
サブリース(一括借上げ)契約が付いた一棟アパートを検討するとき、「収益価格はこの保証賃料で計算していいのか、それとも相場の賃料で計算すべきか」という疑問に答えを持たないまま提示価格を信じてしまう投資家は少なくありません。この記事では、保証賃料ベースと市場賃料ベースの2つの算定式で収益価格を計算し、架空例でどこまで差が出るのかを試算します。
「サブリース物件は家賃保証が相場より低いから、査定も下がるはずだ」という直感は、本当に正しいのでしょうか。保証賃料は満室想定賃料より低く設定されるのが通常ですが、自主管理に切り替えた場合も空室損・管理委託料・入替コストが発生するため、単純に「保証賃料が低い=価格も低い」とは言えません。そこで、この記事では次の3点を検証します。
収益還元法そのものの考え方は収益物件の価格査定完全ガイドで、還元利回りの置き方は収益還元法の還元利回り(キャップレート)はどう決める?で整理しています。この記事はその応用として、「サブリース契約がある場合」に論点を絞ります。
数字の性質が混ざらないよう、先に区分を示します。
情報確認日:2026年10月26日。
収益還元法(直接還元法)では、収益価格=年間NOI÷還元利回りで価格を求めます。サブリース付き物件の場合、年間NOIの出し方に2通りの考え方があります。
どちらも「正しい」査定方法として使われており、鑑定実務でも契約状況に応じて賃料の取り方が検討されます。問題は、この2つの算定方法で出てくる価格が一致するとは限らない点です。次の章で、架空例を使って実際にどれだけ差が出るのかを確認します。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実在する物件のデータではありません。想定読者は、地方中核都市の郊外でサブリース付きの中古一棟アパートを検討している個人投資家(一棟目または二棟目)とします。
項目 | 設定 | 区分 |
|---|---|---|
物件種別 | 軽量鉄骨造3階建、1K×10戸、築14年 | 【架空例】 |
満室想定賃料 | 月5.8万円×10戸×12ヶ月=696.0万円 | 【架空例】 |
共通運営費(両方式共通) | 満室想定賃料の15%=104.4万円 | 【シミュレーション】固定資産税・保険・共用部・大規模修繕積立等 |
空室率(自主管理想定) | 8% | 【シミュレーション】 |
管理委託料・滞納損(自主管理) | 実収賃料の5%+1% | 【シミュレーション】 |
平均入居年数 | 4年1ヶ月 | 【公開データ】日管協短観の全体平均 |
入替1回あたりコスト | 月額賃料2.5ヶ月分 | 【シミュレーション】原状回復・広告料 |
サブリース保証率 | 80%/85%/90%の3パターン | 【業界の目安】 |
還元利回り | 8.5% | 【シミュレーション】同エリア・同規模の類似事例から想定 |
空室率・管理委託料・入替コストから自主管理の手取り賃料率を出す計算式はサブリースの手数料15%は、空室率何%分の保険なのかと同じものを使っています。この条件では、自主管理の手取り賃料率は81.38%です。
市場賃料(自主管理)ベースでは、満室想定賃料696.0万円に手取り賃料率81.38%を掛けて共通運営費104.4万円を引くと、NOIは462.0万円です。還元利回り8.5%で割ると、収益価格は5,435万円になります。
これに対して保証賃料ベースでは、保証率ごとに次のようになりました。
保証率 | 保証賃料 | NOI | 収益価格 | 市場賃料ベースとの差 |
|---|---|---|---|---|
80% | 556.8万円 | 452.4万円 | 5,322万円 | ▲113万円(▲2.08%) |
85% | 591.6万円 | 487.2万円 | 5,732万円 | +297万円(+5.46%) |
90% | 626.4万円 | 522.0万円 | 6,141万円 | +706万円(+12.99%) |
保証率85%・90%では、保証賃料ベースで査定したほうが、市場賃料(自主管理)ベースより収益価格が高く出ています。「家賃保証は相場より低いから、査定額も下がるはずだ」という直感とは逆の結果です。
2つの算定方法で収益価格が一致する保証率を計算すると、81.38%でした。これは偶然ではなく、この条件設定での自主管理の手取り賃料率とまったく同じ数字です。還元利回りは分子(NOI)と一緒に両方の価格へ同じ比率でかかるため、損益分岐保証率は還元利回りを7%にしても10%にしても変わりません。
つまり判断の軸は、還元利回りではなく「保証率が、自分で自主管理した場合に実現できる手取り賃料率より高いか低いか」です。この手取り賃料率は、平均入居年数や入替コストの置き方で変わります。入替コストを1.5ヶ月分に下げると損益分岐保証率は83.42%に上がり、3.5ヶ月分に上げると79.34%に下がります(条件はサブリースの手数料15%は、空室率何%分の保険なのかと同一)。
自主管理を選んでも、満室想定賃料のすべてが手元に残るわけではありません。空室損のほかに、管理委託料・滞納損・入替コスト(原状回復と広告料)が引かれ、この条件では合計で約18.6%が消えます。サブリースの保証率が80〜90%という水準は、この自主管理側のコストと比較してはじめて「高いか低いか」を判断できる数字であり、満室想定賃料だけと比べて「取られすぎ」と感じるのは、比較対象が噛み合っていないためです。
ただし、この結果は保証賃料が契約どおり払われ続けることが前提です。次の章で、その前提自体のリスクを確認します。
この分析は「サブリース物件を買うべきか」を決めるためのものではありません。使いどころは次の3つです。
この記事では還元利回り8.5%・共通運営費15%を固定していますが、実際の数字は物件とエリアによって異なります。自分の物件のNOIと還元利回りを入れて収益価格を試算したい場合は、RE-AIの収益還元法・収益価格シミュレーターで試算すると、保証賃料ベースと市場賃料ベースのNOIをそれぞれ入力して価格差をその場で比較できます。価格だけでなく融資・リスク・出口まで含めて総合的に確認したい場合は、RE-AIの無料診断も合わせて利用できます。登録不要で1件無料で試せますが、将来の家賃や保証賃料の改定を予測するものではなく、入力時点の条件を整理するためのツールです。
収益価格の算定方法そのものより重要なのは、どちらの賃料を基準にするにせよ、その前提がどれだけ崩れやすいかを契約書で確認することです。保証率の高さだけで安心せず、改定条項・免責期間・解約条件まで含めて査定の前提を確認してください。
情報確認日:2026年10月26日。本記事の数値は上記公開データと、記事内に明示した固定条件に基づく条件付きシミュレーションです。実際の物件統計や将来の予測ではなく、個別の契約内容によって結論は変わります。最終的な投資判断や契約内容の確認は、不動産鑑定士・弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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