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「不動産投資はインフレに強い」は本当か|実質IRRを守るのに必要な家賃追随率はLTV70%で69%、CPI実績は37%だった

「不動産投資はインフレに強い」は本当か|実質IRRを守るのに必要な家賃追随率はLTV70%で69%、CPI実績は37%だった

「不動産は現物資産だからインフレに強い」という説明は、不動産投資の入り口でほぼ必ず出てきます。家賃も物価と一緒に上がる、借金は目減りする、だから実質的な資産価値は守られる――という論法です。

ただ、この説明には検証されていない前提が1つ含まれています。家賃が物価と同じペースで上がるという前提です。

総務省の消費者物価指数(2026年7月分)を見ると、総合指数は前年同月比 +1.9% に対し、民営家賃は +0.7% でした。家賃は物価上昇の約37%しか取り込めていません。一方で同じ統計の「設備修繕・維持」は +4.1%、うち外壁塗装費は +7.8% です。収入は物価の4割弱しか追随せず、支出は物価の2倍で上がっている、というのが足元の実績です。

この記事では、その差がリターンにいくらの違いを生むのかを計算します。名目のIRRと、物価で割り戻した実質のIRRを分けて出し、最後に「実質リターンを維持するには家賃が物価の何%追随すればよいか」をLTV別に逆算します。

この記事で検証する疑問

「インフレに強い」という主張は、実際には3つの独立した経路に分解できます。

  • 収入の経路:家賃が物価に追随して上がる(=プラス要因)
  • 支出の経路:運営費・修繕費も物価に追随して上がる(=マイナス要因)
  • 負債の経路:名目で固定された借入残高と返済額が実質で目減りする(=プラス要因)

一般的な解説は1つ目と3つ目だけを取り上げます。この記事では3つを同時に動かし、差し引きでどちらに転ぶかを見ます。検証する問いは次の3つです。

  1. インフレ率と家賃追随率を同時に変えると、実質IRRはどこまで動くか
  2. 負債の実質目減り(デット・エロージョン)は、金額でいくらの効果があるか
  3. 実質リターンを維持するには、家賃が物価の何%追随する必要があるか(逆算)

使用したデータ

物価と家賃の実績は公開データを使い、物件条件はシミュレーション用の架空ケースを設定しています。両者は明確に区別して扱います。

公開データ(情報確認日:2026年9月13日)

項目

数値

出典

消費者物価指数 総合(2026年7月・前年同月比)

+1.9%

総務省統計局

民営家賃(同)

+0.7%

総務省統計局

家賃(中分類・同)

+0.5%

総務省統計局

設備修繕・維持(同)

+4.1%

総務省統計局

うち外壁塗装費(同)

+7.8%

総務省統計局

日銀見通し コアCPI 2026年度/2027年度/2028年度

+2.5%/+2.4%/+2.0%

日本銀行 展望レポート(2026年7月)

ここから、本記事で使う2つの比率を定義します。

  • 家賃追随率=民営家賃の上昇率 ÷ 総合CPI上昇率 = 0.7 ÷ 1.9 = 約37%
  • 運営費追随率=設備修繕・維持の上昇率 ÷ 総合CPI上昇率 = 4.1 ÷ 1.9 = 約216%

本編の基準シナリオでは、運営費追随率は保守的に100%(物価と同率)で計算します。実績の216%を使った場合は後半で別途検証します。

分析の前提条件

架空ケースの設定

実在の物件データではなく、条件を固定したシミュレーションです。物件種別は、20年保有と長期融資が成立する構造として鉄筋コンクリート造を選びました。木造築12年では残存耐用年数が10年前後となり、20年の実質リターン分析そのものが成立しないためです。戸数は、大規模修繕の影響が1戸単位の誤差に埋もれない規模として12戸としています。

項目

設定

設定理由

物件

鉄筋コンクリート造・築12年・12戸

残存耐用年数35年。20年保有と25年融資が成立する

物件価格

1億2,000万円

地方中核市のRC築10年台の1戸1,000万円水準から設定

満室想定年間家賃

900万円(月6.25万円×12戸)

表面利回り7.50%

空室・滞納率

5%(全期間固定)

今回の変数ではないため固定

年間運営費(1年目)

198万円(満室家賃の22%)

管理委託料・固都税・保険・共用光熱・通常修繕・募集費の合計。RCの運営費率20〜25%の中位

NOI(1年目)

657万円

900×0.95−198。NOI利回り5.475%

大規模修繕

5年目1,100万円/15年目1,500万円

築17年で外壁・防水、築27年で給排水更新を想定

金利・融資期間

2.3%・25年(全期間固定)

負債の実質目減りを測るため、まず名目固定で計測

購入諸費用

物件価格の8%(960万円)

初期投下自己資金に算入

保有年数

20年

インフレの累積効果を見るため

出口還元利回り

6.5%(取得時5.475%から+1.03pt)

売却時は築32年。経年による還元利回り上昇を反映

売却諸費用

売却価格の4%

仲介手数料等

基準ケース(インフレ0%)の数値

項目

金額

借入額(LTV70%)

8,400万円

初期投下自己資金(頭金3,600万+諸費用960万)

4,560万円

年間元利返済額

445.6万円

DSCR(1年目)

1.47倍

年間税引前CF(1年目)

211.4万円

20年後の売却価格(657万円÷6.5%)

1億0,108万円

20年後のローン残債

2,082万円

名目IRR=実質IRR

4.07%

固定した条件と、変更した条件

固定:物件価格、戸数、空室率5%、融資期間25年、保有年数20年、出口還元利回り6.5%、大規模修繕の実質金額と発生年、購入諸費用率、売却諸費用率。

変更:インフレ率(0〜3%)、家賃追随率(0〜100%)、LTV(0〜85%)、運営費追随率(100%/216%)、金利タイプ(固定/インフレ連動)。

計算方法

名目キャッシュフローを20年分作成し、各年のキャッシュフローを (1+インフレ率)年数 で割って1年目時点の物価に換算したうえで、IRRを計算しています。名目家賃の上昇率は「インフレ率×家賃追随率」、運営費の上昇率は「インフレ率×運営費追随率」で毎年複利的に動かします。大規模修繕費も運営費と同じ率で名目額が膨らみます。売却価格は20年目のNOIを出口還元利回りで割った額です。すべて税引前で計算しています。

結果1:名目では上がり、実質では下がる

まずインフレ率と家賃追随率を同時に動かしたときの実質IRRです。運営費は物価に100%追随、金利は2.3%固定、LTV70%で計算しています。

インフレ率\家賃追随率

0%

37%(CPI実績)

70%

100%

0%

4.07%

4.07%

4.07%

4.07%

1%

2.03%

3.18%

4.14%

4.96%

2%

−0.31%

2.22%

4.13%

5.67%

3%

−3.13%

1.18%

4.06%

6.26%

同じ条件の名目IRRは次のとおりです。

インフレ率\家賃追随率

0%

37%(CPI実績)

70%

100%

0%

4.07%

4.07%

4.07%

4.07%

1%

3.05%

4.21%

5.18%

6.01%

2%

1.69%

4.27%

6.21%

7.78%

3%

−0.22%

4.22%

7.18%

9.45%

CPI実績どおりの家賃追随率37%・インフレ2%の列を見比べると、この分析でもっとも重要な数字が出ます。

  • 名目IRR:4.07% → 4.27%(+0.20pt。インフレで「上がった」ように見える)
  • 実質IRR:4.07% → 2.22%−1.85pt。実際には4割以上失っている)

名目の数字だけを見ていると、インフレはリターンを押し上げているように見えます。売却価格も1億0,108万円から1億0,717万円へ増えます。しかし、その名目の増加分は物価上昇に追いついていません。20年間の物価上昇(2%×20年で1.49倍)で割り戻すと、売却価格の実質値は7,212万円まで落ちます。

家賃追随率が70%を超えると、実質IRRはようやくインフレ0%と同水準になります。100%追随できる物件なら、実質IRRは5.67%まで上がります。「不動産はインフレに強い」という命題は、成立するかどうかが家賃追随率次第で反転するということです。

結果2:何を得て、何を失ったのか(実額の分解)

インフレ2%・家賃追随率37%のケースを、すべて1年目時点の物価に換算して分解します。プラス要因とマイナス要因を金額で並べたものです。

項目

インフレ0%

インフレ2%(実質換算)

20年目NOI

657万円

469万円

−188万円

20年目の売却価格

1億0,108万円

7,212万円

−2,895万円

20年後のローン残債

2,082万円

1,401万円

+681万円(債務圧縮)

保有中CF 20年累計

9,250万円

6,724万円

−2,527万円

売却手取り(売却額−諸費用−残債)

7,621万円

5,523万円

−2,099万円

投下自己資金

4,560万円

4,560万円

20年トータルの実質手残り

1億2,312万円

7,687万円

−4,625万円

「インフレで借金が目減りする」という効果は、確かに存在します。20年後の残債2,082万円は、1年目の物価に換算すると1,401万円の価値しかありません。681万円の実質的な債務圧縮が、何もしなくても発生しています。

問題は、その隣の行です。同じ期間に、売却価格の実質値は2,895万円減っています。債務圧縮の4.3倍です。家賃が物価の37%しか追随しないと、NOIが物価に追いつかず、NOIを還元して求める売却価格も物価に追いつかないためです。

負債の目減りは実額でプラスに働きますが、その規模は資産側の実質目減りに対して小さすぎます。借入で得られる債務圧縮効果は、家賃が物価に追随しない場合の損失を埋め合わせるには足りない、というのがこの分解から分かることです。

結果3【逆算】実質リターンを守るのに必要な家賃追随率

ここからが今回の中心です。「インフレ2%が20年続いたとき、実質IRRをインフレ0%のとき(4.07%)と同じ水準に保つには、家賃が物価の何%追随すればよいか」をLTV別に逆算します。

LTV

実質IRR(インフレ0%)

実質IRR(インフレ2%・追随37%)

必要家賃追随率

名目家賃の必要上昇率

0%(現金購入)

3.16%

1.24%

−1.92pt

100.0%

年+2.00%

30%

3.40%

1.50%

−1.90pt

87.2%

年+1.74%

50%

3.66%

1.78%

−1.88pt

78.3%

年+1.57%

70%

4.07%

2.22%

−1.85pt

69.0%

年+1.38%

85%

4.62%

2.80%

−1.82pt

61.5%

年+1.23%

読み方は次のとおりです。

現金購入のハードルは100.0%です。借入がなければ債務圧縮効果もゼロなので、実質リターンを守るには家賃が物価と完全に同じペースで上がる必要があります。運営費が物価に100%追随する以上、NOIが物価と同率で伸びるには家賃も100%追随するしかない、という当然の結果です。

借入があると、ハードルは下がります。LTV70%で69.0%、LTV85%で61.5%。これが債務圧縮効果を数値化したものです。名目で固定された返済額と残債が実質で目減りするぶん、家賃の追随不足を許容できます。「インフレ局面では借入が有利」という主張には、確かに根拠があります。

ただし、下げられる幅は限定的です。現金購入の100.0%から、LTV85%というかなり高いレバレッジを効かせても61.5%までしか下がりません。38.5pt分しか下げられないということです。そしてCPI実績の家賃追随率は37%。LTV85%の必要水準61.5%にも、24.5pt足りません。

言い換えると、足元の家賃上昇ペースが続く限り、どれだけレバレッジを効かせてもインフレによる実質リターンの目減りは相殺できない、という結果です。

インフレ率が変わっても、必要追随率はほとんど動かない

インフレ率

必要家賃追随率(LTV70%)

名目家賃の必要上昇率

1%

67.7%

年+0.68%

2%

69.0%

年+1.38%

3%

70.2%

年+2.11%

必要追随率は、インフレ率が1%でも3%でも68〜70%でほぼ一定です。つまりこの70%前後という水準は、インフレ率の予測に依存しない構造的な基準として使えます。判断に必要なのは「インフレが何%になるか」ではなく、「自分の物件の家賃が物価の何割を取り込めるか」です。

運営費が実績どおりに上がると、ハードルは100%を超える

ここまでは運営費が物価と同率(追随率100%)で上がる前提でした。しかしCPIの「設備修繕・維持」は+4.1%、総合の約216%のペースで上がっています。運営費追随率を変えて必要家賃追随率を再計算します(インフレ2%・LTV70%)。

運営費追随率

実質IRR(家賃追随37%の場合)

必要家賃追随率

50%

52.8%

100%(基準)

2.22%

69.0%

150%

86.7%

216%(CPI実績ベース)

−1.73%

112.5%

運営費がCPI実績どおり物価の2.16倍で上がると、実質IRRはマイナス1.73%まで落ちます。20年保有して、実質ベースでは元本を割る計算です。このとき必要な家賃追随率は112.5%――家賃が物価を上回るペースで上がらないと実質リターンを維持できない水準です。

修繕費とIRRの関係そのものは修繕費「家賃の5%」で足りるのかで個別に検証していますが、インフレ局面では「修繕費の想定が甘い」という問題が、物価上昇率に乗数がかかる形で拡大します。

結果4:変動金利だと、債務圧縮の利点は消える

ここまでの計算は「全期間固定金利2.3%」が前提でした。名目で返済額が固定されているからこそ、実質で目減りするからです。では、金利がインフレに連動して上がったらどうなるか。インフレ率が1pt上がるごとに借入金利も1pt上がる設定で再計算します(LTV70%・家賃追随率37%)。

インフレ率

固定金利2.3%の実質IRR

金利がインフレ連動した場合

0%

4.07%

4.07%(金利2.3%)

1%

3.18%

2.14%(金利3.3%)

−1.04pt

2%

2.22%

0.13%(金利4.3%)

−2.09pt

3%

1.18%

−1.99%(金利5.3%)

−3.17pt

金利がインフレに連動すると、インフレ2%で実質IRRは0.13%、実質的にほぼゼロになります。このケースで必要家賃追随率を逆算すると101.7%――現金購入(100.0%)より高いハードルになります。

つまり、「インフレで借金が目減りする」という効果は、名目で金利と返済額が固定されている場合に限って成立するものです。変動金利で借りている場合、インフレ局面ではレバレッジは味方ではなく、追加のリスク要因になります。固定と変動の選択そのものは固定金利は変動より何%まで高くていいのかで別途検証していますが、インフレ耐性という観点を加えると、固定金利のプレミアムには「実質リターンの保険料」という側面があることになります。

結果の頑健性:出口条件と保有年数を変えても結論は変わらない

1つの前提に依存した結論ではないことを確認するため、出口還元利回りと保有年数を動かしました。数値は実質IRRです(家賃追随率37%)。

出口還元利回り

インフレ0%

インフレ2%

5.5%

5.04%

3.18%

−1.86pt

6.0%

4.54%

2.68%

−1.85pt

6.5%(基準)

4.07%

2.22%

−1.85pt

7.0%

3.64%

1.79%

−1.85pt

7.5%

3.23%

1.39%

−1.84pt

保有年数

インフレ0%

インフレ2%

10年

1.27%

−0.04%

−1.31pt

15年

2.55%

0.65%

−1.90pt

20年(基準)

4.07%

2.22%

−1.85pt

25年

4.66%

2.80%

−1.85pt

出口還元利回りを5.5%から7.5%まで動かしても、インフレによる実質IRRの低下幅は−1.84〜−1.86ptでほぼ一定です。IRRの絶対水準は出口条件で大きく変わりますが、インフレが奪う分は出口条件と独立しています。保有年数は10年だと−1.31ptと影響が小さく、15年以降で−1.85pt前後に収束します。インフレの影響は保有期間が長いほど累積し、15年程度で頭打ちになります。

結果から分かること(転換点の整理)

  • 家賃追随率69%(LTV70%・インフレ2%):これを下回ると、インフレは実質リターンを削る側に回ります。CPI実績の37%はこの水準を大きく下回っています。
  • 家賃追随率100%:現金購入の損益分岐点。借入がない場合、家賃が物価と完全に同率で上がって初めて実質リターンが維持されます。
  • 家賃追随率112.5%:運営費がCPI実績どおり物価の2.16倍で上がる場合の分岐点。家賃が物価を上回らないと実質リターンを守れません。
  • 家賃追随率25.4%(インフレ3%・LTV70%):これを下回ると実質IRRがマイナスになります。
  • 債務圧縮681万円 対 実質売却価格の目減り2,895万円:「借金が目減りする」効果は実在しますが、規模は資産側の目減りの4分の1以下です。

投資判断への使い方

この分析から、購入前に確認できることが3つあります。

1. 対象物件の「家賃追随率」を推定する。全国平均の37%はあくまで全国の賃貸ストック平均です。賃貸需要が逼迫しているエリア・築浅・競合供給が少ない物件なら、更新時の賃料改定や入替時の増額で40%を超える可能性があります。逆に、供給過剰エリアや設備が陳腐化した物件では、物価が上がっても家賃を上げられません。判断材料は「今の利回り」ではなく、「更新時に家賃を上げられるか」です。この観点は家賃下落「年1%」は、どこで1%なのかで扱った家賃カーブの議論とつながります。

2. 名目の収支表と実質の収支表を分けて見る。物件資料に載っているキャッシュフロー表は、ほぼ例外なく名目です。名目IRRが4.27%でも、実質では2.22%ということが起こります。長期保有を前提にするなら、少なくとも「この数字は名目である」と認識したうえで判断する必要があります。

3. 金利タイプを実質リターンの観点で選び直す。変動金利は、インフレ局面では債務圧縮効果を打ち消します。固定金利のプレミアム(金利上乗せ分)を「割高なコスト」と見るか「実質リターンの保険料」と見るかで、判断は変わります。

今回の試算では、家賃上昇率と運営費上昇率を別々に設定しています。この2つを同じ率で置いてしまうと、今回見た構造的なズレは計算上まったく現れません。ご自身の物件条件で確認したい場合は、RE-AIのキャッシュフローシミュレーターが家賃下落率と運営費上昇率を切り離して入力できるため、「家賃は据え置き、運営費だけ年2%上昇」といった条件で35年分の収支を試算できます。登録不要で使えます。

この分析で分からないこと

  1. 税金を含んでいません。すべて税引前の計算です。インフレで膨らんだ名目の売却益には、実質の値上がりがなくても課税されます。税引後で計算すると、インフレによる実質リターンの低下幅はここで示した−1.85ptよりさらに大きくなります。
  2. 家賃追随率37%は全国の賃貸ストック平均です。CPIの民営家賃は既存の賃貸住宅全体を対象とした指数で、建物の経年劣化も市場平均のペースで含まれています。個別物件が平均より早く陳腐化すれば追随率はさらに下がり、リフォームで競争力を維持できれば上がります。この指数を個別物件にそのまま当てはめることはできません。
  3. 出口還元利回りをインフレと独立に扱っています。実際には、インフレが進めば長期金利が上がり、還元利回りも上昇する可能性があります。その場合、売却価格はここで示した水準よりさらに下がります。関係は出口利回りが1%上がるとIRRはどこまで落ちるかで別途検証しています。
  4. 相関と因果を分けていません。民営家賃が物価に追随していない背景には、人口動態、賃貸住宅の供給過剰、借地借家法による賃料改定の難しさ、CPI統計の経年減価調整の問題など複数の要因が考えられます。「インフレだから家賃が上がらない」わけではなく、別々の要因が同時に働いた結果として37%という数字になっています。この比率が将来も同じである保証はありません。
  5. 個別の融資条件、建物状態、管理状態、周辺の新規供給、税制改正は反映していません。特に大規模修繕の実際の金額と時期は、建物ごとに大きく異なります。

まとめ

「不動産投資はインフレに強い」という説明は、条件付きで正しい主張です。条件とは、家賃が物価の7割前後のペースで上がること(LTV70%の場合)です。

今回の試算では、CPI実績どおりの家賃追随率37%・インフレ2%が20年続いた場合、名目IRRは4.07%から4.27%へ上がる一方、実質IRRは4.07%から2.22%へ1.85pt低下しました。20年後の残債は実質で681万円圧縮されますが、同じ期間に実質の売却価格は2,895万円目減りします。債務圧縮効果は実在するものの、規模が足りません。

レバレッジは必要家賃追随率を100.0%(現金購入)から61.5%(LTV85%)まで下げますが、それでもCPI実績の37%には届きません。さらに変動金利では、この効果自体が消えて必要追随率は101.7%に戻ります。

投資判断として使えるのは、「インフレ率がいくらになるか」を当てにいくことではなく、「この物件の家賃は、更新のたびに物価の何割を取り込めるか」を購入前に見積もることです。この比率が7割を超えられる物件かどうかが、インフレ局面で実質リターンを守れるかどうかの分かれ目になります。

なお本記事は特定の物件・投資手法の推奨ではありません。今回のように家賃・運営費・金利・出口条件を同時に動かして実質ベースで検証すると、確認すべき項目が増えていきます。RE-AIは、こうした複数条件を一度に確認できるよう設計していますが、診断結果は投資判断の参考情報であり、投資助言ではありません。

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参考資料・出典

  • 総務省統計局「2025年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)7月分」(2026年8月21日公表)/総合+1.9%、民営家賃+0.7%、家賃+0.5%、設備修繕・維持+4.1%、外壁塗装費+7.8%
  • 日本銀行「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」2026年7月/消費者物価指数(除く生鮮食品)前年比 2026年度+2.5%、2027年度+2.4%、2028年度+2.0%
  • 総務省統計局 統計研究彙報「消費者物価指数における民営家賃の経年減価調整」(家賃指数の性質に関する参考)

情報確認日:2026年9月13日。本記事の数値のうち、物価・家賃の実績値は上記の公開データ、物件条件とIRRは記事内に明示した条件によるシミュレーションです。実在物件の統計ではありません。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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