RE-AI

7体のAIによる収益物件評価プラットフォーム

管理・空室対策

古いアパートの空室対策、サービス付き高齢者向け住宅への転用は得か|自主運営とマスターリースで収支を比較した

古いアパートの空室対策、サービス付き高齢者向け住宅への転用は得か|自主運営とマスターリースで収支を比較した

地方や郊外で木造アパートを所有し、空室が3年以上埋まらない所有者の多くが、一度は「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)への転用」を検討します。ただし改修費・補助金・運営方式の組み合わせ次第で結果は大きく変わるため、ここでは架空の試算例で数字から確認します。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とは何か

サ高住は、2011年の高齢者住まい法改正で創設された登録制度に基づく住宅です。都道府県・市などへの登録にあたっては、主に次の基準を満たす必要があります。

  • 各居室の床面積が原則25㎡以上であること(共用の食堂・リビングなど十分な面積の共同利用スペースがある場合は、例外的に緩和される場合があります)
  • 便所・洗面設備等を備え、バリアフリー構造(段差解消、通路や共用部分の幅の確保など)であること
  • 少なくとも「状況把握(安否確認)サービス」「生活相談サービス」を提供すること
  • 前払家賃等を受け取る場合は、返還ルールと保全措置が講じられていること

介護サービス自体の提供は必須ではなく、あくまで「安心して住める住宅+見守り・相談機能」が制度の核になっています。一方で、通常のアパートとは異なり、床面積・バリアフリー・人的サービスという3つの条件を同時に満たす必要があるため、既存の賃貸アパートをそのまま登録することはできません。

転用には「自主運営」と「マスターリース」の2つの方式がある

所有者がサ高住への転用を検討する場合、実務上は大きく2つの方式に分かれます。

  • 自主運営方式:所有者自身が改修費を負担し、登録事業者として状況把握・生活相談サービスの提供体制(職員の配置や緊急通報システムの導入など)まで整える方式
  • マスターリース(一括賃貸)方式:所有者は建物を介護・福祉事業者などに一括で賃貸し、改修・登録・サービス提供は事業者側が行う方式。所有者の収入は事業者から受け取る賃料に一本化される

この2方式は、改修費を誰が負担するか、補助金を誰が受け取るか、空室リスクを誰が負うかという点で構造がまったく異なります。「サ高住転用」という言葉だけで検索すると改修事例や補助金の説明に行き着きやすいのですが、どちらの方式を前提にしているかによって所有者の収支は逆の結論になることがあります。以下、架空の試算例でそれぞれ確認します。

架空例の前提:空室が続く8戸の木造アパート

以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実在の物件や事業者を示すものではありません。

  • 物件:木造アパート、築32年、総戸数8戸(各20㎡・1K)
  • 現在の入居:5戸、空室:3戸(空室率37.5%)
  • 現行家賃:45,000円/戸・月
  • 年間家賃収入:270万円(45,000円×12か月×5戸)
  • 年間運営費(管理費・固定資産税・保険料など):90万円
  • 現状の年間キャッシュフロー:180万円

周辺の賃貸需要そのものが縮小しているケースでは、家賃を下げても稼働率が戻らないことがあります。この物件がある地域の賃貸需給をどう確認するかは、エリアの空室率の調べ方を整理した記事でも解説しています。

自主運営でサ高住に転用した場合の試算

サ高住の床面積基準(原則25㎡以上)を満たすため、この架空例では20㎡の居室を2戸ずつ結合し、8戸を4戸(約38㎡)に再編します。内装の全面改修・水回りの増設・バリアフリー化で1戸あたり400万円、共用廊下のバリアフリー化や緊急通報システムの導入などで共用部分に200万円を想定すると、改修費は次のようになります。

項目

金額

居室改修費(400万円×4戸)

1,600万円

共用部分の改修費

200万円

改修費合計

1,800万円

サ高住の整備(改修)には国の補助制度があり、国土交通省の資料では、共用廊下の設置や用途変更に伴う法令適合、車椅子使用者対応の設備設置などに該当する改修であれば、補助率1/3・限度額195万円/戸とされています。ここで見落とされがちなのは、「限度額195万円」は上限であって、実際の補助額は工事費×1/3とこの上限額の低い方になるという点です。この架空例の居室改修費400万円/戸であれば、1/3は約133.3万円/戸となり、195万円の上限より先にこちらが効きます。

補助対象を居室部分(1,600万円)のみとして計算すると、補助金総額は約133.3万円×4戸=約533万円。共用部分の200万円は別区分の手続きが必要になることが多く、ここでは架空例として補助対象外(自己負担)とします。改修費1,800万円から補助金533万円を引いた実質負担額は、約1,267万円です。

転用後は家賃に状況把握・生活相談サービス費を含めて90,000円/戸・月とし、安定稼働まで時間がかかることを踏まえて稼働率85%(4戸中3.4戸相当)を想定します。

転用前(8戸)

転用後・自主運営(4戸)

年間収入

270万円

367.2万円

通常運営費

90万円

90万円

状況把握・生活相談の人件費等

-

180万円

年間キャッシュフロー

180万円

97.2万円

この架空例では、転用後の年間キャッシュフローは97.2万円となり、転用前の180万円より年間82.8万円悪化します。家賃単価は45,000円から90,000円(サービス費込み)に上がっているにもかかわらずCFが悪化するのは、戸数が8戸から4戸に半減した影響と、状況把握・生活相談サービスを自前で提供するための人件費負担が、収入増加分を相殺しているためです。さらに改修費の実質負担1,267万円は、このキャッシュフロー悪化のもとでは一切回収できません。「高齢者向けなら家賃を上げられるから得」という単純な発想だけで自主運営の転用を決めるのは危険だということが、この試算から分かります。

自分の物件の家賃・戸数・運営費でキャッシュフローを計算する(無料ツール)

マスターリース方式に変えると、結論が逆転する

一方、所有者が建物を介護・福祉事業者に一括賃貸し、改修・登録・サービス提供のすべてを事業者側が行うマスターリース方式では、前提が変わります。事業者が長期の運営を見込んで改修費を事業者側で負担するケースでは、所有者は改修費を負担せず、代わりに事業者から一括の賃料を受け取ります。

この架空例では、一括賃料を月額28万円(年間336万円)、所有者側の運営費(固定資産税・保険料など、管理業務は事業者側が担うため圧縮)を年間50万円と仮定します。

転用前(自主管理)

マスターリース

年間収入

270万円

336万円

所有者の運営費

90万円

50万円

所有者の改修費負担

-

0円(事業者負担が前提)

年間キャッシュフロー

180万円

286万円

この架空例では、マスターリース方式は年間キャッシュフローが180万円から286万円へ106万円改善し、改修費の負担もありません。自主運営では悪化、マスターリースでは改善という、正反対の結果になります。

ただし、これは「マスターリースの方が常に得」という結論ではありません。一括賃貸である以上、契約期間中の賃料減額や、事業者の経営状況によっては契約解除・撤退のリスクを所有者が負う点は、サブリース契約と同じ構造です。特に、事業者が改修費を負担する契約では、長期(10〜20年など)の契約期間や、中途解約時の原状回復・改修費相当の精算条項が設定されることが多く、契約内容を精査しないまま「賃料が上がるから得」と判断するのは早計です。サブリース契約の解約条件や手数料の考え方は、サブリース契約は解約できるのかを整理した記事やサブリース契約のリスクを解説した記事でも確認できます。事業者が撤退した場合、通常のアパートに戻すにも再改修が必要になる可能性がある点も、契約前に確認しておくべきポイントです。

サ高住転用を検討する前に確認したいポイント

  • 床面積基準(原則25㎡以上)を満たすために、何戸をいくつに再編する必要があるか、戸数減少の影響を織り込んでいるか
  • 自主運営する場合、状況把握・生活相談サービスの人件費・委託費を、保守的に見積もっているか
  • マスターリースを検討する場合、改修費の負担者・補助金の受給者・契約期間・中途解約条項を事業者とどう取り決めるか
  • エリアに実際の高齢者向け住宅の需要があるか(高齢世帯の増減、近隣の競合施設の稼働状況)
  • 転用以外の選択肢(建て替え・大規模修繕・売却)と比較したうえで判断しているか

特に最後の点は見落とされやすい視点です。空室が続く築古アパートの対応策としては、建て替え・修繕・売却という3つの選択肢を比較した築30年アパートは建て替えか、修繕か、売却かを試算した記事がありますが、サ高住転用はこの3択に並ぶ「4つ目の選択肢」として、同じ土台(長期キャッシュフローと必要な利回り)で比較する必要があります。単独の選択肢として「得か損か」を評価するのではなく、他の選択肢と条件をそろえて比較しなければ、見かけ上の家賃上昇に判断を引きずられてしまいます。民泊への転用を検討する場合の考え方は空室対策としての民泊転用は本当に得かを試算した記事で、高齢の入居者を個別に受け入れる場合の収支への影響は単身高齢者の入居を受け入れると収支はどこまで悪化するのかを試算した記事で、それぞれ別の切り口から整理しています。

まとめ

サ高住への転用は、家賃単価を上げられる可能性がある一方で、床面積基準を満たすための戸数減少、改修費の実質負担、サービス提供の人件費という3つのコストを伴います。この記事の架空例では、自主運営はキャッシュフローが悪化し、マスターリースは改善するという対照的な結果になりました。どちらの方式が自分の物件に当てはまるかは、戸数・改修単価・サービス費用・契約条件によって変わるため、建て替え・修繕・売却といった他の選択肢と条件をそろえて、長期のキャッシュフローで比較する視点が欠かせません。

ご自身の物件で、転用・修繕・建て替え・売却といった複数の選択肢を同じ条件で比較したい場合は、RE-AIの無料診断を試す方法もあります。https://www.re-aipro.jp/free-diagnosis

本記事の試算は理解しやすくするための架空例であり、実際の改修費・補助金額・賃料・稼働率は物件・エリア・事業者によって異なります。補助金の対象・金額・申請手続き、登録基準の詳細については、国土交通省または登録窓口となる都道府県・市などへ事前にご確認ください。

参考資料・出典(情報確認日:2026年10月13日)

  • 国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅」登録基準に関する公表資料
  • 国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅整備事業」ポイント資料(補助率・補助限度額)
  • 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果」(全国の空き家率13.8%)
  • 本記事中の改修費・賃料・稼働率・補助対象の範囲に関する数値は、理解を助けるための架空の試算例であり、特定の物件・事業者の実例を示すものではありません。

#不動産投資 #空室対策 #サ高住 #サービス付き高齢者向け住宅 #マスターリース #キャッシュフロー #管理会社

この記事をシェアする

この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

分析実績 87件(2026/08/07時点)X(旧Twitter)プロフィールと執筆記事 →