
新築アパートの販売会社から営業を受けると、多くの人がまず「中古より高い」という印象を持ちます。しかし価格差がそのまま損得を意味するわけではありません。本記事では、延床面積・戸数をそろえた架空例を使い、融資期間や大規模修繕のタイミングまで含めた10年IRRで新築と中古を比較します。
健美家株式会社が公表している「収益物件 市場動向四半期レポート」(2026年7〜9月期、全国・登録物件の平均値)によると、一棟アパートの築年帯別の平均価格・表面利回りは次のようになっています。
築年帯 | 平均表面利回り | 平均価格 |
|---|---|---|
築10年未満 | 5.95% | 13,451万円 |
築10年〜20年未満 | 6.77% | 10,989万円 |
築20年以上 | 9.30% | 6,200万円 |
築10年未満と築20年以上では、平均価格に2倍以上の差があり、表面利回りも3.35ポイント開いています。ただしこの数字は全国の登録物件を単純平均したものであり、築年帯によって物件規模(戸数・延床面積)の分布が異なる可能性があります。つまりこの価格差には、「新築だから高い」という要因と「規模が大きい物件が多いから高い」という要因が混ざっています。新築プレミアムそのものを確かめるには、規模をそろえた比較が必要です。
新築アパートの販売価格は、おおまかに「建築費」「土地代」「設計・諸費用」「販売会社の利益・広告費等」を合計したものです。建築費の目安としては、国土交通省「建築着工統計調査報告」(令和7年12月分、2026年1月30日公表)の全国集計から、木造建築物の1平方メートルあたり工事費予定額が約234,100円であることが確認できます(単月集計のため、月によって変動する点に留意してください)。
一方で、販売会社がどの程度の利益・広告費を価格に乗せているかを示す公的な統計は確認できないため、本記事では推測の数字を記載しません。新築の価格を「コストの積み上げ」だけで説明しようとすると、ここで必ず根拠不明の仮定が必要になります。そこで本記事では、価格差そのものを所与として、その差が運用・融資・出口の条件の違いでどこまで埋まるのかを検証する、という順番で考えます。
以下は、新築プレミアムの効果だけを確かめやすくするために、建物規模をそろえて設定した架空例です。実在の物件ではありません。想定読者は、木造一棟アパートを初めて検討している個人投資家です。
項目 | 新築 |
|---|---|
価格 | 8,200万円 |
表面利回り | 6.2% |
空室率 | 5%(新築は入居が決まりやすいと仮定) |
運営費率(対実効収入) | 20% |
自己資金・融資 | 自己資金1,640万円/融資6,560万円(LTV80%) |
金利・融資期間 | 2.0%/30年 |
項目 | 中古(築22年) |
|---|---|
価格 | 6,050万円 |
表面利回り | 8.5% |
空室率 | 8% |
運営費率(対実効収入) | 25%(築古のため上振れを仮定) |
自己資金・融資 | 自己資金1,815万円/融資4,235万円(LTV70%) |
金利・融資期間 | 2.6%/15年(残存耐用年数を基準に金融機関が短縮すると仮定) |
大規模修繕 | 5年目に800万円発生(屋根・外壁等) |
価格差は2,150万円、新築は中古の約1.36倍(約35.5%高い)です。融資期間を新築30年・中古15年としたのは、木造の法定耐用年数22年の残存年数を基準に融資期間の上限を決める金融機関が多いためです。この前提の妥当性は物件・金融機関ごとに異なるため、実際の検討では必ず個別に確認してください。
項目 | 新築 | 中古 |
|---|---|---|
実効収入(EGI) | 482.98万円 | 473.11万円 |
NOI | 386.38万円 | 354.83万円 |
NOI率(対GPI) | 76.0% | 69.0% |
年間ローン返済額 | 292.90万円 | 344.57万円 |
初年度DSCR | 1.32倍 | 1.03倍 |
表面利回りでは中古が2.3ポイント高く見えますが、NOI率は新築の方が7.0ポイント高く、初年度DSCRは中古が1.03倍と、空室や家賃下落に対する余裕がほとんどありません。DSCRが1.2を下回ると融資の継続や次の融資に影響しやすくなる点は、別記事「不動産投資のDSCRとは?」でも解説しています。表面利回りの差だけで判断すると、この余裕の差を見落とすことになります。
保有10年間のキャッシュフローと、10年目の売却(出口キャップレートは、新築・中古それぞれの購入時NOIベースの利回りに、築年経過による市場の変化を見込んで新築は0.4ポイント、中古は1.5ポイント上乗せして設定)を通した結果は次のとおりです。
項目 | 新築 | 中古 |
|---|---|---|
保有10年間の累計CF(売却前) | 849万円 | ▲776万円 |
10年目の想定売却価格 | 7,228万円 | 4,602万円 |
残債 | 4,789万円 | 1,596万円 |
売却手残り | 2,077万円 | 2,776万円 |
自己資金 | 1,640万円 | 1,815万円 |
10年IRR | 7.16% | 0.82% |
この架空例では、価格が35.5%安い中古の方がIRRで大きく劣る結果になりました。理由は主に3つです。
第一に、空室率の差(新築5%・中古8%)がNOIに積み重なります。第二に、融資期間が新築30年・中古15年と短く、中古の年間返済額が新築より52万円近く重くなっています。第三に、中古では5年目の大規模修繕800万円が保有中のキャッシュフローを圧迫しています。大規模修繕と資金繰りの関係は「大規模修繕の年、手元資金はいくら必要か」でも詳しく試算しています。
一方で、売却手残り自体は中古の方が277.6万円多くなっています。これは、投下した自己資金に対する比率(CCR)や出口までの期間が短く済む場合、あるいは融資期間をより長く組める金融機関を見つけられた場合には、結果が入れ替わる可能性を示しています。実際、別記事「築5年・15年・25年・35年の木造アパート、同じ8,000万円ならどれが有利か」では、価格を固定した場合に融資期間と出口利回りがIRRに与える影響を比較しており、本記事の融資期間の前提がIRRに占める比重の大きさを裏付けています。
今回の架空例が示しているのは、「新築は損」でも「中古は得」でもなく、価格差が運用条件の差で埋まるかどうかは個々の前提に強く依存するという点です。特に次の3条件は、結論を左右しやすいポイントです。
金利や空室率が前提より悪化した場合、DSCRに余裕の少ない中古(初年度1.03倍)の方が先に影響を受けやすい点も踏まえておく必要があります。不動産投資は条件によって結論が変わるため、「新築だから安全」「中古だから利回りが高くて得」という単純化は避けるべきです。
この検証からわかるのは、表面利回りや価格だけを比較しても新築と中古の優劣は決まらないということです。価格査定・収益性・融資・出口戦略を別々に見ていると、どちらが有利かという問いに答えを出せません。新築か中古かで迷っている場合は、検討している物件の価格・利回り・融資条件・想定出口を一度にまとめて試算してみることをおすすめします。RE-AIの無料診断では、物件情報を入力して収益性・価格・融資・リスク・出口戦略を総合的に確認できます。
価格そのものの妥当性をより詳しく確認したい場合は、「収益物件の価格査定完全ガイド」で収益還元法・積算法・取引事例比較法の使い分けを解説しています。積算法による建築費・価格の考え方は「木造・鉄骨・RC、同じ8,000万円の物件で積算価格はいくら変わるか」、融資の基本的な見方は「不動産投資ローン完全ガイド」も参考にしてください。
新築アパートは中古より価格が高くなりやすい一方、融資期間の長さや空室率の低さ、大規模修繕の先送りといった運用面のメリットも持っています。今回の架空例では、価格差35.5%を融資期間と空室率、修繕費のタイミングの差が上回り、新築の10年IRRが中古を上回る結果になりました。ただしこの結果は前提条件に強く依存するため、実際の物件を検討する際は、同じ考え方で自分の条件に当てはめて試算することが重要です。
情報確認日:2026年11月4日。市況・統計データは変動するため、実際の検討時には最新の情報を確認してください。本記事の数値例は、仕組みを理解しやすくするために条件をそろえて設定した架空例であり、実在の物件・取引を示すものではありません。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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