
検討中のエリアの「空室率」を検索すると、サイトによって数値が大きく違うことがあります。実は「空室率」という言葉には複数の定義があり、混同したまま収益物件の収支計算に使うと、DSCRやキャッシュフローの見積もりを誤ります。本記事では、総務省の公的統計を使ったエリア空室率の調べ方と、投資判断への反映方法を整理します。
不動産投資の記事や物件情報サイトで見かける「空室率」は、実は少なくとも3種類に分かれます。どれを見ているのかを意識しないまま比較すると、同じエリアでも「空室率5%」と「空室率20%」という正反対の情報にたどり着くことがあります。
種類 | 内容 | 主な出典 |
|---|---|---|
総数空き家率 | 売却用・二次的住宅(別荘等)・賃貸用をすべて含む空き家の割合 | 総務省統計局「住宅・土地統計調査」 |
賃貸用空き家率 | 賃貸用の空き家 ÷(賃貸用の空き家+居住中の借家)で算出。投資判断に近い指標 | 総務省統計局「住宅・土地統計調査」 |
募集ベースの体感空室率 | ポータルサイトに掲載中の募集物件数をもとにした指標。分母の定義はサイトごとに異なる | 各不動産ポータル |
投資判断に使うべきなのは、原則として「賃貸用空き家率」です。総数空き家率には、そもそも賃貸に出す予定のない空き家(相続後放置された家、別荘など)が含まれるため、地域によっては実際の賃貸市場の需給よりも高く出ることがあります。
賃貸用空き家率は、政府統計の総合窓口「e-Stat」で市区町村単位まで確認できます(人口規模の小さい町村は都道府県データへの集約となる場合があります)。
人口の少ない町村では市区町村単位のデータが公表されていないことがあります。その場合は都道府県の数値で代用しますが、これはあくまで参考値です。同じ都道府県内でも、駅前と郊外では賃貸需要が大きく異なるため、「都道府県の数値がそのままその物件の周辺環境を表すわけではない」という前提を忘れないようにしてください。
不動産ポータルサイトの中には、エリアごとの空室率をグラフやヒートマップで見せてくれるものもあり、手軽に確認できる点は有用です。ただし、これらの多くは「現在募集中の物件数」を基準にした指標であり、分母となる総戸数の定義や集計方法がサイトごとに異なります。また、更新頻度も公的統計とは異なるため、同じエリアでも数値が一致しないことがあります。
公的統計と民間ポータルの数値、どちらか一方だけを信じるのではなく、「公的データで市場全体の水準を確認し、ポータルで直近の募集状況を補足する」という役割分担で使うと、情報の性質を混同せずに済みます。
以下は、賃貸用空き家率の考え方を収支計算に落とし込む際の理解を助けるために単純化した架空例です。実在の物件・エリアのデータではありません。
初めて地方都市の中古アパートを検討する個人投資家が、価格2,300万円・築10年前後の木造アパート(想定表面利回り9.5%、満室想定家賃218.5万円/年)を検討しているケースを想定します。自己資金800万円、借入1,500万円・金利2.8%、融資期間は簡便法による残存耐用年数の目安から18年としました。運営費(空室以外の管理費・修繕費・税金等)は満室家賃の22%と仮定します。
調べたエリアの賃貸用空き家率を、そのまま物件の空室率としてDSCRに反映させると、次のようになります。
空室率 | 実効家賃収入 | NOI | DSCR | 年間キャッシュフロー |
|---|---|---|---|---|
10% | 約197万円 | 約149万円 | 1.40倍 | 約42万円 |
18% | 約179万円 | 約131万円 | 1.23倍 | 約25万円 |
25% | 約164万円 | 約116万円 | 1.09倍 | 約10万円 |
この架空例では、エリアの賃貸用空き家率が10%から25%に上がるだけで、DSCRは金融機関の目安とされる1.2倍を下回り、年間キャッシュフローも大きく圧縮されます。DSCRの考え方そのものについては「不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例」で詳しく解説しています。自分の物件条件で試算したい場合は、RE-AIのDSCR計算ツール(無料)に借入額とNOIを入力すると、その場でDSCRを確認できます。
なお、金利上昇と空室率の悪化が同時に起きた場合の影響については「金利上昇×空室率、同時に悪化したらキャッシュフローはどこまで減る?」でも試算していますので、あわせて確認してみてください。
賃貸用空き家率は「現時点の需給バランス」を表す指標であり、将来の需要変化までは教えてくれません。同じ空き家率のエリアでも、人口が増加傾向にあるのか、減少傾向にあるのかで、5年後・10年後の空室リスクは変わってきます。人口と世帯数のどちらを見るべきかについては「賃貸需要を人口で見るか世帯数で見るかで、30年IRRは最大3.07pt変わる」で試算しています。また、人口減少エリアでも成立する購入価格の考え方は「人口減少エリアでも成立する購入価格を逆算する」で解説しました。賃貸需要の調べ方全体を体系的に確認したい場合は「賃貸需要の調べ方完全ガイド」もあわせてご覧ください。
RE-AIのエリア分析機能は、総務省統計局の住宅・土地統計調査から賃貸用空き家率を取得し、売却用・二次的住宅を含む総数空き家率とは区別して扱っています。市区町村のデータが取得できない場合は都道府県データへ、それも取得できない場合は「データなし」として扱い、推測値を実測値のように見せない設計になっている点も、本記事で説明した「どの空室率を見ているかを区別する」という考え方と重なります。物件情報を入力して、自分が検討しているエリアの賃貸用空き家率と需要スコアを確認したい場合は、登録不要の無料診断から試すことができます。
エリアの空室率を調べる際は、「総数空き家率」「賃貸用空き家率」「ポータルの募集ベース空室率」という3種類の数字を区別することが出発点になります。投資判断に使うなら、総務省統計局の住宅・土地統計調査による賃貸用空き家率を基本とし、ポータルサイトの情報は直近の募集状況を補足する位置づけで使うと、数字の性質を混同せずに済みます。調べた空室率は、DSCRやキャッシュフローの試算に反映させて初めて、購入判断に使える情報になります。
参考資料・出典:総務省統計局「住宅・土地統計調査」(e-Stat、2023年調査)。情報確認日:2026年8月24日。制度や統計は今後改定・更新される可能性があるため、最新の数値は必ずe-Stat等の一次情報でご確認ください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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