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金利上昇で危ないのは既存オーナーではなかった|短プラ実績+1.15ptを購入年別に当てはめ、DSCR1.00までの余裕を逆算した

金利上昇で危ないのは既存オーナーではなかった|短プラ実績+1.15ptを購入年別に当てはめ、DSCR1.00までの余裕を逆算した

不動産投資の記事でよく見る「金利が1%上がったらどうなるか」という試算は、長いあいだ仮定の話でした。しかし短期プライムレート(短プラ)は2024年9月から5回改定され、累計で+1.15ptです。「もし1%上がったら」は、すでに起きたことになります。

そこでこの記事では、仮定の金利ではなく実際に起きた短プラの改定履歴を、購入年の違う3つのケースに当てはめます。目的は「金利が上がると危ない」という一般論の確認ではなく、DSCRにあと何pt分の金利余裕が残っているかを逆算することです。

結果は直感と逆でした。金利上昇で最もDSCRが低くなったのは、すでに借りている既存保有者ではなく、いまの金利といまの利回りで新規に借りるケースでした。

この記事で検証する疑問

  • 短プラ+1.15ptの実績を当てはめると、購入年別にDSCRとキャッシュフローはどれだけ変わったか
  • すでに決まっていて、まだ返済額に反映されていない上昇分はいくらあるか
  • DSCR1.20/1.00を割るのは金利何%か(残り余裕は何pt=利上げ何回分か)
  • いまから買う場合、同じ安全度を確保するには表面利回りとLTVをどう変える必要があるか

公開データ:短プラは2年で+1.15pt上がった

短期プライムレートの最頻値は、2009年1月から2024年8月まで1.475%で動きませんでした。その後の改定は次の通りです(日本銀行の公表値、2026年11月5日確認)。

実施時期

短プラ最頻値

改定幅

借入金利(短プラ+1.00pt)

2009年1月〜2024年8月

1.475%

—

2.475%

2024年9月

1.625%

+0.15pt

2.625%

2025年3月

1.875%

+0.25pt

2.875%

2026年2月

2.125%

+0.25pt

3.125%

2026年8月

2.375%

+0.25pt

3.375%

2026年11月

2.625%

+0.25pt

3.625%

累計の上昇幅は+1.15ptです。ここで見落とされやすいのが、改定と返済額への反映にズレがあることです。変動金利の見直しが年2回(4月・10月適用)で、その時点の短プラを参照する契約の場合、2026年11月の改定分は2027年4月まで返済額に入りません。2026年11月時点で返済額に反映されているのは+0.90pt分で、残る+0.25ptは「すでに決まっているが、まだ効いていない」状態です。

分析の前提条件(何を固定し、何を変えたか)

固定した条件

  • 物件種別:地方中核市の一棟アパート(長期融資に対応する構造を想定)
  • LTV:90%/融資期間:25年/元利均等返済
  • 金利タイプ:短プラ連動の変動金利(スプレッド+1.00pt、年2回・4月と10月に見直し、見直し時に残存期間で返済額を再計算)
  • 空室・滞納損:満室想定家賃の5%
  • 運営費:満室想定家賃の19%(管理料・修繕費・保険・公租公課・共用部光熱費などの合計)
  • 購入時のNOI率:満室想定家賃に対して76%(100%−5%−19%)
  • 家賃の変動:年+0.2%/運営費の変動:年+2.27%(いずれもCPIベースの実績。運営費の上昇は家賃で吸収できているのかで算出した数値を使用)

変えた条件

  • 購入年:2021年1月/2023年1月/2026年11月(これから買うケース)
  • それに伴う購入時の表面利回り:2021年8.59%、2023年8.10%、2026年7〜9月期7.91%(健美家「収益物件 市場動向」の一棟アパート・全国平均)
  • それに伴う適用金利の履歴と経過年数・残債・残存期間

物件価格を置いていない理由

この分析では物件価格を一切設定していません。DSCRは次のように分解できるため、表面利回り・NOI率・LTV・金利・融資期間が決まれば、物件価格が5,000万円でも3億円でも同じ値になります。

DSCR = (表面利回り × NOI率) ÷ (LTV × 年間返済額率)

価格を固定すると「この価格帯の人の話」になってしまうため、ここでは価格を置かず、金額は借入1億円あたりに正規化して表示します。借入3,000万円の方は0.3倍、2億円の方は2倍にして読んでください。DSCRは倍率なので、そのまま使えます。

購入年別に当てはめると、DSCRはどこまで下がったか

短プラの改定履歴を月次で当てはめ、見直しのたびに残存期間で返済額を再計算した結果です。金利はすでに確定している2027年4月適用の3.625%で揃えています(金額は借入1億円あたり・万円)。

 

2021年購入

2023年購入

2026年11月購入

購入時の表面利回り

8.59%

8.10%

7.91%

購入時の借入金利

2.475%

2.475%

3.625%

購入時DSCR

1.351

1.274

1.097

NOI(購入時→現在)

725.4→710.6

684.0→675.2

668.0

現在のNOI率

73.59%

74.45%

76.00%

年間返済額(購入時→3.625%)

536.8→595.3

536.8→600.7

608.8

年間CF(購入時→3.625%)

188.5→115.4

147.2→74.5

59.1

残債

8,216

8,869

10,000

残存期間

19.2年

21.2年

25.0年

3.625%でのDSCR

1.194

1.124

1.097

既存保有者の負担は確かに増えています。2021年購入組の年間返済額は536.8万円から595.3万円へ+10.9%、税引前CFは188.5万円から115.4万円へ▲73.2万円(▲38.8%)です。2023年購入組はCFの減少額がほぼ同じ▲72.7万円ですが、元のCFが小さいため減少率は▲49.4%になります。同じ金利上昇でも、CFの薄い物件ほど減少率が大きく出るというのが1つ目のポイントです。

もう1つは、NOIが減った原因です。2021年購入組の満室想定家賃は954.4万円から965.6万円へ+1.17%と、わずかに増えています。一方で運営費は181.3万円から206.7万円へ+13.99%。結果としてNOI率は76.00%から73.59%へ2.41pt下がりました。NOIの劣化は家賃下落ではなく運営費の上昇で起きています。

2027年4月に確定している+0.25pt

2026年11月時点で返済額に反映されているのは3.375%までです。2026年11月の短プラ改定分は、年2回見直しの契約なら2027年4月から効きます。

 

現在(3.375%)

2027年4月(3.625%)

年間返済額の増加

2021年購入 DSCR/年間CF

1.220/127.9

1.194/115.4

+12.6

2023年購入 DSCR/年間CF

1.150/88.3

1.124/74.5

+13.8

借入1億円あたり年12〜14万円、DSCRで0.026の低下です。単独では小さく見えますが、これは市場予想ではなく、すでに改定が実施済みで反映を待っているだけの確定事項という点が違います。手元のDSCRを点検するときは、いま適用されている金利ではなく反映後の金利で計算するのが正しい扱いです。

最もDSCRが低いのは、既存保有者ではなく「これから買う人」

ここが今回いちばん意外だった点です。同じ3.625%で揃えると、2021年購入組は1.194、これから買うケースは1.097。金利が+1.15pt上がった既存保有者より、いまから買う人のDSCRのほうが0.097低いという結果になりました。

差の内訳を、1要素ずつ積み上げて分解します。

ステップ

DSCR

寄与

出発点:2026年11月購入

1.097

—

① 購入時の表面利回りを7.91%→8.59%に戻す

1.191

+0.094

② 運営費インフレ5.8年分でNOI率を劣化させる

1.167

▲0.024

③ 元本進捗(残債8,216万円・残存19.2年)を反映

1.194

+0.027

到達点:2021年購入(3.625%)

1.194

—

寄与がいちばん大きいのは購入時の表面利回りの差(+0.094)でした。利回りが0.68pt低い物件を買うことのDSCRへの影響が、金利上昇を5年半吸収してきた既存保有者との差を逆転させています。

元本進捗の寄与(+0.027)は、2つの効果の差し引きです。残債が1,784万円減って返済額を押し下げる一方、残存期間が25年から19.2年に短くなることで元本返済の比重が上がり、返済額を押し上げます。「元本が進んでいるから金利上昇に強い」という効果は、期間短縮でかなり打ち消されることになります。実際に効いていたのは、借りた時期ではなく買った時の利回りでした。

逆算①:DSCRの基準線を割る金利はどこか

現在のNOI・残債・残存期間を固定し、金利だけを動かして基準線に当たる水準を逆算します。短プラの1回の改定幅が概ね0.25ptなので、残り余裕を「利上げ何回分」にも換算しました。

 

DSCR1.20を保てる金利上限

DSCR1.00を割る金利

3.625%からの余裕

0.25pt改定の回数換算

2021年購入

3.56%

5.79%

2.17pt

8.7回

2023年購入

2.93%

4.92%

1.30pt

5.2回

2026年11月購入

2.80%

4.51%

0.89pt

3.6回

読み方に注意が必要です。DSCR1.20を保てる上限は3つとも3.625%を下回っています。つまり2023年購入組とこれから買うケースは、すでにDSCR1.20を割っているということです(1.124/1.097)。2021年購入組も3.56%が上限なので、2027年4月の3.625%で1.194となり、わずかに下回ります。

一方、DSCR1.00(NOIで返済を賄える限界)までの余裕は大きく分かれました。2021年購入組は2.17pt=0.25ptの利上げ8.7回分、これから買うケースは0.89pt=3.6回分です。ここでいうDSCR1.00は税引前・修繕費を平準化した前提での限界であり、実際には納税と突発修繕があるため、DSCR1.00は「安全圏の下限」ではなく「すでに持ち出しが発生する水準」として見るべき値です。

逆算②:いま同じ安全度を確保するには、利回りとLTVをどう変えるか

これから買う側の問いに変換します。金利3.625%・融資期間25年・NOI率76%を固定したとき、目標DSCRを満たす条件は次の通りです。

目標DSCR

必要な表面利回り(LTV90%の場合)

許容LTV(表面利回り7.91%の場合)

必要な自己資金比率

1.00

7.21%

98.7%

1.3%

1.10

7.93%

89.8%

10.2%

1.20

8.65%

82.3%

17.7%

1.30

9.37%

76.0%

24.0%

DSCR1.20をLTV90%で確保するには表面利回り8.65%が必要です。市場実勢の全国平均は7.91%なので、0.74pt足りません。同じ1.20を実勢利回りのまま取るなら、LTVを82.3%まで下げる=物件価格の17.7%を自己資金で入れる必要があります(これに諸費用が別途かかります)。

逆に言えば、2021年の8.59%という利回りは、2.475%の金利ならDSCR1.351を生みましたが、3.625%の金利ではDSCR1.191しか生みません。「平均的な利回りの物件をフルローン寄りで買う」という組み立てが、金利上昇によってDSCR1.20の基準を満たさなくなったのが、いまの局面の実態です。

複合ストレス:空室と運営費が同時に進むとどうなるか

現実の悪化は単独では起きません。金利・空室率・運営費を同時に動かし、時間の経過も織り込んだ3シナリオです(DSCR/年間CF万円、借入1億円あたり)。

 

BASE(2027年4月時点)
空室5%・金利3.625%

STRESS(5年後)
空室10%・運営費5年進行・金利4.5%

SEVERE(10年後)
空室15%・運営費10年進行・金利5.5%

2021年購入

1.194/+115

1.027/+17

0.897/▲67

2023年購入

1.124/+74

0.963/▲24

0.836/▲108

2026年11月購入

1.097/+59

0.932/▲45

0.802/▲137

STRESSシナリオ(5年後)で、2021年購入組はDSCR1.027とぎりぎり1.00を保ちますが、2023年購入組と新規購入ケースは1.00を割り、借入1億円あたり年24〜45万円の持ち出しが発生します。これは悲観シナリオを作って不安を煽るためのものではなく、DSCR1.10前後で買うと「金利+0.9pt・空室+5pt・運営費5年分」という同時進行で持ち出しに入るという距離感を把握するためのものです。逆に言えば、DSCR1.20前後の余裕があれば同じ複合ストレスを吸収できます。

結果から分かること

  • 「金利1%上昇」は実績になった。短プラは+1.15pt。うち+0.90ptは返済額に反映済みで、+0.25ptは2027年4月適用を待っている状態。
  • 既存保有者のCFは借入1億円あたり年72〜73万円減った。減少額はほぼ同じだが、CFの薄い物件ほど減少率が大きい(▲38.8%と▲49.4%)。
  • NOIの劣化は家賃下落ではなく運営費の上昇で起きている。満室家賃+1.17%に対し運営費+13.99%、NOI率は2.41pt低下。
  • 最もDSCRが低いのは、いまから買うケース(1.097)。差の主因は金利ではなく購入時の表面利回り(寄与+0.094)。元本進捗の効果(+0.027)は期間短縮でかなり打ち消される。
  • DSCR1.00までの余裕は購入年で2.4倍違う。2021年購入組は2.17pt(利上げ8.7回分)、新規購入は0.89pt(3.6回分)。
  • いまLTV90%でDSCR1.20を取るには表面利回り8.65%が必要。実勢7.91%では0.74pt不足し、自己資金17.7%で埋める計算になる。

投資判断への使い方

この分析は「買うべきか」を決めるものではなく、自分の物件がどのくらいの余裕を持っているかを測る物差しとして使えます。

すでに持っている場合

  • いま適用されている金利ではなく、次の見直しで確定している金利でDSCRを計算し直す。
  • DSCR1.00を割る金利を把握し、現在の金利との差を「0.25ptの利上げ何回分」に換算して余裕を見る。
  • NOIの劣化が家賃側か運営費側かを切り分ける。運営費側なら管理委託料や保険の見直しが効き、家賃側なら募集条件の問題になる。
  • 余裕が1pt前後まで縮んでいる場合は、繰上返済・借換え・一部売却のどれが自分の条件で有効かを比べる段階に入る。

これから買う場合

  • 利回りとLTVは独立に決められない。表面利回りが実勢水準なら、目標DSCRは自己資金比率で作ることになる。
  • 金利の絶対水準だけでなく、表面利回り−金利の幅で判断する。利回りの低下は金利上昇と同じ方向に効く。
  • 初期DSCRは「いま返せるか」ではなく「複合ストレス後も返せるか」で決める。

今回の試算は金利3.375%・3.625%と表面利回り7.91〜8.59%を基準にしていますが、実際のDSCRはNOI・借入額・金利・融資期間の4つで決まるため、物件ごとに大きく変わります。自分の数字で確認したい場合は、RE-AIの無料DSCRシミュレーターでDSCRと金利ストレスを試算すると、現在の金利から0.5pt刻みで+2.0ptまで上げたときの年間返済額・DSCR・年間CFと、DSCR1.00〜1.30を下回る金利の目安をまとめて確認できます。本記事の「残り余裕は何pt」を自分の借入条件で置き換えるのに使えます。

なお、今回のように金利・空室率・運営費・出口価格を同時に動かすと確認項目が増えます。RE-AIでは収益性・融資・リスク・出口を横断して確認できるよう設計していますが、どの数値を前提に置くかは最終的に投資家本人の判断です。AIが投資判断の正しさを保証するものではありません。

この分析で分からないこと

  • 実際の融資条件:短プラ連動(スプレッド+1.00pt)を前提にしていますが、金融機関によって基準金利は独自の長期基準金利や調達金利連動の場合があり、上昇幅・反映時期は契約ごとに異なります。
  • 返済額据置ルールの有無:本試算は見直しのたびに返済額を再計算する前提です。125%上限などの据置ルールがある契約では、返済額の増加が抑えられる代わりに残債の減りが遅くなります(変動金利の返済額据置ルールは投資家を守るのかで検証しています)。
  • 個別物件の競争力:表面利回りは健美家の売り出し物件の全国平均であり、成約利回りでも個別物件の実力でもありません。同じ年に買っても物件差は平均差より大きくなり得ます。
  • NOI率の実態:76%は設定値です。戸数・築年・エリアで変わります。
  • 相関と因果:短プラ上昇と取引利回りの低下は同じ期間に並行して起きていますが、利回り低下の原因が金利だけとは言えません。建築費上昇、投資マネーの流入、エリア構成の変化など複数の要因が重なっている可能性があります。
  • 税務・売却時の市場環境:本試算は税引前CFで、減価償却・所得税・売却時の譲渡税と出口価格の変動は含んでいません。
  • 今後の金利:将来の短プラ水準は予測していません。表3は「どこで基準線に当たるか」の逆算であり、そこに到達するという予想ではありません。

まとめ

短プラ+1.15ptという実績を当てはめると、2021年購入組のDSCRは1.351から1.194、税引前CFは借入1億円あたり188.5万円から115.4万円へ下がりました。負担は確実に増えています。

しかし同じ金利で並べると、いちばんDSCRが低いのは既存保有者ではなく、これから買うケースの1.097でした。差の主因は金利ではなく購入時の表面利回りで、寄与は+0.094。元本が進んでいることの効果(+0.027)は、残存期間が短くなることでかなり打ち消されます。

結論を一つに決めるなら誤りになります。既存保有者の収益性はまだ維持されていますが、DSCR1.20の基準線は割っており、運営費インフレへの感応度が残っています。これから買う側は、金利の絶対水準よりも利回りと自己資金でDSCRをどう作るかが判断の中心になります。どちらの立場でも、点検すべきは金利の数字そのものではなくDSCR1.00までの距離が何pt残っているかです。

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参考資料・出典

情報確認日:2026年11月5日

データ区分:短プラ改定履歴と表面利回りは公開データ、家賃・運営費の変動率は公開データから算出した実績値、物件条件(LTV・融資期間・NOI率・空室率・スプレッド)は架空ケースの設定値、DSCR・CF・逆算結果は条件付きシミュレーションです。RE-AIの診断実績データは使用していません。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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