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サブリース物件の収益価格は保証賃料で計算していいのか|市場賃料との査定差を試算した

サブリース物件の収益価格は保証賃料で計算していいのか|市場賃料との査定差を試算した

サブリース(一括借上げ)契約が付いた一棟アパートを検討するとき、「収益価格はこの保証賃料で計算していいのか、それとも相場の賃料で計算すべきか」という疑問に答えを持たないまま提示価格を信じてしまう投資家は少なくありません。この記事では、保証賃料ベースと市場賃料ベースの2つの算定式で収益価格を計算し、架空例でどこまで差が出るのかを試算します。

1.この記事で検証する疑問

「サブリース物件は家賃保証が相場より低いから、査定も下がるはずだ」という直感は、本当に正しいのでしょうか。保証賃料は満室想定賃料より低く設定されるのが通常ですが、自主管理に切り替えた場合も空室損・管理委託料・入替コストが発生するため、単純に「保証賃料が低い=価格も低い」とは言えません。そこで、この記事では次の3点を検証します。

  • 収益還元法で収益価格を出すとき、保証賃料ベースと市場賃料(自主管理想定)ベースでどれだけ価格が変わるのか
  • どちらの算定でも価格が一致する「損益分岐保証率」は何%で、還元利回りの水準によって変わるのか
  • 査定額を鵜呑みにする前に、契約面で確認すべきことは何か

収益還元法そのものの考え方は収益物件の価格査定完全ガイドで、還元利回りの置き方は収益還元法の還元利回り(キャップレート)はどう決める?で整理しています。この記事はその応用として、「サブリース契約がある場合」に論点を絞ります。

2.使ったデータの区分

数字の性質が混ざらないよう、先に区分を示します。

  • 【公開データ】公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「賃貸住宅景況感調査(日管協短観)」による平均入居期間、国土交通省「サブリース事業に係る適切な業務の実施について(通知)」(国土動指第33号、2015年7月29日)、民法第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転)。
  • 【業界の目安】サブリースの保証率(満室想定賃料に対する保証賃料の比率)が「80〜90%程度」とされる水準。複数の不動産メディアで紹介されている実務上の目安であり、公的統計による裏付けはありません。
  • 【シミュレーション】空室率・管理委託料率・入替コスト・共通運営費率・還元利回りは、後述のとおり固定した仮定です。実際の物件統計ではありません。
  • 【架空例】以下で使う物件価格・賃料・戸数は、仕組みを理解しやすくするために単純化した架空のケースです。実在する物件のデータではありません。

情報確認日:2026年10月26日。

3.収益価格をどう計算するか|2つの算定式

収益還元法(直接還元法)では、収益価格=年間NOI÷還元利回りで価格を求めます。サブリース付き物件の場合、年間NOIの出し方に2通りの考え方があります。

  • 保証賃料ベース:サブリース会社から実際に支払われる保証賃料を起点に、オーナー負担の固定資産税・火災保険・大規模修繕積立などを引いてNOIを出す方法。
  • 市場賃料(自主管理)ベース:満室想定賃料を起点に、空室損・管理委託料・入替コストなど自主管理で生じる費用を引いてNOIを出す方法。サブリース契約を解約し、自主管理に切り替えた場合に実現しうる収益を見ています。

どちらも「正しい」査定方法として使われており、鑑定実務でも契約状況に応じて賃料の取り方が検討されます。問題は、この2つの算定方法で出てくる価格が一致するとは限らない点です。次の章で、架空例を使って実際にどれだけ差が出るのかを確認します。

4.架空例の条件設定

以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実在する物件のデータではありません。想定読者は、地方中核都市の郊外でサブリース付きの中古一棟アパートを検討している個人投資家(一棟目または二棟目)とします。

項目

設定

区分

物件種別

軽量鉄骨造3階建、1K×10戸、築14年

【架空例】

満室想定賃料

月5.8万円×10戸×12ヶ月=696.0万円

【架空例】

共通運営費(両方式共通)

満室想定賃料の15%=104.4万円

【シミュレーション】固定資産税・保険・共用部・大規模修繕積立等

空室率(自主管理想定)

8%

【シミュレーション】

管理委託料・滞納損(自主管理)

実収賃料の5%+1%

【シミュレーション】

平均入居年数

4年1ヶ月

【公開データ】日管協短観の全体平均

入替1回あたりコスト

月額賃料2.5ヶ月分

【シミュレーション】原状回復・広告料

サブリース保証率

80%/85%/90%の3パターン

【業界の目安】

還元利回り

8.5%

【シミュレーション】同エリア・同規模の類似事例から想定

空室率・管理委託料・入替コストから自主管理の手取り賃料率を出す計算式はサブリースの手数料15%は、空室率何%分の保険なのかと同じものを使っています。この条件では、自主管理の手取り賃料率は81.38%です。

5.結果①:保証率85%の収益価格は、市場賃料ベースより5.46%高い

市場賃料(自主管理)ベースでは、満室想定賃料696.0万円に手取り賃料率81.38%を掛けて共通運営費104.4万円を引くと、NOIは462.0万円です。還元利回り8.5%で割ると、収益価格は5,435万円になります。

これに対して保証賃料ベースでは、保証率ごとに次のようになりました。

保証率

保証賃料

NOI

収益価格

市場賃料ベースとの差

80%

556.8万円

452.4万円

5,322万円

▲113万円(▲2.08%)

85%

591.6万円

487.2万円

5,732万円

+297万円(+5.46%)

90%

626.4万円

522.0万円

6,141万円

+706万円(+12.99%)

保証率85%・90%では、保証賃料ベースで査定したほうが、市場賃料(自主管理)ベースより収益価格が高く出ています。「家賃保証は相場より低いから、査定額も下がるはずだ」という直感とは逆の結果です。

6.結果②:損益分岐保証率は81.38%。還元利回りの水準によらない

2つの算定方法で収益価格が一致する保証率を計算すると、81.38%でした。これは偶然ではなく、この条件設定での自主管理の手取り賃料率とまったく同じ数字です。還元利回りは分子(NOI)と一緒に両方の価格へ同じ比率でかかるため、損益分岐保証率は還元利回りを7%にしても10%にしても変わりません。

つまり判断の軸は、還元利回りではなく「保証率が、自分で自主管理した場合に実現できる手取り賃料率より高いか低いか」です。この手取り賃料率は、平均入居年数や入替コストの置き方で変わります。入替コストを1.5ヶ月分に下げると損益分岐保証率は83.42%に上がり、3.5ヶ月分に上げると79.34%に下がります(条件はサブリースの手数料15%は、空室率何%分の保険なのかと同一)。

7.なぜ直感と逆の結果になるのか

自主管理を選んでも、満室想定賃料のすべてが手元に残るわけではありません。空室損のほかに、管理委託料・滞納損・入替コスト(原状回復と広告料)が引かれ、この条件では合計で約18.6%が消えます。サブリースの保証率が80〜90%という水準は、この自主管理側のコストと比較してはじめて「高いか低いか」を判断できる数字であり、満室想定賃料だけと比べて「取られすぎ」と感じるのは、比較対象が噛み合っていないためです。

ただし、この結果は保証賃料が契約どおり払われ続けることが前提です。次の章で、その前提自体のリスクを確認します。

8.査定額を鵜呑みにする前に確認する3つの契約リスク

  • 保証賃料の改定リスク:多くのサブリース契約には家賃改定条項があり、借地借家法第32条の賃料増減請求権に基づき、サブリース会社側から減額を請求できます。現在の保証率だけで収益価格を出すと、改定後に前提が崩れます。減額時の収支への影響はサブリース契約のリスクとは?家賃保証が減額される仕組みと確認ポイントで架空例を使って試算しています。
  • 免責期間:新築時や入替時に保証賃料の支払いが一定期間発生しない「免責期間」が設定されている契約があります。国土交通省は、この免責期間を説明しないことを通知の中で問題点として挙げています(国土動指第33号、2015年)。表示されている保証率と、実際に受け取る実効保証率は一致しないことがあります。
  • 解約コストを織り込んでいるか:市場賃料ベースの価格は「自主管理に切り替えられる」ことが前提ですが、サブリース契約の解約には借地借家法第28条の正当事由が必要で、合意解約の違約金は保証賃料の数ヶ月分程度が目安とされます。具体的な違約金の考え方と収支シミュレーションはサブリース契約は解約できるのか?正当事由・違約金の相場と、解約後の収支シミュレーションで確認できます。市場賃料ベースで高く査定しても、解約コストを引いた実質価格で比較する必要があります。

9.投資判断への使い方

この分析は「サブリース物件を買うべきか」を決めるためのものではありません。使いどころは次の3つです。

  • 買う側:提示価格が保証賃料ベースか市場賃料ベースかを確認し、保証率と自分の想定する手取り賃料率を比べる。保証率が手取り賃料率より高い物件は、保証賃料ベースの査定額が自主管理の実力より高く出ている可能性があるため、改定条項と残りの契約期間を必ず確認してください。
  • 売る側:保証率が自分の地域の実勢からみて高い水準にあるなら、保証賃料ベースで査定したほうが高く出やすい状況です。ただし契約は所有権の移転にともない原則としてそのまま新所有者に引き継がれます(民法第605条の2第1項)。買主がこの契約内容をどう評価するかによって、提示価格への納得感は変わります。
  • 融資審査の視点:サブリース契約があっても、審査が免除されるわけではありません。金融機関は近隣相場との差を確認する傾向があるとされ、保証賃料をそのまま鵜呑みにするとは限りません。評価の基準は金融機関や物件ごとに異なるため、事前に確認が必要です。融資全体の見方は不動産投資ローン完全ガイドを参照してください。

この記事では還元利回り8.5%・共通運営費15%を固定していますが、実際の数字は物件とエリアによって異なります。自分の物件のNOIと還元利回りを入れて収益価格を試算したい場合は、RE-AIの収益還元法・収益価格シミュレーターで試算すると、保証賃料ベースと市場賃料ベースのNOIをそれぞれ入力して価格差をその場で比較できます。価格だけでなく融資・リスク・出口まで含めて総合的に確認したい場合は、RE-AIの無料診断も合わせて利用できます。登録不要で1件無料で試せますが、将来の家賃や保証賃料の改定を予測するものではなく、入力時点の条件を整理するためのツールです。

10.分析の限界

  • 還元利回り8.5%は架空の設定値です。実際の還元利回りはエリア・構造・築年数によって大きく異なり、還元利回りの決め方に沿って個別に確認する必要があります。
  • 共通運営費15%・入替コスト2.5ヶ月分は固定の仮定です。実際の修繕費・保険料・入替コストは物件の構造や地域で変わります。
  • 保証率80〜90%という範囲は業界の目安であり、個別の契約で確認したものではありません。契約書に記載された実際の保証率で計算し直す必要があります。
  • 保証賃料が将来も変わらないと仮定しています。実際には改定条項により数年単位で見直される契約が多く、将来の改定を考慮すると保証賃料ベースの価格は下方修正が必要になる場合があります。
  • 不動産鑑定士による正式な鑑定評価とは異なります。この記事の計算は投資判断の参考情報であり、売買契約や融資申込みで使う鑑定評価書の代わりにはなりません。

11.まとめ

  • 架空例(軽量鉄骨10戸、満室想定賃料696万円、還元利回り8.5%)で計算すると、保証率85%の保証賃料ベースの収益価格は5,732万円、市場賃料(自主管理)ベースは5,435万円で、保証賃料ベースのほうが5.46%高く出ました。
  • 2つの算定方法が一致する損益分岐保証率は81.38%で、還元利回りの水準には影響されません。保証率がこれより高いか低いかで、どちらの算定方法が有利に出るかが反転します。
  • 「サブリースは保証賃料が低いから査定も下がる」という直感は、自主管理側の空室損・管理委託料・入替コストを見落としている場合に外れます。
  • 査定額を鵜呑みにする前に、保証賃料の改定リスク・免責期間・解約コストの3点を契約書で確認する必要があります。契約は所有権移転にともない原則そのまま引き継がれるため、引き継ぐ前提で価格を判断してください。

収益価格の算定方法そのものより重要なのは、どちらの賃料を基準にするにせよ、その前提がどれだけ崩れやすいかを契約書で確認することです。保証率の高さだけで安心せず、改定条項・免責期間・解約条件まで含めて査定の前提を確認してください。

12.参考資料・出典

  • 国土交通省「サブリース事業に係る適切な業務の実施について(通知)」国土動指第33号、2015年7月29日 https://www.mlit.go.jp/common/001265307.pdf
  • e-Gov法令検索 民法第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転)、借地借家法第28条・第32条
  • 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「賃貸住宅景況感調査(日管協短観)」(平均入居期間)
  • 国土交通省「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)について」

情報確認日:2026年10月26日。本記事の数値は上記公開データと、記事内に明示した固定条件に基づく条件付きシミュレーションです。実際の物件統計や将来の予測ではなく、個別の契約内容によって結論は変わります。最終的な投資判断や契約内容の確認は、不動産鑑定士・弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

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