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収益性・収支

礼金・更新料を入れても入替コストは埋まらない|実効表面利回りは入居期間で1.03pt、一時金の条件差0.33ptの3倍動いた

礼金・更新料を入れても入替コストは埋まらない|実効表面利回りは入居期間で1.03pt、一時金の条件差0.33ptの3倍動いた

収益物件の募集条件を見ると、礼金1ヶ月、更新料1ヶ月(2年ごと)と書かれていることがあります。一方で、同じ地域・同じ表面利回りでも、礼金0・更新料なしの物件もあります。この一時金の差は、投資家の手残りをどれだけ動かすのでしょうか。

表面利回りは「満室想定年間家賃 ÷ 物件価格」で計算されます。分子に入るのは毎月の家賃だけで、礼金も更新料も入りません。同時に、入居者が入れ替わるたびに発生する原状回復費・広告料・空室期間も入っていません。つまり表面利回りは、入居者の回転にまつわる収入も費用も、両方とも見ていない指標です。

この記事では、一時金収入と入替コストの両方を同じ土俵に乗せて、入居期間2年〜10年で実効的な利回りが何pt動くのかを計算しました。結論を先に書くと、一時金より入居期間のほうが3倍以上効いていました。

この記事で検証する疑問

  • 礼金・更新料を収入に加えると、表面利回りは実質的に何pt変わるのか
  • 更新料の慣行がない地域の物件は、表面利回りが何pt高くないと引き合わないのか
  • 入居者の回転が速い物件は、礼金が何ヶ月分あれば長期入居の物件に並ぶのか

分析の前提条件

今回は物件価格を設定していません。礼金・更新料・原状回復費・広告料は、すべて「家賃の何ヶ月分」または「1戸あたりいくら」で決まる費目であり、物件価格に対して比例しないためです。物件価格を固定すると、結論がその価格帯だけのものになってしまいます。

そこで、1戸あたりの月額賃料を基準にして「満室想定年収の何%が一時金と入替コストで動くか」を計算し、最後にそれを表面利回りのpt換算へ変換しました。この方法なら、3,000万円の物件でも2億円の物件でも同じ結論を使えます。

基準ケース(架空の条件設定)

項目

設定

設定理由

物件タイプ

木造一棟アパート・8戸

入居者の入れ替わりが定期的に発生する規模

1戸あたり月額賃料

6.5万円

単身〜1LDK帯。後述のとおり賃料水準別の感応度も確認

満室想定年収

1戸78万円/8戸624万円

6.5万円×12ヶ月

物件価格

設定しない

結論を利回りpt換算で示すため

固定する条件

  • ハウスクリーニング費:1回3万円(オーナー負担)
  • 原状回復費の総額:1回15万円。うちオーナー負担割合は入居年数に応じて「入居年数÷6年」(上限100%)
  • 広告料(AD):賃料1.0ヶ月分
  • 入替時の空室期間:2.0ヶ月
  • 更新は2年ごと(普通借家契約)

原状回復のオーナー負担割合は、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」の考え方に合わせています。ガイドラインでは、クロスやカーペットなどについて6年で残存価値1円となる直線を描き、経過年数に応じて賃借人の負担を決めるとされています。つまり入居6年以上で退去した場合、これらの費目は実質的にオーナーの負担になります。長く住んでもらうほど、1回あたりの原状回復費は重くなるということです。

変更する条件

  • 平均入居期間:2年・3年・4年・5年・6年・8年・10年
  • 礼金:0ヶ月・1ヶ月・2ヶ月
  • 更新料:なし・1ヶ月(2年ごと)

礼金の水準は、LIFULL HOME'Sが2025年11月に公表した首都圏調査を参照しています。同調査では「礼金あり」物件の平均は1.02〜1.19ヶ月分、礼金0物件の割合は賃料帯によって30.2%〜42.3%でした。つまり実務上、礼金は「0か、あっても概ね1ヶ月」がレンジです。今回2ヶ月まで振ったのは、上限側でどこまで埋まるかを確認するためです。

計算方法

1回の入居サイクル(入居から退去まで)を単位にして、次の式で1年あたりの調整額を求めます。

年あたり調整額 = (礼金 + 更新料の累計 − 入替コスト)÷ 平均入居期間

更新料の回数は、入居期間L年に対して「L÷2の切り上げ − 1」回としました。入居2年ちょうどで退去する場合は更新が発生しないため0回、3年・4年なら1回、5年・6年なら2回です。

入替コストは「3万円 + 15万円×min(L÷6, 1) + 賃料1.0ヶ月(AD) + 賃料2.0ヶ月(空室損)」です。入居4年なら、3+10+6.5+13=32.5万円になります。

この調整額を満室想定年収(1戸78万円)で割ったものが「実効収入率」で、表面利回りにこの率を掛けたものを「実効表面利回り」と呼びます。

結果1:入居期間が短いほど、一時金では埋まらない

礼金1ヶ月・更新料1ヶ月(2年ごと)という、関東で標準的な条件で計算した結果です。

平均入居期間

更新料の回数

1回の入替コスト

年あたり調整額(1戸)

満室年収比

表面8%→実効

2年

0回

27.5万円

▲10.50万円

▲13.46%

6.92%

3年

1回

30.0万円

▲5.67万円

▲7.26%

7.42%

4年

1回

32.5万円

▲4.88万円

▲6.25%

7.50%

5年

2回

35.0万円

▲3.10万円

▲3.97%

7.68%

6年

2回

37.5万円

▲3.00万円

▲3.85%

7.69%

8年

3回

37.5万円

▲1.44万円

▲1.84%

7.85%

10年

4回

37.5万円

▲0.50万円

▲0.64%

7.95%

平均入居2年の物件と10年の物件では、実効表面利回りが6.92%と7.95%で1.03pt違いました。同じ売出利回り8.0%の物件でも、入居者がどれくらい住むかでここまで差が出ます。

8戸換算では、平均入居2年なら年84.0万円、4年なら年39.0万円、10年なら年4.0万円が、家賃以外の収支として消えていく計算です(満室想定年収624万円に対して)。

注目したいのは、入居2年の列で更新料が0回になっていることです。2年ちょうどで退去する入居者からは、更新料を1円も受け取れません。「更新料があるから回転が速くても大丈夫」という理屈は、最も回転が速いケースではそもそも成立しません。

結果2:一時金の有無は、入居期間の差の3分の1以下だった

次に、同じ入居期間で一時金の条件だけを変えた比較です。表面利回り8.0%を基準に、実効表面利回りを並べました。

平均入居期間

礼金0・更新料なし

礼金1・更新料なし

礼金1・更新料1

礼金2・更新料1

2年

6.59%

6.92%

6.92%

7.26%

4年

7.17%

7.33%

7.50%

7.67%

6年

7.36%

7.47%

7.69%

7.80%

10年

7.62%

7.68%

7.95%

8.02%

入居4年で見ると、礼金0・更新料なしの7.17%に対し、礼金1・更新料1でも7.50%。差は0.33ptです。一方、結果1で見た入居2年と10年の差は1.03ptでした。

つまり、一時金の慣行より、入居者が何年住むかのほうが3倍以上効いています。レントロールを見るとき、礼金・更新料の条件欄より、入居日の分布を見たほうが収支への影響は大きいということです。

もう一点、礼金2ヶ月・更新料1ヶ月という実務ではほぼ見かけない好条件でも、入居10年でようやく実効8.02%と名目を上回る程度です。一時金は、入替コストを埋めるほどの金額ではありません。

結果3:更新料の慣行がない地域に必要な利回りプレミアム

更新料の慣行は地域差が大きい費目です。国土交通省が2007年に実施した「民間賃貸住宅に係る実態調査」では、更新料を徴収する割合は神奈川県が90.1%と最も高く、大阪府・兵庫県・宮城県は0%と報告されています。都道府県別の公的データとしては現時点でもこの調査が広く参照されていますが、20年近く前の調査である点には注意が必要です。

では、更新料のない地域の物件は、表面利回りが何pt高ければ同等になるのでしょうか。礼金1ヶ月を共通にして逆算しました。

平均入居期間

更新料ありの実効

更新料なしの実効

必要な名目表面利回り

必要プレミアム

2年

6.92%

6.92%

8.00%

0.00pt

3年

7.42%

7.20%

8.25%

0.25pt

4年

7.50%

7.33%

8.18%

0.18pt

6年

7.69%

7.47%

8.24%

0.24pt

8年

7.85%

7.60%

8.26%

0.26pt

10年

7.95%

7.68%

8.28%

0.28pt

必要プレミアムは0.18〜0.28ptで、入居期間が長いほど大きくなります。更新料は住み続ける限り2年ごとに発生する収入なので、長期入居の物件ほど「更新料がないこと」の機会損失が積み上がるためです。入居2年ではプレミアムが0.00ptになるのは、そもそも更新が発生しないからです。

ここで注意が必要なのは、関西では更新料がない代わりに礼金や敷引の水準が高いという別の慣行がある点です。今回の計算は「更新料の有無だけを動かした場合」であり、地域間の総合比較ではありません。

結果4:賃料水準が低い物件ほど、一時金では埋まらない

クリーニング費と原状回復費は円建てで発生し、礼金・更新料・ADは家賃の月数で決まります。このため、賃料水準によって影響度が変わります。平均入居4年・礼金1・更新料1で比較しました。

1戸あたり月額賃料

年あたり調整額

満室年収比

表面8%→実効

4.5万円

▲4.38万円

▲8.10%

7.35%

6.5万円

▲4.88万円

▲6.25%

7.50%

9.0万円

▲5.50万円

▲5.09%

7.59%

12.0万円

▲6.25万円

▲4.34%

7.65%

賃料4.5万円の物件では実効7.35%、12万円の物件では7.65%で、0.30ptの差がつきました。金額としての入替コストは高賃料物件のほうが大きいのに、収入比で見ると低賃料物件のほうが重いという逆転が起きています。

高利回りに見える低家賃帯の物件を検討するときは、この点を織り込む必要があります。表面利回りが同じでも、家賃が低いほど入替コストが利回りを削る割合は大きくなります。

結果5:回転の速さを礼金で埋めるには、礼金2.23ヶ月が必要だった

最後に逆算です。「平均入居3年の物件が、平均入居6年の物件と同じ手残りになるには、礼金が何ヶ月分必要か」を解きました。更新料は両方1ヶ月(2年ごと)で共通とします。

入居6年の年あたり調整額は▲3.00万円です。入居3年でこれに並ぶには、(礼金×6.5万円 + 6.5万円 − 30.0万円)÷ 3 = ▲3.00万円 を満たす必要があり、解くと礼金2.23ヶ月分になります。

前述のとおり、首都圏の「礼金あり」物件の平均は1.02〜1.19ヶ月分です。2.23ヶ月という水準は、実務上ほぼ設定できません。回転の速さを礼金で埋めるという戦略は、現実の礼金水準では成立しないというのが、この逆算の答えです。

同じ考え方で「入替が収支中立になる礼金」も計算できます。入居4年・更新料1ヶ月の場合で礼金4.0ヶ月、入居8年でも礼金2.77ヶ月が必要でした。いずれも現実の水準を大きく超えます。

結果から分かること

  • 礼金・更新料を収入に入れても、入替コストは埋まらない。埋まるのは一部だけで、礼金1ヶ月・更新料1ヶ月の標準条件では、実効表面利回りが名目より0.05〜1.08pt低くなる
  • 一時金の条件差(0.33pt)より、平均入居期間の差(1.03pt)のほうが3倍以上大きい
  • 更新料の慣行がない地域では、入居3年以上を前提とするなら0.18〜0.28ptの利回りプレミアムが要る
  • 賃料水準が低い物件ほど、入替コストが収入比で重くなる(4.5万円と12万円で0.30pt差)
  • 入居2年ちょうどで退去されると更新料は0回。更新料は「長く住む人からしか取れない収入」である

投資判断への使い方

まず、レントロールの見方が変わります。契約条件欄の礼金・更新料より、入居開始日の分布を見てください。入居日が直近1〜2年に固まっている物件は、今回の計算で言えば実効利回りが1pt近く低い側のグループです。逆に5年以上の入居者が多い物件は、表面利回りが0.3pt低くても手残りで上回る可能性があります。レントロールの読み方はレントロールの見方で整理しています。

次に、収支計算のやり方です。入替コストを「空室率」に押し込むと、AD・原状回復費・クリーニング費が抜け落ちます。満室想定年収から空室損を引くだけでは足りず、入替1回あたりの費用を別建てで見積もる必要があります。この点は「空室率5%」の収支計算は年CFを46%過大に見せるでも扱っています。

三つめに、指値の材料になります。更新料の慣行がない地域で、かつ入居期間が短い物件であれば、今回の計算からは合計で0.4〜0.5pt程度の利回り差を説明できます。これは価格交渉の根拠として使える幅です。ただし、それが通るかどうかは市場環境次第です。指値の考え方は収益物件の指値はどこまで通るかを参照してください。

今回の試算は1戸あたり月額賃料6.5万円・8戸という条件を固定しています。実際には戸数、賃料、空室期間、AD水準がすべて変わります。ご自身の物件条件で年間キャッシュフローを確認したい場合は、キャッシュフローシミュレーターで満室想定家賃と運営費を入力して試算することができます。今回計算した入替コストは、年あたり調整額を「年間運営費」へ上乗せする形で反映できます。

この分析で分からないこと

  1. 実際の礼金・更新料の徴収実態:LIFULL HOME'Sの調査は募集時の掲載条件であり、成約時に減額された実績ではありません。更新料の地域別データは2007年の調査で、現在の実態とは異なる可能性があります。
  2. 原状回復費の実額:今回は1回15万円・耐用年数6年の直線償却という単純化した前提です。実際は専有面積、設備の内容、入居者の使用状況、特約の内容で大きく変わります。
  3. 空室期間とADの実態:空室2ヶ月・AD1ヶ月は一例です。エリアの需給と募集時期で変わり、空室期間が1ヶ月なら実効利回りは0.17pt改善し、3ヶ月なら0.17pt悪化します(入居4年・礼金1・更新料1の場合)。
  4. 一時金と入居期間の相関:礼金が高い物件ほど入居期間が長い(または短い)といった関係があるかは、今回は検証していません。今回は両者を独立に動かしています。地域差についても、更新料の有無が入居期間に影響している可能性を排除できていません。
  5. 税務の取り扱い:礼金・更新料は受取時に収入計上されるため、課税所得の期ずれが生じます。今回は税引前で計算しています。
  6. 出口価格への影響:買い手は通常、表面利回りまたはNOIで価格を判断します。今回の実効利回り差が売却価格にそのまま反映されるとは限りません。

まとめ

礼金・更新料は収入であり、表面利回りに現れない分だけ物件を過小評価している——そう考えたくなりますが、計算結果は逆でした。一時金を全額収入に算入しても、入替コストのほうが大きく、実効表面利回りは名目を下回り続けます。礼金2ヶ月・更新料1ヶ月・入居10年という好条件でようやく名目とほぼ同水準です。

そして、一時金の条件差(0.33pt)より、平均入居期間の差(1.03pt)のほうがはるかに大きいという結果が出ました。募集条件の礼金欄ではなく、レントロールの入居日欄を見るべきだということです。

ただし今回の結果は、原状回復費15万円・AD1ヶ月・空室2ヶ月という前提に依存しています。この3つはエリアと物件で大きく変わる項目で、数字が変われば結論の幅も変わります。前提を変えた場合にどうなるかは、ご自身の条件で確かめてください。

今回のように、家賃以外の収入と費用を同時に織り込むと、表計算で管理する項目は一気に増えます。RE-AIでは、空室・修繕・運営費・融資条件を分けて入力し、35年分のキャッシュフローとして確認できるよう設計しています。ただし、入替1回あたりのコストのように物件固有の項目は、ご自身で数字を用意する必要があります。

参考資料・出典

  • 株式会社LIFULL「2025年の首都圏『敷金・礼金』動向をLIFULL HOME'Sが調査」(2025年11月20日公表):https://lifull.com/news/45530/(礼金あり物件の平均1.02〜1.19ヶ月分、礼金0物件の割合30.2〜42.3%)
  • 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(平成23年8月):https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000021.html(クロス・カーペット等は6年で残存価値1円となる直線を描いて賃借人負担を決定)
  • 国土交通省「民間賃貸住宅に係る実態調査」(平成19年/2007年):更新料の徴収割合の地域差(神奈川県90.1%、大阪府・兵庫県・宮城県0%)。都道府県別の公的データとして広く参照されていますが、調査時点が古い点に留意が必要です。
  • 国土交通省「令和7年度 住宅市場動向調査報告書」(令和8年7月):https://www.mlit.go.jp/report/press/content/002012180.pdf(民間賃貸住宅の調査項目に家賃・敷金/保証金・礼金・更新手数料が含まれる。調査対象は三大都市圏)

情報確認日:2026年9月23日

本記事は特定の物件・投資手法を推奨するものではありません。数値はすべて記載した条件下でのシミュレーション結果であり、実際の物件の収支を保証するものではありません。税務の取り扱いは税理士、融資条件は金融機関にご確認ください。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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