
物件を購入する際、個人名義のまま融資を受けるべきか、法人を設立してから融資を受けるべきか迷う投資家は少なくありません。「法人の方が金利で有利」という情報はよく見かけますが、実際には返済期間や個人保証の扱いまで含めて比較しないと、法人化しても融資条件が思ったほど改善しないことがあります。不動産投資ローンの基礎については「不動産投資ローンとは?審査基準・種類・金利をまとめて理解する基礎ガイド」で解説していますが、本記事ではその中でも法人と個人の違いに絞り、審査基準・金利・個人保証・DSCRの4つの視点から整理します。
個人で不動産投資ローンを利用する場合、多くは不動産会社と金融機関が提携する提携ローンや、個人の属性(年収・勤務先・勤続年数・既存借入)を基準としたアパートローンが中心になります。一方、法人で借り入れる場合は、事業性資金としての融資となり、審査の主軸は法人の決算内容に移ります。
どちらが有利かは物件や金融機関、そして申込者の状況によって変わるため、「法人にすれば必ず有利になる」と一律に判断することはできません。
個人の場合は、年収・勤務先の安定性・勤続年数・自己資金・既存借入の状況などが中心的な審査項目になります。給与所得者であれば、属性が良いほど有利な条件を引き出しやすい傾向があります。
法人の場合は、決算書の内容(税引後利益・自己資本比率・借入依存度)、事業の継続年数、既存の借入状況が重視されます。設立して間もない法人や、直近決算が赤字の法人は、個人よりも審査が厳しくなるケースがあります。
「法人の方が金利が低い」という説明はよく見られますが、これは決算内容が良好な法人に限った話であり、設立間もない法人や実績の薄い法人には当てはまらないことがあります。また、金利差だけを見て判断すると、返済期間の違いを見落とすことがあります。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。物件価格8,000万円、自己資金1,000万円(借入7,000万円)、年間家賃収入620万円、運営費用を家賃の20%(124万円)としてNOI(純営業収益)を496万円と仮定します。
個人ローン | 法人ローン | |
|---|---|---|
金利 | 2.5% | 2.3% |
返済期間 | 30年 | 25年 |
年間返済額(元利均等) | 約331.9万円 | 約368.4万円 |
DSCR(NOI÷返済額) | 約1.49 | 約1.35 |
税引前キャッシュフロー | 約164.1万円 | 約127.6万円 |
この架空例では、法人ローンの方が金利は0.2ポイント低いにもかかわらず、返済期間が5年短いために年間の返済負担が大きくなり、DSCRとキャッシュフローはむしろ個人ローンを下回っています。DSCRについては「不動産投資のDSCRとは?1.2を下回ると融資が厳しくなる理由と計算例」で詳しく解説しています。金利だけでなく、返済期間・DSCR・手残りキャッシュフローまで含めて比較することが重要です。
法人で融資を受けても、代表者個人が連帯保証人になることを求められるケースは少なくありません。「法人名義にすれば個人の責任がなくなる」という理解は誤解であり、実際には金融機関や融資の種類によって個人保証の有無や範囲が異なります。この点は契約前に金融機関へ直接確認しておくべき項目です。
法人を設立した直後は決算実績がないため、個人よりも融資審査で不利になりやすい時期です。一般的には、決算を2期以上重ねて安定した実績を示せるようになってから、法人としての融資枠を広げていく流れが多く見られます。法人化を検討する際の税務面の判断基準については「家賃収入960万円、法人化すべきタイミングはいつか。後悔しないための5つの確認項目」、法人化全体の仕組みは「不動産投資の法人化 完全ガイド|税率差・コスト・出口の税金までつなげて判断する」で整理しています。融資面と税務面は判断基準が異なるため、両方を確認したうえで法人化のタイミングを検討する必要があります。
個人で購入した物件を、あとから法人へ移す(法人が個人から買い取る)場合は、新規のローンとは異なる注意点があります。この移転は法人・個人間の売買として扱われるため、個人側には譲渡所得税が発生する可能性があり、また既存の個人ローンを完済したうえで法人が新たに融資を受け直す必要があります。譲渡所得税の考え方は「収益物件を売ると税金はいくら?譲渡所得税の計算方法と短期・長期の分かれ目」で解説しているとおり、保有期間によって税率が大きく変わるため、法人へ移すタイミング次第で税負担が変わる点も考慮が必要です。
法人か個人かにかかわらず、自己資金の割合は融資条件に大きく影響します。自己資金の目安については「不動産投資の自己資金はいくら必要?頭金10%・20%・30%でDSCRと月々の返済を比較」で試算しています。また、金融機関にはメガバンク・地方銀行・信用金庫・ノンバンクなど複数のタイプがあり、法人・個人どちらの名義であっても、金融機関のタイプによって審査の見られ方が異なります。この点は「自己資金1,000万円、価格8,000万円の一棟アパート。金融機関3タイプで審査の見られ方はここまで違いました」で具体的に比較しています。
法人か個人かという名義の選択は、融資の審査基準や金利だけで決めると判断を誤ることがあります。今回の架空例で示したように、金利が低くても返済期間や自己資金の条件次第でDSCRやキャッシュフローが悪化することがあるためです。融資条件・収益性・税務・出口戦略を切り離さずに、同じ物件条件で個人名義と法人名義のシミュレーションを並べて比較する視点が欠かせません。収支計算の基本的な考え方は「収益物件の収支計算完全ガイド|表面利回り・NOI・DSCR・IRRの計算方法と使い方」で解説しています。
不動産投資ローンにおける法人と個人の違いは、審査基準・金利・個人保証・返済期間など複数の要素にまたがります。「法人の方が必ず有利」と単純化せず、自分の物件条件・自己資金・法人の決算状況に照らして、融資条件と収益性の両方を確認したうえで名義を判断することが重要です。個別の融資条件は金融機関ごとに異なるため、実際の借入にあたっては金融機関への確認を前提としてください。
情報確認日:2026年8月19日
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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