
戸建て投資を検討している方から多く聞かれるのが、「1戸しかないので、空室になったら家賃収入がゼロになるのが怖い」という不安です。この記事では、中古戸建てを想定した架空条件でDSCR(返済余裕度)とキャッシュフローを試算し、空室が何か月続くと返済が苦しくなるのか、複数戸を持つ一棟アパートとは何が違うのかを数値で確認します。
区分マンションや一棟アパートは複数戸のうち一部が空室になっても、残りの部屋からの家賃収入が入り続けます。一方で戸建て投資は1戸に1世帯が入居する形が基本のため、空室になった瞬間に家賃収入が0円になります。稼働率が「100%か0%」の二択になる点が、戸建て投資特有のリスク構造です。
ただし、この不安が実際にどれくらいの経営インパクトを持つのかは、DSCR(Debt Service Coverage Ratio:返済余裕度)で試算してみないと分かりません。DSCRの基本的な考え方については「不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例」で解説しています。
以下は仕組みを理解しやすくするために単純化した架空例です。実在する物件のデータではありません。
今回は「これから初めて収益物件を検討する人」「まとまった自己資金を用意しにくく、低価格帯から始めたい小規模投資家」を想定読者とし、物件種別は中古木造の戸建て賃貸としました。RE-AIブログではこれまで一棟アパートやRCマンションを想定した8,000万円前後の事例を多く扱ってきたため、今回はあえて戸建て投資で現実的な価格帯である1,000万〜3,000万円台を採用し、物件価格1,800万円、表面利回り9.0%という条件で試算します。
年間の元利均等返済額は、借入1,440万円・金利2.5%・期間20年の条件で計算すると約91.6万円になります。満室が続いた場合のNOI(満室想定家賃収入162万円-経費32.4万円)は129.6万円となり、DSCRは約1.42倍です。一般的にDSCR1.2〜1.3倍程度が一つの目安とされることが多く、満室であれば数値上は余裕があるように見えます。
次に、年間の空室月数が増えた場合にDSCRがどう変化するかを試算しました。経費はおおむね固定費であるとの前提を置き、家賃収入のみが空室期間に応じて減少するものとします。
年間空室月数 | 年間家賃収入 | NOI | DSCR |
|---|---|---|---|
0か月(満室) | 162.0万円 | 129.6万円 | 1.42倍 |
1か月 | 148.5万円 | 116.1万円 | 1.27倍 |
2か月 | 135.0万円 | 102.6万円 | 1.12倍 |
3か月 | 121.5万円 | 89.1万円 | 0.97倍 |
4か月 | 108.0万円 | 75.6万円 | 0.83倍 |
6か月 | 81.0万円 | 48.6万円 | 0.53倍 |
12か月(通年空室) | 0万円 | ▲32.4万円 | 算出不可(赤字) |
今回の条件では、空室2か月まではDSCRが1.12倍を保っていますが、3か月(年間の25%)に達するとDSCRは0.97倍まで下がり、家賃収入だけでは返済額を賄えなくなる計算になります。「1戸しかないから怖い」という感覚的な不安を数値に置き換えると、今回の条件では「年間3か月程度の空室」が一つの分岐点になるということです。自己資金比率や金利、経費率が変われば、この分岐点も変わります。自分の物件条件で確認したい場合は、RE-AIのDSCRシミュレーター(無料)で借入額や金利、想定家賃を入力して試算できます。
戸建て投資の最大の特徴は、空室のダメージが「1戸に集中する」ことです。同じ空室でも、4戸のアパートであれば1戸の空室が収入全体に与える影響は理論上25%、8戸であれば12.5%にとどまり、複数戸のうち何室が同時に空室になるかという確率の問題に変わります。この「戸数とDSCR割れ確率」の関係については「「空室率5%」は平均値でしかない|4戸・8戸・12戸・20戸・30戸でDSCR1.2割れ確率を20万回試算」で詳しく試算しています。戸建て投資はこの試算でいう「戸数1」の極端なケースにあたり、空室が発生した瞬間のインパクトは複数戸物件より大きくなりますが、その分物件価格や自己資金の必要額は小さく抑えやすいという特徴もあります。区分マンションの「空室=収入ゼロ」リスクについては「区分マンション投資のキャッシュフローとDSCR|「空室=収入ゼロ」を試算で確認する」で同様の視点から試算していますので、あわせて確認すると物件種別ごとのリスクの違いが整理しやすくなります。
今回の条件で通年空室になった場合、年間の返済額91.6万円に加えて固定費32.4万円がかかるため、年間で約124万円を家賃収入以外から補填する必要がある計算になります。実際には通年空室が続くケースは多くありませんが、募集期間が数か月に及ぶことは珍しくないため、空室期間中の返済・固定費を賄えるだけの手元資金をあらかじめ用意しておくことが重要です。どの程度の手元資金が必要かという考え方は、物件の戸数や自己資金比率によっても変わります。一般的な目安の考え方は「購入後の手元資金は家賃の何ヶ月分必要か|戸数×LTV×大規模修繕の有無36通りで資金ショート確率5%に抑える額を逆算」で試算していますので、戸建て投資を検討する際の参考にしてください。自分の物件条件でキャッシュフローの推移を確認したい場合は、RE-AIのキャッシュフローシミュレーター(無料)も活用できます。
戸建て投資の「空室=収入ゼロ」という構造そのものを変えることはできませんが、リスクの大きさを把握した上で備えることはできます。たとえば、退去予告を早めに把握できる管理体制を整えておくこと、空室期間中の固定費と返済額を賄える手元資金を確保しておくこと、自己資金比率を高めにしてDSCRに余裕を持たせておくことなどが考えられます。また、1戸の戸建てで始めたあとに2戸目、3戸目と物件を増やしていくことで、結果的に複数戸を保有する場合と同じようにリスクを分散させていく考え方もあります。どの方法が適しているかは、自己資金の状況や投資の目的によって異なるため、一つの選択が必ず正解になるとは限りません。融資や返済計画の詳細は、金融機関や専門家に確認しながら検討することをおすすめします。
物件価格・融資条件・空室の3つの前提を同時に動かして確認したい場合は、RE-AIの無料診断で収益性・価格査定・融資・リスク・出口戦略を合わせて確認することもできます。
戸建て投資は1戸空室になると家賃収入がゼロになるという特有のリスクがありますが、今回の架空条件による試算では、空室が年間3か月(稼働率75%)程度に達するとDSCRが1倍を割り込むという具体的な分岐点が見えました。感覚的な不安を数値に置き換えて確認することで、どの程度の手元資金や自己資金比率が必要かを判断しやすくなります。実際の物件で検討する際は、今回の条件をそのまま当てはめるのではなく、自分の借入条件・経費・想定家賃に置き換えて試算することが重要です。
情報確認日:2026年10月1日。金利・融資条件は金融機関や個別の審査状況により異なります。本記事の試算は理解を助けるための架空例であり、特定の物件の購入や投資判断を保証するものではありません。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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