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リスク・契約

レントロールの契約日が揃った満室アパートは何%値引けば引き合うのか|平均CFは不変でも最低年CFは73.7%減、必要値引きは5.27%だった

レントロールの契約日が揃った満室アパートは何%値引けば引き合うのか|平均CFは不変でも最低年CFは73.7%減、必要値引きは5.27%だった

満室のレントロールを渡されたとき、多くの投資家が確認するのは賃料と空室の有無です。しかし、その一覧の「契約日」や「入居日」の列が同じ月に揃っていた場合、その物件は数字の上では満室でも、将来の退去が特定の月に同期する構造を抱えています。日本の賃貸借契約は2年更新が一般的で、退去は更新のタイミングに集まりやすいからです。

本記事では、戸数・平均居住期間・期待空室率をすべて揃えたうえで、既存入居者の契約開始月が揃っているかどうかだけを変えて、10年間の月次キャッシュフローをモンテカルロ試算しました。結論を先に書くと、契約日の集中は10年累計キャッシュフローの平均をほとんど変えません。変わるのは下振れだけで、最低年CFの平均は22.8万円から6.0万円へ約74%減り、同時に空室となる戸数は2.88戸から4.26戸へ増えました。そして、この下振れを分散型と同じ水準に戻すために必要な値引きは、集中する月によって1.46%〜5.27%に分かれました。

この記事で検証した疑問

  • レントロールの契約日が揃っている物件は、分散している物件と比べて何がどれだけ悪いのか
  • 同月契約が何戸を超えると、投資判断を変えるべきなのか
  • 集中している「月」によって結果は変わるのか
  • 次の更新までの残り月数が短い時期に買うと、何が起きるのか
  • 集中の影響は何年続くのか
  • 同じ安全度で持つには、いくら値引くか/手元資金をいくら厚くする必要があるのか

なお、レントロール自体の読み方はレントロールの見方|賃料のばらつきや入居日の偏りが意味するリスクを読み解くで整理しています。本記事は、そこで「偏りはリスク」と書いた部分を実際に数値化したものです。

なぜ契約日が揃うと退去が重なるのか

契約日が揃う物件には、いくつか典型的な経緯があります。新築時に一斉に入居付けをした物件、サブリース契約が解除されて入居者と直接契約を結び直した物件、売却前に業者が短期間で満室にした物件などです。

ここで効いてくるのが更新サイクルです。普通借家契約の多くは2年更新で、退去の意思決定は更新通知を受け取った時点に集まりやすくなります。つまり契約開始月が同じ住戸は、24ヶ月ごとに同じ月へ退去リスクが戻ってくることになります。退去が重なれば、原状回復も募集も同時に発生し、空室期間が並行します。平均で見れば同じ空室率でも、その年のキャッシュフローは一点に集中して削られます。

本試算では、この仕組みを次のモデルで表現しました。

  • 入居中の住戸は、24ヶ月ごとの更新月に確率34.1%で退去する
  • それ以外の月は、月あたり0.8%の確率で中途退去する
  • この設定で平均居住期間は48.0ヶ月(4.0年)になり、全退去のうち63.1%が更新月に発生する

退去した住戸は、原状回復と募集を経て新しい契約が始まり、そこから新しい24ヶ月サイクルが始まります。したがって集中は時間とともに崩れていきます。その崩れ方の速さも後半で計測しました。

分析の前提条件

使用した数値は、出所によって次の4種類に分けて扱っています。【公開データ】は公的機関・業界一次資料から取得した値、【設定値】は分析のために筆者が置いた条件、【シミュレーション】はその条件から計算した結果です。RE-AIの診断実績データは本記事では使用していません(架空の条件付きシミュレーションです)。

物件・融資条件(固定)

項目

設定

根拠

物件種別

木造一棟アパート・1K単身向け・10戸

【設定値】契約日の集中が意味を持つ規模として、同月契約戸数を1戸刻みで動かせる10戸に設定

物件価格

9,079万円

【公開データ】健美家「収益物件市場動向四半期レポート」2026年7〜9月期の一棟アパート全国平均価格

表面利回り

7.91%

【公開データ】同レポートの一棟アパート全国平均表面利回り

満室年収

718.1万円(月額59,846円/戸)

【シミュレーション】価格×表面利回りから逆算

運営費

管理委託料5%(実収入)+固定運営費が満室年収の13%

【設定値】満室時NOI率82.00%。IREM JAPAN/日管協「全国賃貸住宅実態調査」2025年版の一棟木造NOI率81.62%と同水準

借入条件

LTV80%(7,263.2万円)・金利3.0%・25年元利均等

【設定値】短期プライムレートが2026年11月2日適用で2.625%となった局面を踏まえ、一棟木造向けの提示水準として3.0%

年間返済額

413.3万円(月344,429円)

【シミュレーション】満室時DSCR 1.425

自己資金

2,451.3万円(頭金20%+諸費用7%)

【シミュレーション】

平均居住期間

4.0年

【設定値】日管協短観の全国単身3年3ヶ月と、IREM JAPAN 2025年版の区分単身向け5.1年の間に設定

入替コスト

原状回復12万円+広告料1ヶ月分

【設定値】1K単身向けの想定

新規募集賃料

年0.5%下落(継続入居は据置)

【設定値】

出口

10年後に表面8.41%(取得時+0.5pt)で売却、売却費用4%

【設定値】

試行回数

各条件20,000〜40,000回

【シミュレーション】

募集期間の季節性

退去が重なる影響は、その月に募集しやすいかどうかで変わります。そこで総務省「住民基本台帳人口移動報告」月報の2025年各月の市区町村間移動者数から季節指数を作り、募集期間を月ごとに変えました。2025年の実数では3月が905,179人、11月が309,853人で、3月は11月の2.92倍です。

暦月

移動者数(2025年・人)

季節指数(年平均=100)

設定した募集期間(ヶ月)

1月

327,312

75.7

2.67

2月

357,056

82.5

2.52

3月

905,179

209.3

1.31

4月

683,859

158.1

1.60

5月

382,823

88.5

2.40

6月

371,648

85.9

2.45

7月

398,417

92.1

2.33

8月

348,602

80.6

2.56

9月

367,877

85.0

2.46

10月

379,751

87.8

2.41

11月

309,853

71.6

2.78

12月

358,171

82.8

2.51

募集期間は「基準2.2ヶ月×(年平均移動者数÷当月移動者数)の0.7乗」で算出し、1.0〜4.0ヶ月の範囲に収めています。弾性値0.7は【設定値】です。退去月と募集期間の関係そのものは退去が3月か8月かで、年間キャッシュフローは22万円違うで単独に検証しています。

この前提でシミュレーションを回すと、実効空室率は5.0〜5.7%になりました。IREM JAPAN 2025年版が示す一棟木造の空室率2.09%より高く出ますが、これは原状回復期間と募集期間をすべて空室として計上しているためで、管理会社ベースの時点空室率とは定義が異なります。

結果① 集中度を変えると何が変わるか

まず、集中する暦月と購入タイミングの影響を取り除くため、集中グループの契約開始月と前回更新からの経過月数を試行ごとに一様乱数で振り、集中度だけを0戸から10戸まで1戸刻みで変えました。

同月契約戸数
(10戸中)

最低年CF
平均

最低年DSCR
平均

DSCR1.0割れ
確率

最大同時
空室戸数

必要手元資金
(95%点)

0戸(完全分散)

22.8万円

1.055

20.4%

2.88戸

21.3万円

1戸

22.4万円

1.054

21.0%

2.88戸

21.3万円

2戸

22.2万円

1.054

21.1%

2.91戸

21.3万円

3戸

21.6万円

1.052

21.9%

2.97戸

21.9万円

4戸

19.9万円

1.048

23.6%

3.09戸

27.3万円

5戸

18.4万円

1.045

25.3%

3.23戸

32.8万円

6戸

16.6万円

1.040

27.5%

3.39戸

42.5万円

7戸

14.2万円

1.034

29.6%

3.60戸

46.6万円

8戸

12.1万円

1.029

32.5%

3.80戸

57.1万円

9戸

8.7万円

1.021

36.5%

4.04戸

63.4万円

10戸(全戸同月)

6.0万円

1.015

39.6%

4.26戸

73.6万円

注目すべきは、ここに載っていない数字です。10年累計キャッシュフローの平均は、同月契約0戸で923.8万円、10戸で925.4万円。どの集中度でも923.7〜925.4万円の範囲に収まり、実質的に差がありません。平均居住期間も期待空室率も同じなのですから、長期の平均値が同じになるのは当然です。

差が出るのは分布の形だけです。最低年CFの平均は22.8万円から6.0万円へ73.7%減り、その年のDSCRが1.0を下回る確率は20.4%から39.6%へ1.94倍になりました。同じ平均リターンを、より深い谷を通って受け取ることになります。

この「平均は同じで下振れだけ悪化する」という形は、同じ戸数を1棟に集中させるか2棟に分けるかを検証した収益物件は1棟集中か2棟分散かと似ています。ただし原因は別です。あちらは物件間の空室相関、こちらは同一物件内で退去タイミングが更新サイクルに同期することです。戸数そのものの効果については「空室率5%」は平均値でしかないで検証しており、本記事は戸数を10戸に固定したうえでタイミングの揃い方を見ています。

結果② 同時に空く戸数の分布

最大同時空室戸数は平均値だけでは実感が湧かないため、分布を見ます。10年間で一度でも何戸同時に空いたかの構成比です。

同時空室戸数の最大値

完全分散

10戸11月集中

2戸

27.5%

2.5%

3戸

57.7%

22.6%

4戸

13.5%

36.1%

5戸

1.2%

25.1%

6戸

0.1%未満

10.5%

7戸

-

2.7%

完全分散では10年間を通じて4戸以上が同時に空く確率は14.7%にとどまりますが、全戸同月契約では74.4%に達します。5戸以上(稼働率50%以下)が38.3%、6戸以上が13.2%です。10戸のうち6戸が同時に空く月は、賃料収入が満室時の4割になります。

結果③ 集中する「月」で平均も変わる

集中度だけでは平均は変わりませんでした。しかし集中する暦月を固定すると、話が変わります。退去が毎回同じ月に戻ってくるため、その月の募集環境が繰り返し効くからです。

ケース

10年累計CF

最低年CF平均

最低年DSCR

DSCR1.0割れ

最も厳しい12ヶ月のCF

完全分散(参照)

923.0万円

22.5万円

1.055

20.8%

+1.4万円

10戸・3月集中

968.6万円

16.9万円

1.041

27.7%

▲4.6万円

10戸・4月集中

946.1万円

11.8万円

1.029

32.8%

▲10.5万円

10戸・1月集中

930.1万円

6.1万円

1.015

39.0%

▲16.6万円

10戸・8月集中

915.2万円

3.4万円

1.008

41.8%

▲19.3万円

10戸・11月集中

907.4万円

1.1万円

1.003

42.9%

▲22.3万円

3月集中は10年累計CFが968.6万円で、完全分散より45.6万円多くなりました。繁忙期に退去が集まるため募集期間が1.31ヶ月で済み、同時空室の増加を募集スピードが打ち消すからです。一方11月集中は907.4万円で、分散より15.6万円少ない。3月集中と11月集中の差は10年で61.2万円です。

ただし3月集中でも下振れは悪化しています。最低年CFは16.9万円で分散の22.5万円より少なく、DSCR1.0割れ確率は27.7%で分散の20.8%を上回ります。繁忙期集中は平均を助けるが、谷を埋めるわけではないということです。

結果④ 「次の更新まで何ヶ月か」で初年度が決まる

集中物件を買うとき、前回の更新からどれだけ経っているかは選べる情報です。レントロールの契約日から逆算できます。10戸すべてが3月契約の物件で、購入時点の経過月数を変えました。

購入時点の経過月数
(次の更新まで)

1年目CF

2年目CF

3年目CF

最低年CF平均

必要手元資金
(95%点)

0ヶ月(更新直後/24ヶ月後)

147.8万円

95.5万円

116.6万円

31.7万円

3.4万円

6ヶ月(18ヶ月後)

148.0万円

70.6万円

137.6万円

15.4万円

3.4万円

12ヶ月(12ヶ月後)

91.9万円

122.3万円

107.5万円

25.1万円

3.4万円

18ヶ月(6ヶ月後)

65.8万円

145.2万円

69.4万円

12.8万円

56.2万円

23ヶ月(1ヶ月後)

62.5万円

145.3万円

65.3万円

7.7万円

112.8万円

更新直後に買えば1年目CFは147.8万円。更新が1ヶ月後に迫った時期に買うと62.5万円で、2.36倍の差が出ます。より深刻なのは必要手元資金です。更新までの残りが6ヶ月以内になると、キャッシュフローが積み上がる前に入替コストと空室が一度に来るため、95%点の必要手元資金は3.4万円から56.2万円、さらに112.8万円へ跳ね上がります。約33倍です。

これは「集中物件は買ってはいけない」という話ではありません。更新時期が分かっていれば、購入時に手元資金を厚くするか、決済時期をずらすかという対応が取れます。購入後の手元資金の水準そのものは購入後の手元資金は家賃の何ヶ月分必要かで別途逆算しています。

結果⑤ 集中の影響は何年続くか

退去した住戸は新しい契約開始月を持つため、集中は時間とともに崩れます。年別の最大同時空室戸数で崩れ方を測りました。

保有年

完全分散

10戸同月集中

差

1年目

1.54戸

1.98戸

+0.44戸

2年目

1.64戸

2.26戸

+0.62戸

3年目

1.63戸

2.10戸

+0.47戸

4年目

1.65戸

2.06戸

+0.41戸

5年目

1.63戸

1.91戸

+0.28戸

6年目

1.65戸

1.88戸

+0.23戸

7年目

1.64戸

1.79戸

+0.15戸

8年目

1.64戸

1.79戸

+0.15戸

9年目

1.63戸

1.73戸

+0.10戸

10年目

1.65戸

1.74戸

+0.09戸

差のピークは2年目(+0.62戸)で、最初の更新が来るタイミングに一致します。その後は5年目で+0.28戸(ピークの45%)、10年目で+0.09戸(同15%)まで縮みます。集中は自然に解消する一時的なリスクであり、影響が大きいのは最初の3〜4年に集中しているということです。逆に言えば、融資を引いた直後でキャッシュフローの蓄積がない時期に、最も強い形で来ます。

結果⑥ 融資条件は増幅器として働く

ここが本試算でもっとも意外だった点です。LTVと金利を変えて、集中による最低年CFの悪化幅を測りました。

LTV

金利

最低年CF(完全分散)

最低年CF(10戸11月集中)

差

DSCR1.0割れ確率(分散→集中)

70%

2.5%

94.0万円

72.4万円

21.6万円

0.5%→3.6%

70%

3.0%

74.4万円

52.8万円

21.6万円

1.6%→9.5%

70%

3.5%

54.3万円

32.7万円

21.6万円

4.8%→16.3%

80%

2.5%

45.1万円

23.5万円

21.6万円

7.5%→26.4%

80%

3.0%

22.8万円

1.2万円

21.6万円

20.6%→42.7%

80%

3.5%

▲0.2万円

▲21.8万円

21.6万円

46.9%→71.0%

90%

2.5%

▲3.8万円

▲25.4万円

21.6万円

51.3%→73.9%

90%

3.0%

▲28.9万円

▲50.5万円

21.6万円

84.7%→93.8%

90%

3.5%

▲54.8万円

▲76.4万円

21.6万円

98.7%→99.5%

金額で見ると、集中によるペナルティは9通りすべてで年21.6万円でした。契約日の集中はNOI側の下振れを変えるだけで、返済額には何の影響も与えないため、差額は融資条件によらず一定になります。

しかし確率で見ると全く違います。同じ21.6万円の下振れが、LTV70%・金利2.5%なら0.5%→3.6%の話で済み、LTV80%・金利3.0%では20.6%→42.7%になり、LTV90%では「どちらでも高確率で返済を下回る」という領域に入ります。契約日の集中そのものはNOIの問題で、それが致命傷になるかどうかは融資条件が決めているという構造です。

なお、基準ケース(LTV80%・金利3.0%)でも完全分散で20.6%の確率でDSCR1.0を割っています。これは表面7.91%・金利3.0%・25年という2026年の条件自体がかなりタイトであることを示しており、契約日の集中以前の問題として読む必要があります。

逆算 いくら値引けば、いくら持てば引き合うのか

では集中物件を分散物件と同じ下振れ水準で持つには、何が必要か。最低年CFの平均を完全分散と同じ22.6万円に戻す購入価格を逆算しました。

ケース

必要値引き率

必要値引き額

購入価格

表面利回り

必要利回りプレミアム

10戸・3月集中

1.46%

132万円

8,947万円

8.03%

+0.12pt

6戸・11月集中

2.11%

192万円

8,887万円

8.08%

+0.17pt

10戸・11月集中

5.27%

479万円

8,600万円

8.35%

+0.44pt

値引きではなく手元資金で備える場合は、次の水準になります。

ケース

必要手元資金(平均)

95%点

99%点

最も厳しい12ヶ月のCF(平均)

完全分散

3.0万円

21.3万円

45.0万円

+1.5万円

10戸・3月集中

8.8万円

59.8万円

98.1万円

▲5.0万円

10戸・11月集中

12.5万円

81.1万円

132.9万円

▲22.4万円

11月集中の物件を分散物件と同じ安心感で持つには、479万円の値引きか、約60万円の追加手元資金(95%点ベースで21.3万円→81.1万円)のどちらかが必要という計算になります。値引き479万円に対して追加手元資金60万円という差は大きく、交渉が通らない場合でも手元資金の厚みで実務的に対応できる余地があることを示しています。ただし手元資金は下振れを吸収するだけで、失ったキャッシュフローを取り戻すわけではありません。

結果から分かること

  • 平均では差が出ない。同月契約0戸と10戸で、10年累計CFの平均は923.8万円と925.4万円。レントロールの契約日が揃っていても、長期平均の収益性は変わらない。収支表を作っても差は見えない。
  • 差は谷の深さに出る。最低年CFは22.8万円→6.0万円(▲73.7%)、DSCR1.0割れ確率は20.4%→39.6%(1.94倍)、最大同時空室戸数は2.88戸→4.26戸。
  • 警戒ラインは同月契約4戸(40%)から。3戸までは必要手元資金が21.3〜21.9万円でほぼ横ばいだが、4戸で27.3万円、6戸で42.5万円(2.0倍)、10戸で73.6万円(3.5倍)と加速する。
  • 集中する月で平均も動く。3月集中は分散より10年CFが45.6万円多く、11月集中は15.6万円少ない。両者の差は61.2万円。ただし繁忙期集中でも下振れは分散より悪い。
  • 最も効くのは購入タイミング。次の更新まで6ヶ月以内の時期に買うと、95%点の必要手元資金が3.4万円から56.2〜112.8万円へ、約17〜33倍になる。
  • 影響は最初の3〜4年に集中する。同時空室戸数の差はピークが2年目(+0.62戸)、5年目で45%、10年目で15%まで縮小する。
  • 融資条件が増幅器。集中ペナルティは一律年21.6万円だが、DSCR1.0割れ確率への影響はLTV70%・金利2.5%で+3.1pt、LTV80%・金利3.0%で+22.1pt。

投資判断への使い方

この分析から、レントロールを見る順番が変わります。

  1. 契約日の列を月単位で数える。同月契約が全戸の40%を超えていたら、下振れの前提を変える必要があります。賃料と空室の有無だけでは判断できません。
  2. その月が繁忙期かどうかを見る。3〜4月集中なら平均への影響は小さく、むしろ有利に働く可能性があります。閑散期(8月・11月など)集中なら、平均と下振れの両方が悪化します。
  3. 次の更新までの残り月数を計算する。決済が更新直前に当たる場合、1年目のキャッシュフローは半分以下になり得ます。決済時期の調整や、売主との賃料保証・空室精算の交渉材料にもなります。
  4. 値引きか手元資金かを選ぶ。本試算の条件では、全戸同月・閑散期集中で約5.3%(479万円)の値引き、または約60万円の追加手元資金が等価でした。交渉が通らないなら、手元資金で持つという判断が成り立ちます。
  5. 融資条件と併せて見る。同じ集中度でも、LTVと金利によって致命度が20倍近く変わります。自己資金を1割積むことは、集中リスクへの対策としても機能します。

本記事の試算はLTV80%・金利3.0%・25年という特定の融資条件に固定しています。実際には借入額・金利・返済期間、そしてNOIの水準によってDSCRと最低年CFは大きく変わります。自分の検討物件の数字で確認したい場合は、RE-AIの無料DSCRシミュレーターでNOIと借入条件を入れて試算することができます(登録不要)。金利ストレス表とDSCR1.20を割る金利の目安も同時に出るため、「集中リスクを吸収できる融資条件かどうか」の確認に使えます。

この分析で分からないこと

本試算は条件を固定したシミュレーションであり、次の点は扱えていません。

  1. 更新時退去確率の実測値。更新月の退去確率34.1%と期中月0.8%は、平均居住期間4.0年という目標値から逆算した設定値です。全退去のうち更新月に発生する割合(本試算では63.1%)を直接計測した公開統計は見つかりませんでした。この比率が低ければ、集中の影響も小さくなります。
  2. 募集期間の季節弾性。移動者数の季節性から募集期間を推計する際の弾性値0.7は設定値です。実際の弾性はエリアの需給、物件の競争力、賃料設定によって大きく変わります。
  3. 個別物件の競争力と周辺供給。同時に4戸空いたとき、そのエリアの募集状況によっては、1戸ずつ空いた場合より募集期間が延びる(自社内で競合する)可能性があります。本試算は各戸の募集期間を独立に扱っており、この効果は織り込んでいません。したがって集中の影響は過小評価の方向にあります。
  4. 相関と因果。契約日が揃っている物件は、新築一斉入居、サブリース解除後、売却前の短期満室化など、別のリスク要因と同時に発生していることが多いと考えられます。本試算は契約日の集中だけを変えた比較であり、現実の「契約日が揃った物件」の悪さのすべてが集中に由来するとは言えません。
  5. 賃料水準の妥当性。短期間で満室化された物件は、賃料が相場より高い、あるいはフリーレント等の条件が付いている可能性があります。この点は現況賃料が相場より10%高い満室物件は、何%値下げすれば引き合うのかで別途検証しています。
  6. 税務・建物状態・実際の融資条件。本試算は税引前かつ大規模修繕を含まない10年です。所得税・法人税、修繕計画、建物の状態、売却時の市場環境は織り込んでいません。

まとめ

満室のレントロールは稼働率の証明にはなりますが、キャッシュフローの安定性の証明にはなりません。契約日が揃った物件は、長期平均では分散型とほぼ同じ収益(10年累計CFで923.8万円と925.4万円)を生みますが、最低年CFは22.8万円から6.0万円へ、DSCR1.0割れ確率は20.4%から39.6%へ悪化しました。

そして谷が来る時期は予測できます。更新サイクルは24ヶ月で、契約日から逆算できるからです。だからこそ、集中は「避けるべきリスク」ではなく「価格と手元資金で調整できるリスク」として扱えます。本試算の条件では、全戸同月・閑散期集中に必要な調整は値引き5.27%(479万円)か追加手元資金約60万円でした。

この種の判断は、空室率・金利・入替コスト・更新タイミングを同時に動かす必要があるため、単年の収支表だけでは確認項目が増えます。年次のキャッシュフロー推移と空室・金利ストレスを並べて見たい場合は、35年分のキャッシュフローと空室・金利ストレスを試算する無料シミュレーターも使えます。複数の指標を横断した総合的な判断が必要な段階では、RE-AIの無料診断で収益性・融資・リスク・出口を合わせて確認することもできます。いずれもAIや計算ツールが投資判断を保証するものではなく、判断材料を揃えるための道具です。

参考資料・出典

  • 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」月報(2025年1月〜12月結果、表1 移動者数):https://www.stat.go.jp/data/idou/sokuhou/tsuki/index.html(情報確認日:2026年11月3日)
  • 健美家株式会社「収益物件 市場動向四半期レポート」2026年7〜9月期(一棟アパート全国平均価格9,079万円、表面利回り7.91%):https://lifull.com/news/50717/(情報確認日:2026年11月3日)
  • IREM JAPAN(全米不動産管理協会日本支部)・公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「第13回(2025年版)全国賃貸住宅実態調査報告書」(調査期間2024年9月〜12月。一棟木造の空室率2.09%、NOI率81.62%、満室月額賃料66,156円、区分単身向けの平均居住期間5.1年・入替率19.7%):https://irem-japan.org/_assets/noi_files/2025-noi-summary.pdf(情報確認日:2026年11月3日)
  • 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「日管協短観(賃貸住宅市場景況感調査)」(全国の平均居住期間:単身3年3ヶ月、ファミリー5年1ヶ月):https://www.jpm.jp/marketdata/(情報確認日:2026年11月3日)
  • 短期プライムレートの推移(2026年11月2日適用:2.625%):https://lifemoney.info/prime-rate-suii-housing/(情報確認日:2026年11月3日)

本記事の数値は、上記の公開データを前提条件に用いた条件付きシミュレーションの結果です。RE-AIの診断実績データや実際の物件統計ではありません。前提条件を変えれば結果も変わります。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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