
「新築ワンルームマンションは節税になります。毎月数千円の負担で、将来は年金代わりになります」。そう勧められて、本当に得なのか判断できずにいる会社員の方に向けて、この記事では節税の仕組みと、その効果が実際には何年で目減りしていくのかを試算します。
不動産投資の節税は、不動産所得が赤字になったときに、給与所得と合算して総所得を圧縮する「損益通算」によって成り立ちます。総所得が下がれば、すでに給与から源泉徴収されていた所得税の一部が還付され、翌年の住民税も下がります。損益通算の基本的な仕組みと、節税効果が消えるケースについては「不動産投資の損益通算とは?給与所得との相殺の仕組みと、節税効果が消える理由」で整理しています。
不動産所得の赤字を作る主な要素は、家賃収入から差し引く「減価償却費」と「支払利息」です。ここで見落とされがちなのが、この2つの経費は毎年同じ額ではないという点です。
新築の鉄筋コンクリート造マンションは法定耐用年数47年で、定額法により毎年ほぼ同じ金額を減価償却費として計上します。建物価格が変わらない限り、この経費は保有期間を通じてほぼ一定です。
一方、元利均等返済(毎月の返済額が一定の返済方式)では、返済額のうち経費にできる利息の割合が年々減り、経費にならない元金部分の割合が増えていきます。つまり、減価償却費が一定でも、支払利息が年々減ることで、不動産所得の赤字幅は少しずつ縮小していきます。赤字幅が縮小すれば、損益通算で戻ってくる還付額も縮小します。計算の考え方は「不動産投資ローンシミュレーター(無料)」の返済推移表でも確認できます。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実在の物件や取引を示すものではありません。
東京23区内、専有25㎡の新築ワンルームマンションを、価格3,080万円・フルローン(金利2.2%、35年、元利均等)で購入したケースを考えます。想定家賃は月8.9万円(表面利回り3.47%)、空室率3%、運営費(管理費・修繕積立金など)月2.3万円とすると、NOIは年76.0万円、実質利回りは2.47%です。建物比率60%(1,848万円)・耐用年数47年として、減価償却費は年39.3万円で一定とします。給与所得と合わせた限界税率(所得税・住民税)を30%と仮定すると、結果は次のとおりです。
経過年 | 年間支払利息 | 不動産所得(概算) | 所得税等の還付(概算) | 年間CF(税引前) | 年間CF(税引後) |
|---|---|---|---|---|---|
1年目 | 67.2万円 | ▲30.5万円 | +9.2万円 | ▲50.3万円 | ▲41.1万円 |
5年目 | 61.7万円 | ▲25.1万円 | +7.5万円 | ▲50.3万円 | ▲42.8万円 |
10年目 | 54.2万円 | ▲17.6万円 | +5.3万円 | ▲50.3万円 | ▲45.0万円 |
15年目 | 45.9万円 | ▲9.2万円 | +2.8万円 | ▲50.3万円 | ▲47.5万円 |
年間の税引前キャッシュフロー(家賃収入から運営費とローン返済を引いた額)は、家賃や空室率が変わらない前提なら毎年ほぼ▲50.3万円で一定です。一方、所得税等の還付額は初年度の9.2万円から15年目には2.8万円まで縮小します。つまり、営業トークで強調される「節税効果」は年々小さくなっていくのに対し、実際の持ち出し額はほとんど変わらないまま続くことになります。
上記の条件のまま15年間保有すると、税引前キャッシュフローの累計は約▲754万円、還付を加味した税引後の累計は約▲662万円です。15年目時点のローン残債は約2,041万円になります。
ここに売却時の価格も加えて考える必要があります。新築マンションの販売価格には、広告宣伝費や販売会社の利益といった「新築プレミアム」が上乗せされており、人が一度でも住めば市場では「中古」として扱われるため、不動産業界では新築時の価格から7〜8割程度まで下落すると言われることがあります。この目安は公的統計ではなく業界内で語られる経験則である点に注意が必要ですが、仮に購入価格の8割(2,464万円)まで下落し、その後の市場変動がないと単純化して15年後に売却したとすると、売却諸費用5%を引いた手取りは約2,341万円、ローン残債2,041万円を返済した後の手残りは約299万円です。15年間の税引後キャッシュフーム累計▲662万円と合わせると、トータルでは約▲363万円の持ち出し超過という結果になります。中古市場での実際の取引価格を確認する方法は「取引事例比較法とは?収益物件で「周辺相場並み」を鵜呑みにできない理由」で解説しています。
なお、減価償却費の累計と売却時の税金の関係は「減価償却で減らした税金は、売却時にいくら返すことになるのか」で別途整理しており、保有中に得た節税額の一部は、売却時の譲渡所得税として戻ってくる場合があります。この記事の試算には売却時の譲渡所得税は含めていません。
この試算条件(新築・フルローン・都心1R)でみる限り、投資としての採算は厳しく、多くの人にとっては持ち出しが続く結果になりやすいと言えます。毎年の持ち出しは、空室率3%・家賃据え置きという楽観的な前提でも41万〜48万円で、家賃下落や空室率上昇が起きればさらに悪化する方向にしか動きません。
「生命保険代わり」という説明も、内訳を分けて考える必要があります。団体信用生命保険(団信)は、借入残高に応じて保障額が減っていく逓減型の死亡保障で、単体の保険でいえば「逓減定期保険」に近いものです。30代で死亡保障3,000万円クラスの定期保険は、保険期間や保険会社によって差がありますが、月額2,500円〜8,000円程度が目安とされています。団信は残高に連動して保障が減っていく分、定額型の定期保険よりも割安な設計になっているのが一般的なので、実質的な「保険料相当額」はこの目安の下のほうに近いと見るのが妥当です。一方でこの試算では毎月4万円前後の持ち出しが発生しており、保険としての価値に見合う部分はその一部にとどまり、残りは物件の収支の赤字を埋めているだけと考えられます。
例外的に検討の余地があるとすれば、次の条件を同時に満たすケースにほぼ限られます。
これらに当てはまらない場合、特に「節税になるので実質負担が軽い」という説明だけで検討している場合は、この試算が示す通り持ち出しが継続する投資になりやすい点を踏まえて判断する必要があります。なお、新築プレミアムの剥落により保有中の含み損が売却時まで解消しないケースもあるため、中古の取引事例と比較して実際の想定売却価格を確認しておくことも欠かせません。限界税率が低い人ほど損益通算による還付額はそもそも小さく、持ち出しを節税効果だけで正当化しにくい点にも注意が必要です。区分マンション投資全般の空室・DSCRへの影響は「区分マンション投資のキャッシュフローとDSCR|「空室=収入ゼロ」を試算で確認する」で確認できます。
情報確認日:2026年9月16日
本記事の試算は、記載した条件を前提とした簡略化した計算結果であり、特定の物件や取引を示すものではありません。実際の節税額は個人の所得・控除状況によって異なり、売却価格は市況や個別物件によって大きく異なります。税務・融資に関する最終判断は税理士・金融機関など専門家にご確認ください。本記事は特定の物件の購入を推奨または否定するものではありません。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

「不動産投資はインフレに強い」は本当か|実質IRRを守るのに必要な家賃追随率はLTV70%で69%、CPI実績は37%だった
2026/9/12

駅徒歩15分の物件は、表面利回りが何pt高ければ引き合うのか|賃料・稼働率・出口利回りの差から必要プレミアムを逆算
2026/9/12

表面利回りと実質利回りの違いとは|計算方法と、区分マンション・一棟アパートでの差を試算した
2026/9/12

デッドクロスは何年目に来るのか|融資期間35年でも自己資金50%でも発生年が動かない条件と、税引後CFを守る必要利回りを逆算
2026/9/11

木造アパートの固定資産税が下限に着くのは築15年か築35年か|評点区分で35年累計は792万円違い、新築減額の終了で4年目のCFは最大14.9%落ちた
2026/9/9

不動産投資の損益通算とは?給与所得との相殺の仕組みと、節税効果が消える理由
2026/9/4

家賃下落「年1%」は、どこで1%なのか|総務省の推計係数と市場経験則、2つの下落カーブで10年IRRは2.35pt変わる
2026/9/3

建物比率を上げると税引後IRRは上がるのか|木造・重量鉄骨・RCで27通り試算し、比率を上げると損になる課税所得562万円を逆算
2026/9/1