
「法人化すれば節税できる」と聞いて、そのまま法人を作ってしまう人がいます。でも、法人化にはコストもかかります。仮に家賃収入960万円の投資家が法人化を検討するケースで、確認すべき5つの数字を整理しました。
投資家、Fさんのケースで考えます。会社員としての年収は700万円、副業で一棟アパートを所有し、年間家賃収入は960万円、必要経費(管理費、修繕費、固定資産税、借入金利など)を差し引いた不動産所得は約400万円という設定です。
「儲かってきたら法人化したほうがいい」という話をよく聞いたFさんは、法人化を検討し始めました。ただ、実際に数字を並べてみると、単純な話ではありませんでした。

個人の場合、給与所得700万円と不動産所得400万円は合算され、超過累進課税の対象になります。国税庁の所得税速算表によれば、課税される所得金額900万円〜1,799万9,000円の部分には33%の税率(控除額153万6,000円)が適用され、ここに住民税(所得割、原則10%)を加えると、合算した課税所得が900万円台に乗った時点で限界税率は40%を超える水準になります。ここに掲げた給与700万円・不動産所得400万円という数字は、給与所得控除や必要経費を差し引いた後の単純化した設定であり、実際の課税所得は個々の控除状況によって変わります。
法人の場合、資本金1億円以下の中小法人には軽減税率があり、年800万円以下の部分は15%、800万円を超える部分は23.2%です(令和7年4月1日現在)。実効税率の目安はおおよそ21〜23%(800万円以下)、33〜34%程度(800万円超)です。不動産投資の実務では、給与所得などと合算した課税所得がおよそ900万〜1,200万円を超えるあたりから、法人の実効税率が個人の限界税率を下回りやすくなり、法人化のメリットが顕在化しやすいと言われることが多いですが、これは目安であり、控除や自治体、税制改正によって変わるため、個別の試算は税理士に確認する必要があります。
もう一つ見落とされやすいのが、赤字を翌年以降に持ち越せる期間の違いです。個人の青色申告者は、不動産所得が赤字になった年の損失を翌年以後3年間繰り越して各年の所得から控除できますが、法人の欠損金は10年間繰り越せます。不動産投資では取得初期に減価償却費がかさんで赤字になりやすいため、赤字が3年を超えて続く見通しがある場合は、この繰越期間の差も法人化タイミングを判断する材料になります。
法人化には、設立費用(登録免許税や司法書士報酬など)に加えて、税理士への顧問料、法人住民税の均等割など、個人にはないコストが継続的にかかります。均等割は赤字でも原則として課税され、資本金1,000万円以下・従業員50人以下の法人であれば道府県民税2万円+市町村民税5万円の合計7万円が最低額の目安です(自治体により異なる場合があります)。これに税理士顧問料を加えた「年間の維持コストがおおよそ60万円前後」という目安に対し、節税額がそれを上回らなければ、法人化の意味は薄れます。
金融機関によっては、実績の浅い新設法人への融資に慎重な姿勢を取ることがあります。個人の属性(勤務先、年収、勤続年数)で評価されてきた投資家が法人化すると、かえって次の物件の融資が受けにくくなるケースもあると言われています。この点は、取引のある金融機関に事前に相談しておくと安心です。法人名義と個人名義で、融資の審査基準や金利がどう違うのかは不動産投資ローンは法人と個人でどう違う?審査基準・金利・個人保証を比較するで整理しています。
個人が売却した年の1月1日時点で5年を超えて保有した不動産を売却する場合、長期譲渡所得として20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計)の税率が適用されるのが一般的な目安です(5年以下の場合は短期譲渡所得としておおむね39.63%)。一方、法人が保有する不動産を売却した場合、売却益は法人の他の所得と合算され、前述の法人税率で課税されるため、保有期間が長く売却益が大きいケースほど、個人保有のほうが手残りで有利になりやすい傾向があります。8,000万円クラスの物件で個人・法人それぞれの保有期間別の税引後手残りを具体的な数値で比較したい場合は、8,000万円クラスの物件で、個人と法人それぞれの税引後キャッシュフローと売却時の手残りを保有10〜30年で具体的に比較した試算は法人化は家賃収入いくらから有利になるのかで確認できます。また、すでに個人で所有している物件を途中から法人へ移す場合、移すタイミングによって損益がどう変わるかは個人の収益物件を法人へ移すのは何年目かで試算しています。
将来的に複数の物件を子どもに引き継ぐことを考えている場合、資産管理法人を通じて株式として承継するほうが、不動産を直接相続するより手続きが整理しやすいと言われることがあります。ただし、これは相続財産全体の設計に関わるため、税理士や司法書士との相談が前提になります。
Fさんは、税理士に相談したうえで、当面は個人のまま所有を続け、家賃収入が1,500万円を超えるタイミングで再検討する、という結論にしました。「儲かったら法人化」ではなく、「合算した課税所得と維持コストを比べてから法人化」という順番に整理し直したかたちです。
法人化の判断は税金の話ですが、その前提になるのは物件のキャッシュフローです。自分の物件の家賃・空室率・借入条件を入力して35年分の税引前キャッシュフローとDSCRを確認したい場合は、RE-AIの不動産投資キャッシュフローシミュレーター(無料・登録不要)で試算できます。法人化のメリット・コスト・出口の税金までを一通り確認したい場合は不動産投資の法人化完全ガイドも参考にしてください。
法人化は「節税できるかどうか」だけでなく、「維持コスト」「融資への影響」「出口の税率」「相続」まで含めて考える必要があります。数字を並べてから判断する、という順番が後悔を減らします。
本記事の税率や数値は理解のための単純化した試算であり、実際の税額は所得状況、控除、税制改正により異なります。個別の税務判断は税理士へ、法人設立や相続に関わる法的な判断は司法書士や弁護士へご相談ください。本記事は特定の物件や手法を推奨するものではありません。
出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」、国税庁「No.5759 法人税の税率」、国税庁「No.2070 青色申告制度」、国税庁「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」、総務省「法人住民税」(2026年10月時点の情報)。情報確認日:2026年10月11日。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。