
木造アパートの1室が何カ月も空室のままだと、「いっそ民泊に転用したらどうか」と考える投資家は少なくありません。しかし住宅宿泊事業法には年間180日という上限があり、家主不在型なら管理業者への委託費用もかかります。通常の家賃値下げと比べて、本当に手残りは増えるのかを試算しました。
観光庁の公表資料によると、2026年5月時点の届出住宅数は40,745件(累計63,658件の届出から廃業等を除いた数)で、令和8年2〜3月の延べ宿泊者数は約172万人泊、前年同期比で43.0%増えています。宿泊者のうち外国人が57.8%を占め、宿泊者数は東京都が全体の約半数、次いで北海道・福岡県が続く状況です。インバウンド需要の回復を背景に、空室の活用先として民泊を検討する大家が増えている理由はここにあります。
ただし住宅宿泊事業法(民泊新法)には、旅館業法とは違う制約があります。もっとも重要なのが、人を宿泊させられるのは「年間180日以内」という上限です。180日を超えて営業するには旅館業法の許可が必要になり、住宅宿泊事業の届出だけでは足りません。さらに、生活環境の悪化を防ぐ目的で、自治体が条例によってこの180日をさらに短縮したり、特定の区域・曜日に限定したりできる仕組みもあります。法律上は住居専用地域でも民泊事業自体は可能とされていますが、実際にどこまで営業できるかは物件所在地の条例を個別に確認しないと分かりません。
また、オーナー自身がその住宅に居住しない「家主不在型」で運営する場合は、国土交通大臣の登録を受けた住宅宿泊管理業者に管理業務を委託することが法律上の義務です。空室対策として民泊を検討する多くのケースは、この家主不在型に該当します。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実在の物件や運営実績を示すものではありません。地方都市近郊で築20年・6戸の木造アパートを保有し、1室(専有面積20㎡程度のワンルーム)が4カ月以上空室という投資家を想定します。物件価格は3,680万円、月額家賃4.3万円×6戸×12カ月で満室想定年間家賃収入は309.6万円、表面利回りは8.4%です。この物件の空室1室について、「現状維持」「家賃値下げ」「民泊転用(家主不在型)」の3つを比較します。
ケース | 内容 | 年間収入の目安 |
|---|---|---|
A:現状維持 | 家賃4.3万円のまま空室が継続 | 0円 |
B:家賃値下げ | 4.3万円→3.9万円に値下げして成約を狙う | 46.8万円 |
C:民泊転用(家主不在型) | 年間提供180日、稼働率・単価は後述の仮定値 | 約13.2万円(手取り目安) |
ケースCの内訳は次のとおりです。ここでの稼働率45%・宿泊単価7,500円は、裏付けとなる公的統計がないため、仕組みを理解するための仮の設定値として置いたものであり、地域やエリアの実際の相場を示すものではありません。180日×稼働率45%=81泊、宿泊単価7,500円として、宿泊売上は60.75万円になります。ここからOTA(予約サイト)手数料として売上の15%(9.1万円)、清掃費を1泊あたり2,500円として81泊分20.3万円、家主不在型で義務となる住宅宿泊管理業者への委託手数料を売上の20%(12.2万円)、水道光熱費・消耗品等を売上の10%(6.1万円)と仮定すると、費用合計は47.6万円です。売上60.75万円から費用47.6万円を差し引くと、手取りは約13.2万円にとどまります。
この架空例では、家賃を4,000円下げて通常賃貸で成約させるケースBの46.8万円が、民泊転用のケースCの約13.2万円を上回りました。180日という上限と、家主不在型で避けられない管理委託費用・OTA手数料・清掃費を織り込むと、民泊転用が必ずしも有利にならない場合があることが分かります。自分の物件の家賃水準や空室期間を入れて同じように比較したい場合は、キャッシュフローシミュレーター(無料)で試算できます。
民泊運営に関する情報では、稼働率70〜80%、月間数十万円の売上といった好調な運用例が紹介されることがあります。こうした情報自体が誤りというわけではありませんが、収益物件の購入判断として受け取る際には、次の3点を確認する必要があります。
1つ目は、月間の売上をそのまま12倍して「年間でこれだけ稼げる」と捉えてしまう見落としです。住宅宿泊事業の届出だけで営業できるのは年間180日までで、残り半分近い期間は宿泊営業そのものができません。2つ目は、家主不在型で義務となる住宅宿泊管理業者への委託費用が試算から抜けているケースです。運営代行各社の公開情報では、フルサービス型の手数料は15〜30%程度とされており、これを差し引かずに「売上=手取り」と誤解すると、実際の収支との差が大きくなります。3つ目は、比較対象が「現状の空室」だけで、「家賃を調整した通常賃貸」という選択肢が比較に入っていないことです。前章の試算のとおり、180日上限とコストを織り込むと、家賃調整のほうが有利になる場合もあります。
民泊転用の是非は、「今月の空室が埋まるかどうか」だけで判断すると見誤りやすいテーマです。管理委託費や法令対応コストを織り込んだ年間の手取りを、家賃調整や設備投資による空室対策と並べて比較したうえで、保有を続けた場合の数年後の収支や、売却時の値付けへの影響まで含めて考える必要があります。空室対策そのものの選択肢については「築古アパートの空室対策、費用対効果で選ぶリフォーム優先順位ランキングTOP5」、管理会社への委託を前提とした空室対策の全体像は「収益物件の管理会社選びと空室対策|キャッシュフローを守るための完全ガイド」で整理しています。また、民泊と同じく第三者に運営を委ねる方法としてサブリースがありますが、こちらは「サブリース契約のリスクとは?家賃保証が減額される仕組みと確認ポイント」で解説した家賃保証の減額リスクとあわせて比較すると判断しやすくなります。用途地域による収益性への影響は「同じ土地価格でも用途地域が違うと収益性は変わるのか」も参考になります。こうした複数条件を同時に見て物件全体の収益性・リスク・出口を整理したい場合は、無料のAI診断も選択肢の一つです。
民泊転用は、空室対策の選択肢の一つとして検討する価値はありますが、年間180日という上限、家主不在型での管理委託の義務、自治体条例による制限を踏まえると、思ったほど手残りが増えないケースもあります。本記事の試算例では、家賃を小幅に調整して通常賃貸で成約させたほうが有利という結果になりましたが、エリアの宿泊需要やOTAでの集客力によって結論は変わり得ます。「埋まらないから民泊」と決めつける前に、通常賃貸の条件見直しや他の空室対策とあわせて、数字で比較することをおすすめします。
本記事の内容は、公表されている統計・制度情報と、仕組みを理解するための簡易な試算の紹介であり、特定の事業の実施や投資判断を保証するものではありません。住宅宿泊事業法や自治体条例の適用、保険契約の内容は個別の状況によって異なるため、実際に検討する際は自治体の窓口や登録住宅宿泊管理業者、保険会社等にも確認のうえ、ご自身の責任で判断してください。
情報確認日:2026年10月7日。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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