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隣地に越境がある収益物件は買ってよいか|融資・DSCRへの影響と2023年民法改正のポイント

隣地に越境がある収益物件は買ってよいか|融資・DSCRへの影響と2023年民法改正のポイント

「重要事項説明を読んだら、隣地との境界に古いブロック塀が越境していると書いてあった」——収益物件を検討していて、こうした一文に立ち止まった経験はないでしょうか。越境は珍しい話ではありませんが、融資審査や将来の売却にどう影響するのかが分かりにくく、判断に迷いやすい項目です。この記事では、越境の基本的な考え方、2023年に施行された民法改正のポイント、そして自己資金・DSCRへの影響を具体例で整理します。物件購入前に確認すべきリスク全体については収益物件購入前のリスクチェック完全ガイドで整理していますので、あわせてご覧ください。

収益物件における「越境」とは何か

越境とは、塀・建物の一部・雨樋・樹木の枝や根などが、敷地の境界線を越えて隣地または道路にはみ出している状態を指します。新耐震基準以前に建てられた木造アパートなど、敷地いっぱいに建物を建てている古い物件では、長年の間に塀が傾いたり、隣家の庭木が伸びたりして越境が生じているケースが少なくありません。

越境そのものは違法行為ではなく、直ちに物件の価値がゼロになるわけでもありません。ただし、隣地所有者との合意(覚書)の有無、越境の程度、解消にかかる費用によって、投資判断への影響は大きく変わります。

越境が投資判断に影響する3つの場面

融資審査・DSCRへの影響

金融機関は担保評価の過程で境界の状態を確認します。越境があり、かつ隣地所有者との覚書(越境を相互に認め、将来的な解消方法を取り決めた書面)が存在しない場合、金融機関によっては、覚書の締結や確定測量の完了を融資実行の条件とすることがあります。これにより、決済までのスケジュールが延びたり、自己資金で解消費用を先に負担する必要が生じたりする場合があります。自己資金が増えれば融資額は下がるため、後述するとおりDSCR(借入金償還余裕率)にも影響します。DSCRの基本的な考え方や計算方法については不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例で詳しく解説しています。

将来の売却(出口)への影響

越境は将来その物件を売却する際にも、次の買主の金融機関から同様の確認を受けます。覚書が未整備のまま保有を続けると、売却時に自分が「越境を解消する当事者」になる可能性があり、出口のタイミングで想定外の費用や交渉が発生するリスクがあります。長期保有を前提とする収益物件では、購入時点で覚書を整備しておくことが、将来の出口をスムーズにする一つの備えになります。

隣地とのトラブル・損害賠償リスク

越境物によって隣地の利用が妨げられている場合、隣地所有者から越境物の撤去や損害賠償を求められる可能性があります。所有者が変わった直後にこうした請求が顕在化することもあるため、購入前にトラブルの兆候がないかを確認しておく必要があります。売買契約後に未告知の不具合が見つかった場合の扱いについては収益物件の契約不適合責任とは|「満室」表示や設備不良、代金減額請求はいくらまで求められるかも参考になります。

2023年4月施行の民法改正で変わったこと

越境に関するルールは、2023年4月1日施行の民法改正(相隣関係規定の見直し)で一部変更されています。改正前は、隣地の樹木の枝が境界を越えてきても、土地所有者が自分で切ることは原則できず、竹木の所有者に切除を求めるか、訴訟を経て強制執行するしかありませんでした。

改正後の民法233条では、(1)竹木の所有者に切除を催告しても相当期間内に切除されないとき、(2)竹木の所有者を知ることができない、または所在が分からないとき、(3)急迫の事情があるときのいずれかに該当すれば、越境された側が自ら枝を切り取れるようになりました(法務省「民法等の一部を改正する法律案」より)。

ここで注意したいのは、この改正が対象とするのは「枝」に限られる点です。塀や建物本体、越境した根の扱いは別の規律によるため、構造物の越境については引き続き隣地所有者との協議・覚書が基本的な解決手段になります。制度は今後も見直される可能性があるため、本記事の内容は2026年9月時点の情報として確認してください。

購入前に確認すべきこと|覚書・確定測量の有無

覚書があるかないかで何が変わるか

越境がある物件でも、前所有者の代から隣地所有者との間で覚書が交わされ、境界と越境の扱いが書面で確認できていれば、金融機関や次の買主に対して説明しやすくなります。逆に覚書がなく、口頭の了解のみ、あるいは何も取り決めがない場合は、重要事項説明の記載だけでなく、可能であれば売主・仲介会社を通じて隣地所有者との関係性も確認しておくと安心です。重要事項説明で確認すべき項目全般は重要事項説明書で見落とすと危ない7項目にまとめています。越境と似た「境界に起因するリスク」としては、擁壁がある物件を扱った擁壁のある収益物件は買ってよいかも参考になります。

確定測量・覚書作成の費用相場

境界を明確にする「確定測量」の費用は、土地家屋調査士の解説によれば、隣接する民有地の所有者のみと立ち会う場合でおおむね30万〜50万円、道路など官有地との立会いを含む場合は50万〜100万円程度が目安とされています(土地の面積や筆界の状況により変動)。これに加えて、覚書の作成を行政書士や司法書士に依頼する場合は数万円程度の費用が別途かかるのが一般的です。購入前にこの水準を把握しておくと、価格交渉や自己資金計画に反映しやすくなります。

具体例で見る、越境が自己資金とDSCRに与える影響

以下は仕組みを理解しやすくするために単純化した架空例です。実在の物件や取引を示すものではありません。

想定読者は、初めて木造一棟アパートの購入を検討する個人投資家とします。物件は築22年の木造アパート(8戸)、価格4,200万円、表面利回り9.5%(満室想定年間家賃399万円)。空室・滞納控除を5%とすると実効収入は380万円、管理費・修繕費・固定資産税等の運営費を実効収入の32%(122万円)とすると、年間NOIは258万円です。

自己資金600万円(自己資金比率14.3%)、融資額3,600万円、金利2.5%、融資期間20年の元利均等返済を組んだ場合、年間返済額は約230.9万円、DSCRは258÷230.9で約1.12倍になります。

ここで、重要事項説明の記載どおり隣地との境界にブロック塀の越境(奥行き約15cm×延長8m)が見つかり、覚書もない状態だったとします。金融機関が確定測量と覚書締結を条件としたため、その費用約50万円を自己資金で追加負担するケースを考えると、自己資金は650万円(15.5%)、融資額は3,550万円に下がり、年間返済額は約227.7万円、DSCRは約1.13倍とわずかに改善します。

一方、塀の越境部分そのものを解体・再築する必要が生じ、費用が150万円まで膨らんだ場合は、自己資金750万円(17.9%)、融資額3,450万円、年間返済額約221.3万円、DSCRは約1.17倍です。DSCRの改善幅は1.12倍から1.17倍までの0.05ポイントにとどまる一方、自己資金比率は14.3%から17.9%まで3.6ポイント上昇しています。つまり越境の解消費用を自己資金で吸収する設計は、DSCR単体で見るとわずかな変化にしか見えなくても、手元資金の負担としては軽くない場合があるということです。この点は、価格交渉の際に指値の根拠として解消費用の見積もりを提示できるかどうかにも関わってきます。指値がどこまで通りやすいかの考え方は収益物件の指値はどこまで通るかで解説しています。

ご自身の物件条件でDSCRがどう変わるかを確認したい場合は、RE-AIのDSCRシミュレーター(無料)でNOIと融資条件を入力して試算できます。

RE-AIの視点|境界確定は「契約前診断」で確認すべき項目の一つ

RE-AIの契約前診断では、レントロールの確認と並んで境界確定の状況を、契約直前に確認すべき項目の一つとして位置づけています。これは、収益性や利回りだけを見て購入を判断すると、境界や覚書の有無といった「数値化されにくいリスク」が見落とされやすいためです。越境の有無を単独の合否基準として扱うのではなく、収益性・価格の妥当性・融資条件・出口までを併せて確認する視点が重要になります。

まとめ|越境は「ある/なし」ではなく「解消コストと合意の有無」で判断する

越境がある収益物件は、それだけで購入を避けるべき物件とは限りません。重要なのは、覚書など隣地所有者との合意が書面で残っているか、解消にどの程度の費用がかかるか、そしてその費用を自己資金・価格交渉のどちらで吸収するのかを、購入前に整理しておくことです。金額の大小にかかわらず、融資条件やDSCR、将来の出口まで含めて確認する姿勢が、購入後のトラブルを減らすことにつながります。なお、法律・税務・融資の取り扱いは個別の状況によって結論が変わるため、実際の判断にあたっては司法書士・土地家屋調査士・金融機関など専門家への確認をおすすめします。

参考資料・出典

  • 法務省「民法等の一部を改正する法律案」(相隣関係規定等の見直し、2023年4月1日施行)https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00389.html
  • 確定測量・境界確認の費用相場に関する土地家屋調査士による解説記事(複数の専門メディアの記載を基に、民民立会い30万〜50万円、官民立会いを含む場合50万〜100万円を目安として記載)

情報確認日:2026年9月11日

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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