
地方や郊外で木造アパートを持ち、空室が3割を超えたまま埋まらない所有者の多くが、民泊やサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)と並んで「シェアハウスへの転用」を一度は検討します。ただし改装費の負担者と運営方式の組み合わせによって、収支の結論は逆転します。ここでは架空の試算例で数字から確認します。
シェアハウスは、1つの賃貸物件に親族ではない複数の入居者が、個室を専有しながらキッチン・浴室・リビングなどを共用して暮らす賃貸形態です。通常のアパート(共同住宅)と異なり、各室に独立したキッチン・浴室を設けない代わりに、共用部分の充実度で入居者を集める点が特徴です。
注意が必要なのは、建築基準法上の扱いです。国土交通省は、シェアハウスが「具体的な構造・形状によって」共同住宅ではなく「寄宿舎」に区分される場合があるとしています。寄宿舎に区分されると、避難・防火に関する規定が通常のアパートより厳しくなるのが原則ですが、既存の建物を転用するケースを想定して、2014年(平成26年)3月に規模の小さい寄宿舎向けの緩和規定が設けられました。この緩和規定の対象になるのは、おおむね次の条件を満たす場合です。
つまり、改装費や運営方式を検討する前に、まず「自分の物件がこの規模に収まるか」を確認する必要があります。延床面積や総居室数が基準を超える場合は、2方向避難路の確保など追加の防火・避難対応が必要になり、改装費が大きく変わる可能性があります。具体的な適用は建物の状態や所管行政庁の判断によって異なるため、計画段階で建築士・特定行政庁に確認することが欠かせません。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実在する物件や事業者を示すものではありません。
項目 | 数値 |
|---|---|
所在エリア | 地方都市郊外(想定) |
構造・築年 | 木造・築32年 |
総戸数 | 8戸(各1K・20㎡) |
延床面積 | 約180㎡(専有160㎡+共用20㎡) |
現在の入居 | 5戸(空室3戸、空室率37.5%) |
現行家賃 | 43,000円/戸・月 |
現状年間収入 | 258万円 |
現状年間運営費(管理費・固定資産税・保険等) | 75万円 |
現状年間キャッシュフロー | 183万円 |
延床約180㎡・8室(4室×2階)であれば、前章で確認した緩和規定(延床200㎡以下・居室6/階以下・総居室12以下)の範囲に収まる規模です。ただし戸数を増やしたり、居室を広げたりすると基準を超える可能性があるため、この前提はあくまで一例です。
シェアハウス化の改装費は、物件の状態や工事範囲によって大きく変わります。業界メディアの解説記事では、戸建て1軒をシェアハウスに転用する場合の目安として、改装費200万〜300万円に家具・家電100万円程度を加える例が紹介されていますが、これは個室数の少ない戸建てを想定した金額です。本記事の架空例は8室・複数ユニットのアパートを対象にするため、この目安を参考に、独自に前提を設定しました。
項目 | 金額 |
|---|---|
共用部改修(キッチン2基・ダイニング・洗面増設、防音・消防対応) | 550万円 |
各室の改修(防音パーティション強化・施錠設備・内装、8室×55万円) | 440万円 |
改装費合計 | 990万円 |
自分の物件でこの改装費を融資でまかなう場合、DSCR(返済余裕率)がどこまで下がるかを事前に確認しておく必要があります。DSCRの基本的な考え方は不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例で解説しています。
転用後の家賃は38,000円/室・月(管理費・共用部公共料金込み)、想定稼働率は90%とします。稼働率90%・単価38,000円は、裏付けとなる公的統計がないため、仕組みを理解するための仮の設定値として置いたものであり、実際の相場を示すものではありません。年間収入は共通で、38,000円×12か月×8室×90%=約328.3万円です。この収入を前提に、「専門会社への管理委託」と「自主運営」の2方式で運営費を比較します。
項目 | 金額 |
|---|---|
年間収入 | 328.3万円 |
固定費(管理費・固定資産税・保険等) | 75万円 |
管理委託費(収入の20%と仮定) | 65.7万円 |
清掃等の共用部維持費 | 36万円 |
年間運営費合計 | 176.7万円 |
年間キャッシュフロー | 151.6万円 |
現状(183万円)との差 | ▲31.4万円 |
稼働率が37.5%から90%に上がって収入が増えても、専門会社への委託費と清掃等の維持費が新たに発生するため、この架空例ではキャッシュフローは現状より悪化します。
項目 | 金額 |
|---|---|
年間収入 | 328.3万円 |
固定費(管理費・固定資産税・保険等) | 75万円 |
清掃等(一部外注) | 12万円 |
年間運営費合計 | 87万円 |
年間キャッシュフロー | 241.3万円 |
現状(183万円)との差 | +58.3万円 |
改装費990万円の回収年数 | 約17.0年 |
自分の物件の家賃・戸数・運営費を入れて同じように試算したい場合は、キャッシュフローシミュレーター(無料)で確認できます。
同じ収入(328.3万円)でも、運営方式によってキャッシュフローが151.6万円と241.3万円に分かれ、現状と比べて悪化するか改善するかの結論が逆転しました。これは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)への転用で見られた結果とは逆方向です。サ高住への転用を試算した記事では、改修費を事業者が負担するマスターリース方式のほうが所有者にとって有利という結果でした。これに対しシェアハウスでは、改装費990万円はどちらの方式でも所有者が負担したままで、運営費だけを外部化するかどうかが分かれ道になります。管理委託費はそのまま追加コストとして収支に乗るため、所有者自身が手間をかけられるかどうかが結論を左右します。
空室対策としての用途転用には、民泊・サ高住・シェアハウスという3つの選択肢があり、それぞれ規模制限の考え方が異なります。
項目 | 民泊 | サ高住 | シェアハウス |
|---|---|---|---|
主な法令 | 住宅宿泊事業法 | 高齢者住まい法 | 建築基準法(寄宿舎規定) |
戸数を維持しやすいか | 維持可能(年180日上限あり) | 床面積基準(原則25㎡)で戸数が減る場合がある | 公的な最低居室面積基準がなく維持しやすい |
規模の主な制約 | 自治体条例による期間・区域制限 | 補助金区分・バリアフリー基準 | 延床200㎡・居室6/階・12室以下が目安 |
サ高住への転用では、床面積基準(原則25㎡以上)を満たすために部屋を結合し、戸数が減ることが多くの場合の弱点でした(古いアパートの空室対策、サ高住への転用は得かを試算した記事)。シェアハウスには個室の最低面積基準がないため、今回の架空例のように戸数を8室のまま維持できる点が構造的な違いです。一方、民泊は空室対策としての民泊転用は本当に得かを試算した記事で確認したとおり、年間180日という営業日数の上限があり、戸数は維持できても「年中埋まる」わけではありません。
シェアハウス経営を紹介する記事では、次のような説明で終わっていることがあり、購入・転用の判断材料としては不十分な場合があります。
具体的な改装の工事範囲によっては、築古アパートの空室対策、費用対効果で選ぶリフォーム優先順位ランキングで紹介している小規模なリフォームのほうが、投資回収の面で有利な場合もあります。転用ではなく管理会社の変更や賃料調整で対応できないかも、あわせて検討してください。
空室が続くアパートのシェアハウス転用は、建築基準法上の規模制限(延床200㎡・居室6/階・12室以下が目安)に収まるかどうかがまず前提になります。本記事の架空例では、改装費990万円を投じて稼働率を37.5%から90%に上げても、専門会社への管理委託では収支が悪化し、自主運営では改善して改装費を約17年で回収できるという、運営方式によって正反対の結論になりました。民泊やサ高住への転用と同様、「家賃を上げられるから得」という単純な発想ではなく、改装費の負担者・運営の手間・回収年数まで含めて、他の空室対策の選択肢と同じ条件で比較することが欠かせません。
複数の選択肢を自分の物件条件で横並びに比較したい場合は、RE-AIの無料診断を試す方法もあります。ただし診断結果はあくまで入力条件に基づく試算であり、投資の成果や物件の適否を保証するものではない点にご留意ください。
本記事の試算はすべて、理解しやすくするための架空例であり、実際の改装費・賃料・稼働率・管理委託費は物件・エリア・事業者によって異なります。建築基準法上の規模要件や消防法の適用については、個別の建物の状態や所管行政庁の判断によって結論が変わるため、着工前に建築士・特定行政庁へ必ず確認してください。
情報確認日:2026年10月25日(建築基準法上の規模要件・改装費の参考情報を確認したうえで、民泊・サ高住への転用記事との内部リンクを追加しました)。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。