
木造アパートの資料に「昭和54年築」と書かれているのを見て、理由がよく分からないまま「旧耐震だから危ない」と言われた投資家は少なくありません。旧耐震基準の収益物件は、実際には何がリスクで、融資や積算価格、将来の売却にどう影響するのか。架空の数値例をもとに整理します。耐震基準は、購入前に確認すべきリスクの1つです。物件・契約・エリアの3層で見るべき項目全体は収益物件購入前のリスクチェック完全ガイドで整理しています。
建築基準法の耐震基準は、建築確認を受けた時期によって大きく3段階に分かれます。1981年6月1日以降に建築確認を受けたものが「新耐震基準」、それより前が「旧耐震基準」です。さらに木造住宅については、2000年(平成12年)に接合部の仕様や耐力壁の配置バランスなどの規定が明確化されており、この改正以降の建物は「2000年基準」と呼ばれます。
国土交通省が設置した委員会による熊本地震(2016年)の建築物被害調査では、益城町中心部の木造住宅を対象とした分析で、旧耐震基準の建物の倒壊・崩壊率が28.2%だったのに対し、新耐震基準(1981〜2000年)の建物では8.7%にとどまったと報告されています。同調査では、2000年基準以降の建物はさらに被害が少なかったことも指摘されていますが、具体的な倒壊率は調査対象や集計範囲によって報告値が異なるため、ここでは断定的な数値の記載を避けます。重要なのは、「新耐震だから安全」と一括りにできず、木造については2000年という追加の分岐点があるという点です。
旧耐震の収益物件を検討するとき、見落とされがちなのが「制約が1つではない」という点です。以下の2つは発生する理由が異なるため、それぞれ別々に確認する必要があります。
木造の法定耐用年数は22年です。中古資産の耐用年数を求める簡便法では、法定耐用年数をすでに超過している建物の残存耐用年数は「法定耐用年数×20%」(1年未満切り捨て)で見積もられます。木造の場合は22年×20%=4.4年、切り捨てて4年です。多くの金融機関は、融資期間の目安として税法上の耐用年数やこの簡便法による残存年数を参考にする傾向があるとされますが、具体的にどこまで重視するかは金融機関ごとに異なります。構造別の耐用年数の計算方法と減価償却への影響は木造・RCの減価償却費を比較した記事で詳しく解説しています。
制約1は「築年数が古い建物」全般に当てはまる話ですが、旧耐震物件にはもう1つ、耐震基準の区分そのものに対する金融機関の慎重な姿勢が加わります。同じように法定耐用年数を超過していても、新耐震基準の建物であれば「1981年基準は満たしている」という材料が残りますが、旧耐震基準の建物にはそれがありません。この2つが同時に発生する点が、旧耐震物件が「ダブルパンチ」を受けやすいと言われる理由です。
以下は仕組みを理解しやすくするために単純化した架空例です。木造アパート8戸、1979年建築確認(旧耐震)、2026年時点で築47年、価格2,800万円、満室想定年間家賃280万円(表面利回り10.0%)の物件を想定します。
空室率5%、運営費を実効収入の28%と仮定すると、実効収入266万円、運営費74.5万円、NOI(年間純収益)は191.5万円です。現金で購入した場合、税引前のキャッシュフロー利回りは191.5万円÷2,800万円で約6.8%になります。
次に、仮にこの物件へ融資が出た場合を考えます。自己資金50%(1,400万円)、借入1,400万円、融資期間は制約1で見た残存耐用年数の目安どおり4年、金利4.0%という架空条件を置くと、元利均等・年次複利の概算で年間返済額は約385.7万円になります。DSCR(NOI÷年間返済額)は191.5万円÷385.7万円で約0.50倍、返済後キャッシュフローは約▲194万円のマイナスです。つまり、たとえ融資自体は下りたとしても、耐用年数超過による短い返済期間のせいで、NOIだけでは返済をまったく賄えない計算になります。これが、旧耐震の木造アパートが実質的に「現金で買える人」に限られやすい理由です。
ご自身が検討している物件で、融資期間を変えるとDSCRやキャッシュフローがどこまで変わるかは、不動産投資ローンシミュレーション(無料)で借入額・金利・融資期間を入力して確認できます。特に「融資期間を変えると何が変わるか」の比較表は、今回のような残存耐用年数の制約を数字で体感するのに役立ちます。
なお、鉄骨造(法定耐用年数19〜34年)やRC造(47年)は木造より法定耐用年数が長いため、同じ築年数でも制約1の影響は相対的に小さくなります。構造ごとの積算価格の違いは木造・鉄骨・RCの積算価格の記事で、融資期間・自己資金別のDSCRの違いは銀行はいくらまで貸せるのかの記事で詳しく試算しています。
旧耐震物件を調べると「耐震基準適合証明書を取得すれば税制優遇が受けられる」という情報に行き当たることがあります。ただし、住宅ローン控除や登録免許税・不動産取得税の軽減措置の多くは、取得者本人が居住する住宅を対象とした制度です。賃貸目的で取得する収益物件がそのまま同じ優遇の対象になるとは限らないため、適用可否は必ず税理士や税務署、または制度を所管する国土交通省・自治体の窓口に確認してください。「投資用でも自宅と同じように減税できる」と決めつけないことが重要です。
制約1・制約2は、購入時だけでなく将来の売却時にも同じ形で引き継がれます。旧耐震の木造アパートを売却する相手も、多くの場合は同じように「融資が付きにくい物件」として扱われるため、買い手は現金購入が可能な投資家に限られやすくなります。買い手の層が限られるほど、価格交渉で強気に出にくくなり、想定していた出口価格より低い水準でしか売却できない可能性があります。積算価格や収益還元価格が同水準の物件でも、耐震基準の違いだけで実際に成立する売却価格に差が出ることがある、という点は購入前に織り込んでおく必要があります。買い手層が限定されることで価格が下がる構造は、浸水想定区域の物件を扱ったハザードリスクと必要値引き額の記事で試算した内容とも共通しています。
旧耐震の収益物件は、価格の安さだけを見て高利回りと判断すると、融資・担保評価・出口という3つの場面で同じ制約に繰り返しぶつかります。法定耐用年数の超過による融資期間の短さと、耐震基準そのものへの金融機関の慎重姿勢は、発生原因が異なる別々の制約です。この2つを切り分けて確認したうえで、現金購入を前提に利回りを見るのか、耐震診断・耐震改修を前提に条件改善を目指すのか、購入前に方針を決めておくことが重要です。個別の物件・融資条件による判断は、金融機関や専門家への確認をあわせて行ってください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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