランBは譲渡益1,291万円に対して262万円です。ただし併用住宅で控除が使えるのは居住用部分だけで、どちらか一方の用途が建物全体のおおむね90%以上でなければ全体には適用されません(国税庁)。

そして物件単体の数字を見ると、プランAは10年でも20年でも物件としては赤字です。賃貸併用住宅は「収益物件」としては成立していません。それでも家計で勝つのは、住居費を払わずに済むからです。

検証3:なぜ逆転するのか──帰属家賃は非課税だから

逆転の理由を1つの比較に絞ると分かりやすくなります。同じ85㎡という床面積を「自分が住む」場合と「貸す」場合で、初年度の手残りを計算しました。

85㎡の使い方

計算

税引後の価値

貸す

満室賃料216.0万円 → 実効収入205.2万円 → 運営費30.2万円 → NOI 175.0万円。減価償却105.4万円を引いた課税所得69.6万円に33.483%課税(23.3万円)

151.7万円

自分が住む

支払わずに済む家賃 月15万円 × 12ヶ月 = 180.0万円。帰属家賃には課税されない

180.0万円

差は年28.3万円、自分が住むほうが有利でした。85㎡を貸せば月18万円(㎡単価2,118円)取れる想定で、自分が借りる同等物件は月15万円としています。つまり「貸したほうが額面では月3万円多い」のに、税引後では住むほうが勝ちます。理由は2つです。

  • 帰属家賃は課税されない。家賃収入は33.483%課税されるが、「家賃を払わずに済む」ことには税がかからない
  • 住宅ローンのほうが金利が低く、期間が長い。借入5,700万円で年1.20%/35年なら年間返済199.5万円、投資用3.00%/30年なら288.4万円。差は年88.9万円

この2つが、賃貸戸数が半分になる不利を上回っていました。一般的な記事で「賃貸併用住宅は家賃収入でローンが返せる」と説明されることがありますが、今回の計算ではDSCR 0.89で返せていません。正確には、返済を助けているのは家賃収入ではなく非課税の帰属家賃と低金利です。

逆算①:自宅の代替家賃は月いくら必要か

ここまでの結果はすべて「自宅と同等の賃貸住宅が月15万円」という前提に依存しています。では、その家賃がいくらを下回ると優位が消えるのか。家計の純増減がプランAとプランBで一致する家賃を逆算しました。

保有期間

プランAの住宅ローン金利

B 投資用2.50%

B 投資用3.00%

B 投資用3.50%

10年

変動1.20%

月9.38万円

月7.92万円

月6.43万円

変動1.60%

月10.83万円

月9.37万円

月7.88万円

フラット35 3.83%

月19.24万円

月17.78万円

月16.29万円

20年

変動1.20%

月8.82万円

月7.54万円

月6.22万円

変動1.60%

月10.09万円

月8.81万円

月7.49万円

フラット35 3.83%

月16.48万円

月15.17万円

月14.09万円

読み方は「この家賃を上回るなら賃貸併用(A)が有利、下回るなら一棟アパート+賃貸住まい(B)が有利」です。

変動1.20%で投資用3.00%と比べる場合、境界は月7.92万円(10年)/月7.54万円(20年)でした。85㎡のファミリー向け賃貸が月8万円を切るエリアなら、賃貸併用住宅を選ぶ金銭的な理由はほぼ消えます。逆に首都圏で同等の賃貸が月15万円以上かかるなら、境界からの余裕は大きいという結果です。

この境界はエリアの家賃水準で決まり、物件価格では決まりません。賃貸併用住宅が「都市部向けの商品」になる理由は、ここに数値で表れています。

逆算②:住宅ローン金利は何%まで許されるか

次に、自宅の代替家賃を月15万円に固定し、プランAがプランBに並ぶ住宅ローン金利を逆算しました。

保有期間

B 投資用2.50%

B 投資用3.00%

B 投資用3.50%

10年

2.72%

3.11%

3.50%

20年

3.06%

3.42%

3.78%

この表はほぼ「投資用ローン金利と同じ水準」を指しています。10年保有で投資用3.50%なら住宅ローンの上限も3.50%、20年保有ではやや余裕が出て3.78%です。つまり賃貸併用住宅の優位は、住宅ローン金利が投資用ローン金利を下回っていることにほぼ全面的に依存しています。保有期間が長いほど上限が緩むのは、35年返済による返済額の軽さと、住居費の節約が積み上がるためです。

ここで問題になるのが【フラット35】です。2026年10月の最低金利は年3.83%で、集計開始以来の最高水準、半年で+1.34ptの上昇でした。これは上の表の上限(10年で3.11%、20年で3.42%)を超えています。実際に計算すると、【フラット35】3.83%を選んだ場合、家計の純増減はプランAが▲1,661万円、プランBが▲1,328万円で、333万円の逆転でした(10年保有・投資用3.00%との比較)。20年保有でも356万円の逆転です。

同じ建物・同じ床面積配分でも、全期間固定を選ぶか変動を選ぶかで結論が反転します。

検証4:変動金利が上がったらどうなるか

賃貸併用住宅の優位が変動金利に依存しているなら、金利上昇時に何が起きるかを見る必要があります。日銀の政策金利は2026年9月18日の決定で1.00%から1.25%へ引き上げられており、上昇局面は続いています。

そこで、6年目から適用金利が上がる3シナリオで20年保有を計算しました(毎年、残存期間で返済額を再計算する方式)。

シナリオ

6年目以降の金利

6年目の年間返済額

6年目の税引後CF

20年の家計純増減

プランBとの差

BASE

1.20%(据置)

199.5万円

▲28.3万円

▲451万円

+1,791万円

STRESS

2.20%

228.9万円

▲49.6万円

▲975万円

+1,266万円

SEVERE

3.20%

260.8万円

▲73.4万円

▲1,526万円

+715万円

金利が2pt上がっても、プランBとの差はプラス715万円が残りました。これは一見意外ですが、理由は単純です。プランBも投資用ローンを借りており、金利上昇は両プランに効きます(この表ではプランBの3.00%を固定しているため、プランA側だけが悪化する厳しめの見方になっています)。一方で住居費の節約(年180万円)は金利と無関係に効き続けます。

ただし注意点があります。SEVEREでは6年目の税引後CFが▲73.4万円まで悪化します。これは毎年73万円を給与から持ち出す状態です。家計の20年トータルで勝っていても、毎年の持ち出しに耐えられなければ保有を継続できません。なお実際の変動金利には5年ルール・125%ルールが適用される商品もあり、返済額の増加は遅れて現れます。その場合は残債の減りが遅くなるという別の負担が生じます。この据置ルールが実際にどこから効き始め、残債がいくら増えるのかは変動金利の返済額据置ルールは投資家を守るのかで金利水準別に逆算しています。

逆算③:併用住宅の出口ディスカウントはどこまで耐えられるか

賃貸併用住宅の弱点としてよく挙げられるのが売却です。買い手は「自宅として住みつつ賃貸経営もしたい実需層」か、「自宅部分を賃貸に転用する投資家」に限られ、どちらにとっても使い勝手が中途半端になります。85㎡の1戸は賃貸としては大きすぎ、㎡単価が落ちます(今回の設定では40㎡×2戸なら月20万円、85㎡×1戸なら月18万円)。

この流動性の低さを「全戸賃貸として評価した収益価格からの値引き率」として変数にし、プランBと並ぶ水準を逆算しました。

保有期間

プランAの住宅ローン金利

B 投資用2.50%

B 投資用3.00%

B 投資用3.50%

10年

変動1.20%

14.0%

17.3%

20.7%

変動1.60%

10.6%

14.0%

17.4%

20年

変動1.20%

37.9%

45.2%

52.7%

変動1.60%

30.7%

38.0%

45.5%

10年保有・変動1.20%・投資用3.00%の組み合わせでは、許容できる値引きは17.3%でした。売却価格が5,428万円から4,489万円まで落ちると優位が消えます。これは「2割引けば終わり」という水準で、決して広い余裕ではありません。

一方で20年保有なら許容値引きは45.2%まで広がります。理由は、住居費の節約が20年で3,600万円積み上がり、売却時の差を吸収してしまうからです。

ここから言えるのは、賃貸併用住宅の流動性リスクは「早く売るつもりがあるかどうか」でほぼ決まるということです。10年以内の売却を想定するなら値引き2割で優位が消え、20年持つ前提なら値引きはほぼ問題になりません。買い手が何年のローンを組めるかで売却価格の天井が決まる点は、収益物件一般と同じ構造です(売却価格の天井は「買い手が何年借りられるか」で決まる)。

逆算④:賃貸部分は床面積の何%必要か

最後に、自宅を広く取りすぎた場合を確認します。賃貸部分比率を変えて、家計の純増減を比較しました(10年保有、変動1.20%対投資用3.00%)。

賃貸部分比率

賃貸面積

満室賃料(年)

Aの家計純増減

Bとの差

20.0%

33.0㎡

99.0万円

▲1,362万円

▲34万円

30.0%

49.5㎡

148.5万円

▲1,048万円

+279万円

40.0%

66.0㎡

198.0万円

▲738万円

+589万円

48.5%(上限付近)

80.0㎡

240.0万円

▲478万円

+850万円

損益分岐となる賃貸部分比率は21.1%(10年)/18.7%(20年)でした。住宅ローンの要件上限である50%に対してかなり低く、賃貸比率は実務上の制約になりにくいという結果です。言い換えると、自宅を広く取ることの機械的な不利よりも、金利差と帰属家賃の効果のほうが大きいということになります。

ただし20%前後では賃貸面積が33㎡で、現実には1戸分にしかなりません。1戸だけの賃貸は空室時に収入がゼロになり、空室率を平均値で扱えなくなります。比率として成立しても、リスク分散の面では別の問題が残ります。

結果から分かること

  1. 賃貸併用住宅は収益物件としては成立していない。賃貸部分のDSCRは変動1.20%でも0.89、物件単体の純増減は10年▲478万円・20年▲451万円でいずれも赤字でした。
  2. それでも家計では勝つ。10年で850万円、20年で1,791万円プランBを上回りました。源泉は家賃収入ではなく、非課税の帰属家賃(同じ85㎡で年28.3万円の差)と、住宅ローンの低金利・長期(年88.9万円の返済差)です。
  3. 損益分岐はエリアの家賃水準で決まる。自宅の代替家賃が月7.92万円(10年・変動1.20%対投資用3.00%)を下回ると優位は消えます。物件価格ではなく家賃相場が判断軸です。
  4. 優位は変動金利に依存している。許容できる住宅ローン金利の上限は3.11%(10年)/3.42%(20年)で、2026年10月の【フラット35】3.83%はこれを超えます。全期間固定を選ぶと333〜356万円の逆転でした。
  5. 流動性リスクは保有期間で変わる。許容できる売却ディスカウントは10年で17.3%、20年で45.2%。早期売却を前提にするほど併用住宅の売りにくさが効きます。
  6. 賃貸比率は制約になりにくい。損益分岐は21.1%で、住宅ローン要件の上限50%に対して余裕があります。

なお、物件単体ではプランAが赤字、プランBも10年IRR+4.72%にとどまります。これは新築を総事業費の90.5%の借入で取得し、新築プレミアムの消えた価格で売る構造から来るもので、両プランに共通して効いています。賃貸併用住宅に固有の問題ではありません。同じ予算で区分と一棟のどちらが残るかという比較は区分6戸と木造一棟、同じ予算ならどちらが残るかで検証しています。

投資判断への使い方

この分析を自分のケースに当てはめる手順は次のようになります。

  1. 自宅の代替家賃を調べる。「自分が必要な広さ・間取りの賃貸住宅を、同じエリアで借りたら月いくらか」をポータルサイトで確認します。これが最初の判断軸です。月8万円を下回るなら、賃貸併用を選ぶ金銭的根拠は弱くなります。
  2. 住宅ローンの金利タイプを先に決める。全期間固定で3.8%前後なら、賃貸併用の優位はほぼ消えます。変動を選ぶなら、金利が3%台に乗ったときの持ち出し額を事前に確認しておきます。
  3. 保有期間を先に決める。10年以内に売る可能性があるなら、売却時の値引き余裕は2割しかありません。自宅でもあるため「価格が悪いから売らない」という選択が取りにくい点も考慮が必要です。
  4. 賃貸部分のDSCRを単独で確認する。1.0を下回るのは構造上当然ですが、どこまで下回っているかは把握しておくべきです。転勤・離婚・相続などで自宅部分に住めなくなった場合、賃貸収入だけで返済する局面が来る可能性があります。
  5. 住宅ローン控除の金額を実額で確認する。今回は居住用部分に対応する借入2,936万円に対し、省エネ基準適合住宅(新築・一般)の限度額2,000万円が適用され、年14.0万円としました。ZEH水準なら限度額3,500万円で年20.6万円まで増えます。性能等級の選択が控除額を直接動かします。

審査基準・融資期間・自己資金とDSCRの関係をまとめて確認したい場合は不動産投資ローン完全ガイドを、頭金の厚さが手残りをどう変えるかは不動産投資の自己資金はいくら必要かを参照してください。

今回の試算では借入5,700万円・金利1.20%・35年を基準にしていますが、実際の借入額・金利・融資期間・運営費によって結果は大きく変わります。自分の条件で35年分の収支と損益分岐空室率・損益分岐金利まで確認したい場合は、キャッシュフローを自分の条件で試算することができます。賃貸併用住宅を入力する場合は、賃貸部分の家賃だけを「満室想定年間家賃」に入れ、別途「自宅の代替家賃」を手計算で加えて比較してください。

また、収益性・融資・リスク・出口戦略をまとめて見たい場合は、複数の条件を同時に動かす必要があります。RE-AIではこうした複数条件をまとめて確認できるよう設計していますが、賃貸併用住宅のように自宅部分の帰属家賃が判断を左右するケースでは、エリアの家賃相場という前提を自分で決める必要があります。どのツールでも、その前提が間違っていれば結論も変わります。

この分析で分からないこと

今回の結果は固定した条件の上でのみ成立します。次の点は検証できていません。

  • 実際の融資条件。賃貸併用住宅への住宅ローン適用は金融機関ごとに扱いが異なり、賃貸部分の割合制限、賃料収入を返済原資に算入するか、金利の上乗せの有無などは個別判断です。今回は【フラット35】の「住宅部分が床面積の2分の1以上」を基準に置きました。
  • 入居者と同居することの影響。騒音・プライバシー・クレーム対応の距離の近さは数値化していません。退去率や管理の手間に影響する可能性があります。
  • 自宅を手放せないという制約。一棟アパートなら価格が悪い年は売却を見送れますが、賃貸併用住宅は住み続ける前提があるため、出口の自由度が低くなります。この機会費用は計算に入っていません。
  • 転勤・ライフステージの変化。自宅部分に住まなくなった場合、住宅ローンの要件や住宅ローン控除の適用が変わる可能性があります。
  • 建物の個別性。間取りの効率、設備グレード、遮音性能、周辺の競合供給は反映していません。木造3階建ての構造計算・準耐火要件によるコスト差も坪単価の中に丸めています。
  • 税務条件。本業の課税所得700万円を固定しており、所得が大きく異なれば損益通算の効き方と結論は変わります。減価償却の建物・設備按分も行っていません。
  • 出口時点の市場環境。出口還元利回りを築10年5.8%、築20年6.8%と置いていますが、実勢は立地と市況で動きます。併用住宅のディスカウント率については公的な統計がなく、今回は変数として扱いました。
  • 相関と因果。「変動金利が低いから賃貸併用が有利」という関係は、今回の条件設定の上での計算結果です。金利以外にも、建築費水準、エリアの家賃水準、本人の所得など複数の条件が同時に効いています。

まとめ

賃貸併用住宅は、収益物件として見ると成立していません。賃貸部分のDSCRは0.89で返済に届かず、物件単体の純増減は10年で▲478万円でした。同じ総事業費で一棟アパートを買えば、物件単体では950万円有利になります。

それでも家計全体では850万円(20年なら1,791万円)勝ちました。勝っている理由は家賃収入ではなく、非課税の帰属家賃と、住宅ローンの低金利・長期です。

したがって賃貸併用住宅は「投資」と「住居費の削減」が混ざった商品であり、判断軸も2つに分かれます。収益性だけを見れば一棟アパートが上、住居費を含めればエリアの家賃水準が結論を決めます。境界は自宅の代替家賃が月7.92万円、住宅ローン金利が3.11%、売却ディスカウントが17.3%(いずれも10年保有・投資用3.00%との比較)でした。

「この条件なら買い」と言える分析ではありません。今回の条件では住居費の削減効果が収益性の不足を上回りましたが、その優位は変動金利と都市部の家賃水準という2つの前提に強く依存しており、どちらが崩れても結論は反転します。

参考資料・出典

情報確認日:2026年10月17日

  • 住宅金融支援機構【フラット35】「対象となる住宅・技術基準」(併用住宅の住宅部分は床面積の2分の1以上、住宅部分の床面積要件)https://www.flat35.com/loan/tech.html
  • 【フラット35】借入要件(借入限度額8,000万円、購入価額1億円以下、融資期間15〜35年、完済時年齢80歳)/ノムコム「フラット35の借入要件」https://www.nomu.com/loan/knowledge/kind02_01.html
  • 2026年10月の【フラット35】最低金利 年3.83%(返済期間21〜35年、集計開始以来の最高水準、半年で+1.34pt)/熊本日日新聞https://kumanichi.com/articles/2041676
  • 2026年10月の住宅ローン変動金利(三菱UFJ銀行1.195%、メガバンク平均1.332%、ネット銀行平均1.598%、地方銀行平均1.505%、10年固定メガバンク平均4.033%)および日銀政策金利1.25%(2026年9月18日引上げ)/モゲチェックhttps://mogecheck.jp/articles/show/51rzNy7XEJ5o4mQ6ZkVv
  • アパートローン金利の目安(2026年9月時点:メガバンク1.75〜2.5%、地方銀行1.75〜3.75%、信用金庫2.25〜4.25%、ノンバンク3.5〜5.5%、日本政策金融公庫1.1〜2.2%)https://riel.co.jp/blog/bank2026/
  • 住宅ローン控除(令和8年入居:控除率0.7%、新築13年・中古10年、省エネ基準適合住宅の借入限度額2,000万円/ZEH水準3,500万円、床面積40㎡以上、合計所得2,000万円以下、店舗併用は床面積の2分の1以上が居住用)https://kmp.or.jp/jutaku-loan-koujo/
  • 国税庁 タックスアンサー No.3455「店舗併用住宅を買い換えた場合の特例」(居住用部分の計算、おおむね90%以上なら全体を一用途として扱える)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3455.htm
  • 国税庁 タックスアンサー No.3452「店舗併用住宅を売ったときの特例」(居住用部分の計算方法)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3452.htm

本記事の金額・利回り・IRR・DSCRは、上記の公開データを前提条件として用いたうえで、架空ケースを設定して計算した条件付きシミュレーションです。実在物件の統計や実績値ではありません。また税制・金利は時点で変わるため、実際の判断では最新の制度と金融機関の条件をご確認ください。税務の個別判断については税理士等にご相談ください。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

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