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アパートの内窓設置は家賃で回収できるのか|3年回収に必要な値上げは月4,592円、入居者の光熱費削減額の5.9倍だった

アパートの内窓設置は家賃で回収できるのか|3年回収に必要な値上げは月4,592円、入居者の光熱費削減額の5.9倍だった

新築住宅は2025年4月から省エネ基準への適合が義務になりました。一方で、いま収益物件として流通している木造アパートの大半は、アルミサッシに単板ガラスが入った窓のままです。管理会社からは「内窓を入れれば決まりやすくなる」と言われ、補助金の案内も届きます。

ただ、投資家が判断しなければならないのは「決まりやすくなるか」ではなく、改修費を家賃と出口価格でいくら取り戻せるのかです。この記事では、1戸あたりの内窓設置費を補助単価から逆算し、それを回収するために必要な家賃の値上げ額を保有年数別に計算しました。あわせて、入居者側の光熱費削減額を熱損失から計算し、「どこまでなら家賃に転嫁できるのか」の上限と突き合わせています。

結論を先に書くと、賃貸オーナーの7割超が期待している「3年以内の回収」は、家賃だけでは成立しませんでした。成立するかどうかを分けていたのは、保有期間ではなく補助金の有無と出口利回りの水準でした。

この記事で検証した疑問

  • 内窓設置費を回収するには、月額家賃を何円上げる必要があるのか(保有年数別・補助金あり/なし)
  • 入居者が受け取る光熱費の削減額はいくらで、値上げ額はその範囲に収まるのか
  • 家賃を上げない場合、募集期間を何日短縮できれば元が取れるのか
  • NOIの増加を出口(収益価格)に乗せると、必要な値上げ額はどこまで下がるのか
  • どの条件を下回ると、改修は投資として成立しなくなるのか

なぜいま「賃貸の断熱」が収支の論点になったのか

制度側の変化は3つあります。

  • 2025年4月:改正建築物省エネ法が全面施行され、原則すべての新築住宅・非住宅に省エネ基準への適合が義務づけられました。さらに2030年までに基準をZEH・ZEB水準へ引き上げる方針が示されています。
  • 2024年4月:建築物の省エネ性能表示制度が始まり、住宅を販売・賃貸する事業者に省エネ性能の表示が努力義務となりました。賃貸も対象です。
  • 2024年11月:既存住宅向けに「省エネ部位ラベル」の運用が始まりました。窓や給湯器など部位単位の仕様を表示するもので、2024年3月31日以前に確認申請をした既存住宅が対象です。

一方、ストック側はほとんど動いていません。国土交通省の資料では、約5,400万戸の住宅ストックのうち現行の省エネ基準水準を満たすものは2割前後にとどまります。つまり募集の現場では、省エネ性能が「表示される」方向に進みながら、在庫の8割は表示して有利になる性能を持っていないという状態です。

ここで投資家の側に発生するのが、「改修して性能側に回るか、性能の低い物件として価格・利回りで勝負するか」という判断です。本記事はその前段として、改修費が回収可能な範囲かどうかだけを数字で確認します。

分析の前提条件

特定の物件価格を置く必要がない分析なので、1戸あたりの改修費と1戸あたりの賃料を基準単位にしました。物件価格・借入額・金利は、この分析の結論に影響しないため設定していません(出口価格への反映のみ、還元利回りで扱います)。

固定する条件

項目

設定値

設定理由

対象

木造アパート 1K・25㎡・築20年相当

内窓設置の検討が最も多い、断熱等級の低い既存賃貸の典型

地域

東京(省エネ基準6地域)

気象庁の平年値が長期で安定しており、熱損失計算の検算がしやすい

月額家賃

55,000円(45,000円・65,000円も併記)

結論を家賃比でも読めるようにするため、1水準に固定しない

窓面積

4.05㎡/戸(掃き出し窓1.8×1.8m+小窓0.9×0.9m)

1K・25㎡の一般的な開口構成。浴室・トイレ窓は対象外とした

稼働率

95%

増収分にも空室・滞納の影響を反映させるため

管理委託料

賃料の5%

値上げ分にも管理料がかかるため、増収は手取りベースで計算

割引率

年4%

改修費を自己資金で支出する場合の要求利回り。0%・6%でも併記

出口(還元)利回り

7.0%

木造築古の実勢レンジ中位。5〜9%で感応度を確認

変更する条件

  • 補助金の有無(先進的窓リノベ事業を使えた場合/使えなかった場合)
  • 回収年数・保有年数(3年・5年・10年・15年・20年)
  • 出口利回り(5%・6%・7%・8%・9%)
  • 割引率(0%・4%・6%)、稼働率(95%・90%・85%)

なお本記事の計算は税引前です。内窓設置は通常、修繕費ではなく資本的支出として扱われるため、税引後では減価償却による節税分だけ回収が早まります(この扱いは修繕費と資本的支出の差で整理しています)。

工事費はいくらか|補助単価から逆算する

工事費の目安を業者見積りの伝聞ではなく、公的資料から押さえます。環境省「先進的窓リノベ2026事業」の概要資料には、「補助単価については、一般的に要する費用の1/2以内で設定」と明記されています。つまり補助単価の2倍が、標準的な工事費の下限側の推計値になります。

内窓設置(集合住宅区分)の補助単価は次のとおりです。性能区分SSは熱貫流率Uw1.1以下、Sは1.5以下です。

性能区分

特大(4.0㎡以上)

大(2.8〜4.0㎡)

中(1.6〜2.8㎡)

小(0.2〜1.6㎡)

SS(Uw1.1以下)

152,000円

98,000円

64,000円

40,000円

S(Uw1.5以下)

83,000円

57,000円

37,000円

24,000円

前提の窓構成(掃き出し窓3.24㎡=「大」、小窓0.81㎡=「小」)でSS区分の内窓を入れると、1戸あたりの金額はこうなります。

項目

1戸あたり

8戸一棟

補助額

138,000円

1,104,000円

標準工事費(補助単価×2の推計)

276,000円

2,208,000円

実質負担(補助が使えた場合)

138,000円

1,104,000円

実質負担(補助が使えなかった場合)

276,000円

2,208,000円

補助が使えるかどうかで負担が2倍変わります。ここは分析の仮定ではなく、申請の可否という手続の問題が投資判断を左右している部分です。2026年事業は予算1,125億円、1戸あたり上限100万円で、申請受付は2026年3月下旬から予算上限に達するまで(遅くとも12月末)とされています。工事着手は2025年11月28日以降が条件です。なお事業の公式サイトは補助対象者を「工事発注者等」としており、賃貸住宅のオーナーが使えるかどうかを明示していません。実務では事務局への確認が前提になります(本記事の情報確認日は2026年10月27日)。

入居者が払える上限|光熱費の削減額を熱損失から計算する

家賃を上げられるかどうかの上限は、最終的に入居者が受け取る便益の大きさで決まります。内窓設置で入居者に直接返るのは冷暖房費です。これを熱損失から計算します。

計算方法

窓からの貫流熱損失の減少量は「熱貫流率の差 × 窓面積 × 度時」で求められます。

  • 既存窓の熱貫流率:アルミ製建具+単板ガラスでUw6.51 W/㎡K(平成28年省エネ基準の建具・ガラス組合せ表)
  • 改修後:SS区分の上限値Uw1.10 W/㎡K → 差は5.41 W/㎡K
  • 暖房度日:気象庁の東京の月平均気温平年値(1991〜2020年)から基準18℃で算出し1,585.7度日(38,057 K・h)
  • 冷房度日:同じ平年値から基準24℃で142.6度日(3,422 K・h)
  • エアコンの通年エネルギー効率はCOP3.0、電力単価は31円/kWhで計算

結果

項目

値

暖房期の熱損失削減量

834 kWh(熱量)

冷房期の熱損失削減量

75 kWh(熱量)

電力換算(COP3.0)

303 kWh/年

金額換算(31円/kWh)

年9,391円=月783円

前提を動かすと次の範囲に収まります。

変更する前提

月額削減額

COP2.5(古い機種)

939円

COP4.0(高効率機種)

587円

電力単価25円/kWh

631円

電力単価38円/kWh

959円

窓面積2.43㎡(掃き出し窓のみ)

470円

窓面積6.48㎡(掃き出し窓2枚)

1,252円

この783円は上限側の数字です。度日法は室温を基準温度で連続的に保つ前提なので、間欠運転が普通の単身向け住戸では実際の削減額はこれより小さくなります。それでも以降の比較では、入居者に最も有利なこの数字を使います。

オーナーの回収ライン|必要な家賃プレミアムを逆算する

月額の値上げ1円は、稼働率95%・管理料5%を通すと年間10.83円の手取り増になります。この手取り増の現在価値合計が改修費と一致する値上げ額を、保有年数ごとに逆算しました。ここでは出口価格への反映をまだ入れていません。

回収年数

補助あり(単純・割引率0%)

補助あり(割引率4%)

補助なし(単純)

補助なし(割引率4%)

3年

4,247円

4,592円

8,495円

9,183円

5年

2,548円

2,862円

5,097円

5,725円

10年

1,274円

1,571円

2,548円

3,142円

15年

849円

1,146円

1,699円

2,292円

20年

637円

938円

1,274円

1,875円

逆に、値上げ額を先に置いて単純回収年数を見るとこうなります。

月額の値上げ

年NOI増(8戸)

単純回収年数(補助あり)

単純回収年数(補助なし)

783円(光熱費削減額の上限)

67,839円

16.3年

32.5年

1,000円

86,640円

12.7年

25.5年

2,000円

173,280円

6.4年

12.7年

3,000円

259,920円

4.2年

8.5年

「3年で回収」は家賃だけでは成立しない

スマサテが東京都・YKK AP・日本財託管理サービスと実施した「賃貸住宅の住宅性能を高める設備投資に関する意識調査」(2026年7月10〜29日、賃貸オーナー624名)では、改修費の回収期間について3年以内を期待する回答が73.6%、3〜5年が21.0%でした。同調査では、断熱性能の低い物件は決まりにくいと答えたオーナーが46.3%、内窓設置で入居者に選ばれやすくなると答えたオーナーが約9割となっています。

この「3年以内」を家賃だけで満たすために必要な値上げ額と、入居者に返る光熱費削減額を並べます。

回収年数

必要な月額値上げ

光熱費削減額(月783円)に対する倍率

3年・補助あり

4,592円

5.9倍

3年・補助なし

9,183円

11.7倍

10年・補助あり

1,571円

2.0倍

20年・補助あり

938円

1.2倍

家賃55,000円の1Kで月4,592円は8.4%の値上げです。更新時の値上げが退去確率をどこまで押し上げるかは更新時の家賃値上げと退去確率の損益分岐で検証していますが、1,000円程度の小幅な値上げでも入替コストに負ける水準が出てきます。月4,592円の値上げを既存入居者に通すことは、実質的に入替を前提にする意思決定になります。

整理すると、保有中の家賃だけで内窓設置費を回収しようとすると、補助金を使えても20年単位の時間が必要です。オーナーの期待回収期間と、家賃経路で返ってくる速度が一桁ずれています。

構造が変わるのは出口|NOI増を収益価格に乗せる

ここまでの計算は、改修の便益を保有中の家賃だけで受け取る前提でした。しかし値上げが定着すればNOIが増え、収益還元で評価される売却価格も上がります。出口での価格上乗せを現在価値で織り込んで、必要な値上げ額を再計算しました(割引率4%)。

保有年数

補助あり・出口7%

補助なし・出口7%

補助あり・出口6%

補助なし・出口8%

3年

823円

1,647円

724円

1,835円

5年

787円

1,574円

702円

1,731円

10年

717円

1,435円

658円

1,539円

15年

669円

1,338円

625円

1,411円

必要な値上げ額が一気に落ちます。補助ありの10年保有で717円、3年保有でも823円です。出口を入れないと3年で4,592円必要だったものが、823円まで下がりました。

10年保有・717円のケースで内訳を見ると、回収額の約54%が出口での価格上乗せの現在価値、約46%が保有10年間の手取り増でした。つまり内窓設置は、家賃で元を取る工事ではなくNOIを恒久的に押し上げて収益価格に載せる工事として評価したほうが実態に合います。

そしてこの前提で初めて、必要な値上げ額(717〜823円)が入居者の光熱費削減額(月783円)と同じ桁に入ります。必要値上げ額が783円を下回る保有年数を逆算すると、補助あり・出口7%で5.3年でした。出口を入れない場合は26.9年、補助が使えない場合は出口を入れても必要額1,435円が783円を超え、この前提では到達しません。

出口の収益価格は、還元利回りとNOIの2つだけで動きます。手元の物件のNOI増がいくらの価格差になるかは、収益還元法・収益価格シミュレーターでNOIを±10〜20%動かした感応度表として確認できます(登録不要)。本記事は還元利回り7.0%で固定していますが、ここは物件の構造・立地で大きく動く変数です。

出口利回りが高い物件ほど、断熱改修は回収できない

前節の結果は還元利回りに強く依存します。月717円の値上げが生むNOI増(1戸あたり年7,765円)を、出口利回り別に収益価格の増加額へ換算しました。

出口(還元)利回り

収益価格の増加(1戸)

実質負担138,000円に対する倍率

5.0%

155,302円

1.13倍

6.0%

129,418円

0.94倍

7.0%

110,930円

0.80倍

8.0%

97,064円

0.70倍

9.0%

86,279円

0.63倍

同じ工事費、同じ値上げ額でも、出口利回りが5%の物件では価格上乗せだけで実質負担を上回り、9%の物件では0.63倍しか戻りません。差は1.8倍です。

これは直感と逆の向きに効きます。断熱性能が低く家賃も安い高利回り物件ほど改修の必要度は高いのに、還元利回りが高いために、同じNOI増から戻ってくる価格が小さいという構造です。還元利回りの決まり方は還元利回り(キャップレート)の調べ方で整理しています。

ただしこの計算は、買い手が増えたNOIを同じ還元利回りで素直に評価することを前提にしています。実際には、改修による賃料上乗せ分を買い手が「一時的なもの」と見て割り引く可能性があります。相関で言えば、省エネ性能の高い物件の価格が高いというデータがあったとしても、それは立地や築年数の差を含んでおり、断熱改修が価格を押し上げた因果の証明にはなりません。本記事の出口効果はあくまで「NOI増が100%評価された場合」の上限値です。

家賃を上げない場合|募集期間を何日短縮できれば元が取れるか

既存入居者の家賃は動かさず、空室の決まりやすさだけで回収する経路も計算しました。平均入居年数4年(退去頻度0.25回/年)とすると、募集期間1日の短縮は年換算で435円の便益になります。

回収年数

必要な短縮日数(補助あり)

必要な短縮日数(補助なし)

3年

114.2日

228.4日

5年

71.2日

142.4日

10年

39.1日

78.2日

15年

28.5日

57.0日

補助ありで10年なら、退去1回あたり39.1日の短縮で足ります。募集期間が2か月の物件が1か月強で決まるようになれば届く水準で、前述の調査で「内窓設置で選ばれやすくなる」とした約9割のオーナーの体感とは整合します。補助なしの78.2日は、募集期間を2か月以上丸ごと消す必要があり、現実味は下がります。

この経路には、家賃経路にない利点があります。値上げによる退去リスクを発生させないため、入替コストを増やしません。退去1回あたりの入替コストの大きさは退去1回30.7万円の入替コスト試算で整理しています。

3つのシナリオで比較する

10年保有を前提に、条件を組み合わせて比較しました。必要な値上げ額が光熱費削減額(月783円)を下回れば、入居者の家計の中で説明できる範囲に収まっていると読みます。

シナリオ

条件

必要な月額値上げ

家賃比

783円との差

BASE

補助あり/出口7%/割引率4%

717円

1.30%

−65円

STRESS

補助なし/出口8%/割引率6%

1,777円

3.23%

+995円

IMPROVED

補助あり/出口6%/割引率4%

658円

1.20%

−125円

BASEとIMPROVEDは上限の内側、STRESSは2.3倍外側です。悪化させた3条件のうち効いているのは補助金の有無で、出口利回りと割引率の悪化分を合わせても補助金1本の影響には届きません。

稼働率と管理料の悪化も確認しましたが、影響は限定的でした(BASE条件で稼働90%なら757円、稼働85%・管理料8%なら828円)。家賃水準で見ると、必要な値上げ額の家賃比は家賃45,000円で1.59%、55,000円で1.30%、65,000円で1.10%です。家賃の安い物件ほど、同じ工事費を回収するのに必要な値上げ率が高くなります。

結果から分かること

  • 家賃だけで3年回収は不可能だった。必要な値上げは月4,592円(補助あり)で、入居者に返る光熱費削減額の5.9倍。補助なしなら11.7倍。オーナー調査で73.6%が期待する「3年以内」は、家賃経路では満たせない。
  • 成立する経路は出口だった。NOI増を収益価格に乗せると必要値上げ額は10年保有で717円まで下がり、回収額の約54%は出口の価格上乗せで説明される。
  • 転換点は保有5.3年。補助あり・出口7%なら、保有5.3年以上で必要値上げ額が光熱費削減額(月783円)の範囲に入る。
  • 補助金の有無が成立/不成立を分ける。補助が使えない場合、出口を入れても必要値上げ額1,435円は上限783円を超え、この前提では到達しない。他の条件の悪化は、この1点に比べれば小さい。
  • 出口利回りが高い物件ほど戻りが小さい。同じNOI増でも価格への反映は出口5%で実質負担の1.13倍、9%で0.63倍。改修の必要度が高い高利回り物件ほど、出口での回収が弱い。
  • 値上げを避ける経路もある。家賃を据え置いたまま、退去1回あたり39.1日の募集期間短縮でも補助ありなら10年で回収できる。

いずれも「買い」「見送り」を一つに決める結論ではありません。読み方としては、収益性(保有中CFへの寄与)は小さく、価値の大半が出口価格への感応度に乗っている投資だと整理できます。短期で売る前提の物件、または出口利回りの高いエリアの物件では、同じ工事が別の性格の支出になります。

投資判断への使い方

  1. 先に申請可否を確認する。補助金の有無で負担が2倍変わり、成立/不成立が反転します。賃貸住宅での利用可否・予算残・工事着手日の条件を、工事内容を決める前に事務局へ確認します。
  2. 出口利回りを先に置く。保有中CFよりも出口での価格反映のほうが回収の主役なので、想定還元利回りが定まらないうちは判断できません。
  3. 回収経路を「値上げ」と「募集期間短縮」に分ける。既存入居者の値上げは退去リスクを伴うため、退去時のみ新賃料を適用する/家賃据え置きで募集力に振る、の2通りで別々に計算します。
  4. 戸数で丸めない。窓面積が大きい住戸ほど削減額も工事費も増えます。掃き出し窓1枚の住戸と2枚の住戸では光熱費削減額が月470円と1,252円で2.7倍違います。
  5. 他の修繕の山と重ねない。内窓設置は先送りできる支出です。給湯器・エアコンの更新年や大規模修繕の年と重なると、手元資金の制約が先に来ます(大規模修繕の年に必要な手元資金、設備更新費用が重なる年)。

手元の物件で、値上げや稼働率の改善が保有中のキャッシュフローとDSCRをどこまで動かすかは、キャッシュフローシミュレーターに自分の家賃・運営費・借入条件を入れて確認できます(登録不要)。金利・空室・修繕費を同時に動かしたい場合は、変数が増えるほど表計算では確認項目が増えます。RE-AIは複数条件をまとめて確認できるよう設計していますが、改修の意思決定そのものを置き換えるものではありません。

この分析で分からないこと

  1. 実際の工事費。本記事は補助単価の2倍を標準工事費としましたが、実際は窓の寸法・納まり・階数・戸数ロットで変わります。1棟一括発注なら単価は下がり、足場や特殊納まりがあれば上がります。
  2. 実際の賃料プレミアム。内窓設置で何円の家賃が取れたかを示す公的な統計は確認できませんでした。本記事の「必要値上げ額」は回収に必要な水準であり、市場で取れる水準ではありません。
  3. 光熱費以外の便益。内窓の価値は冷暖房費だけではありません。防音・結露抑制の価値は別に乗ります。前述の調査では線路・幹線道路沿いの物件が決まりにくいと答えたオーナーが66%、内窓の効果が大きい物件として騒音・結露の環境改善を挙げた回答が45.4%でした。月783円は「家計に直接返る分」の上限であり、支払意思額そのものの上限ではありません。
  4. 熱損失計算の精度。月平均気温ベースの度日法を使い、連続運転・日射取得の変化・換気や壁体からの熱損失を扱っていません。間欠運転の実態を踏まえれば実際の削減額は小さく、Low-Eガラスによる日射遮蔽を踏まえれば冷房側はやや大きくなる可能性があります。
  5. 税務の扱い。税引前の計算です。資本的支出としての償却年数、個人/法人、課税所得水準によって税引後の回収速度は変わります。
  6. 買い手の評価。出口効果はNOI増が還元利回りで100%評価される前提です。実際に買い手がどこまで評価するかは市況と個別交渉に依存します。
  7. 将来の制度変更。省エネ基準の引き上げ、表示制度の義務化範囲、補助事業の継続性はいずれも変わり得ます。本記事の情報確認日は2026年10月27日です。

まとめ

アパートの内窓設置は、「家賃をいくら上げられるか」で評価すると成立しにくい投資でした。補助金を使えても、保有中の家賃だけで回収するには月1,571円(10年)から4,592円(3年)の値上げが必要で、入居者に返る光熱費削減額の2〜5.9倍です。賃貸オーナーの7割超が期待する3年回収は、この経路では届きません。

成立の鍵はNOI増が収益価格に乗ることで、出口を含めれば必要な値上げ額は10年保有で717円まで下がり、保有5.3年を超えると光熱費削減額の範囲に収まります。ただしそれは補助金が使えた場合の話で、補助が使えない場合は出口を含めても必要額が上限を超えました。そして出口利回りが高い物件ほど、同じNOI増から戻る価格は小さくなります。

断熱改修は「決まりやすさ」の話として語られがちですが、数字で見る限りは補助金の申請可否と出口利回りで成否が決まる、出口依存型の支出です。制度側が省エネ性能を表示する方向に動いているのは事実ですが、それが賃料や価格として返ってくるかは、物件ごとに計算して確かめる必要があります。

参考資料・出典

本記事の数値は、上記の公開データを前提条件として設定した条件付きシミュレーションです。実際の物件統計ではありません。工事費・賃料プレミアム・出口価格はすべて設定値または計算値であり、特定の物件の実測値ではありません。情報確認日:2026年10月27日。

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鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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