
楽待や健美家で「市街化調整区域」の物件を見て、表面利回りの高さに惹かれたものの、融資や出口が不安で検討を止めている方向けの内容です。担保評価が下がった場合に自己資金と返済余力がどう変わるかを、3つのケースで試算します。
市街化調整区域は、都市計画法で「市街化を抑制すべき区域」として指定された区域です。住宅や共同住宅を新築・建て替えする際には、原則として都道府県知事等の許可が必要になり、電気・ガス・水道などのインフラが十分に整っていないエリアも少なくありません。駅やスーパー、学校といった生活利便施設からも離れがちで、日常生活の利便性が低いことから、賃貸需要も市街化区域内の物件と比べて弱い傾向があります。
それにもかかわらずポータルサイトで市街化調整区域の物件に高い表面利回りが付いているのは、多くの場合「賃貸需要が弱く、建築や売却に制約がある分だけ、価格が抑えられているから」です。利回りが高いこと自体は、物件の収益力が高いことを意味しません。むしろ、価格が安くなる理由が何かを先に確認する必要があります。
市街化調整区域の物件を収益物件として検討する場合、住宅ローンの記事でも整理されている「合法性」「属人性要件」「担保評価」の3点を、まず投資用物件の視点で確認する必要があります。
区画形質の変更を伴う造成を行う場合は都市計画法29条の開発許可、造成を伴わず建築行為のみを行う場合は同法43条の建築許可が必要です。中古の建物を購入する場合、この許可を適法に取得して建てられたものかどうかを確認しないと、無許可・目的外用途で建てられた「違反建築物」を取得してしまうリスクがあります。違反建築物は、購入者自身が建てたわけでなくても、行政から是正指導や取り壊しの指示を受ける可能性があると指摘されています。この点は、収益物件全般の検査済証・確認済証の考え方を整理した「検査済証がない=違法建築」は本当かとも重なる論点です。
市街化調整区域の建築許可には、「許可を受けた本人しか使用できない」という属人性が付くケースがあります。属人性のある建物を第三者が購入して使用する場合、属人性を外すための許可が別途必要になりますが、必ず下りるとは限りません。属人性が外れないまま所有権だけが移転している物件は、既存不適格に近い構造のリスクを抱えていると考えられ、既存不適格物件は買っても大丈夫かで扱った「建て替え時に条件が変わる」という論点とも共通しています。
登記簿上の地目が「田」「畑」になっている土地では、所有権移転の前に農地法の許可が必要です。市街化区域であれば届出で足りる場合でも、市街化調整区域では原則として許可が必須とされ、農業振興地域の農用地に指定されていると、除外申請に数年単位の時間がかかることもあります。線引き前から宅地として使われてきた「既存宅地」に該当するかどうかも、建て替えの可否を左右する重要な確認事項です。
以下は、仕組みを理解しやすくするために単純化した架空例です。実際の融資条件は、金融機関・借主属性・物件の残存耐用年数によって異なります。
市街化調整区域の物件は、建築制限や流通性の低さから価格が低く抑えられる傾向があり、実際に売りに出ているのも一棟数千万円以下の木造アパートや戸建てが中心です。そこでここでは、自己資金に制約のある中級投資家が検討しやすい価格帯として、市街化調整区域内にある木造アパート8戸、物件価格2,400万円、家賃4.0万円/戸(満室想定年間家賃384万円、表面利回り16.0%)を想定します。空室・滞納率を15%、運営費率を実効総収入の20%と仮定すると、NOI(年間純収益)は約261万円になります。
Case1|属人性なし・適合証明あり | Case2|属人性あり・要許可切替 | Case3|違反建築の疑いあり | |
|---|---|---|---|
担保評価の目安(価格に対する融資上限) | 70% | 50% | 融資対象外(現金購入前提) |
融資額 | 1,680万円 | 1,200万円 | 0円 |
自己資金 | 720万円(30%) | 1,200万円(50%) | 2,400万円(100%) |
融資期間の想定 | 20年 | 15年 | ― |
年間返済額(金利3.5%と仮定) | 約118万円 | 約104万円 | 0円 |
DSCR | 2.21倍 | 2.51倍 | 算出不可 |
年間キャッシュフロー | 約143万円 | 約157万円 | 約261万円 |
自己資金に対する利回り(CCR) | 19.8% | 13.1% | 10.9% |
この試算で注目すべきは、DSCRだけを見ると担保評価が下がったCase2の方がむしろ高くなっている点です。表面利回り16%という高い収益力があるため、借入額が減っても返済余力そのものは崩れません。実際に効いてくるのは、自己資金の絶対額と、自己資金に対する利回り(CCR)です。担保評価が価格の70%から50%に下がるだけで、自己資金は720万円から1,200万円へと480万円増え、CCRは19.8%から13.1%まで下がります。さらにCase3のように融資そのものが付かない場合は、全額が自己資金に拘束され、CCRは10.9%まで下がります。
つまり、市街化調整区域の物件を検討する際に確認すべきは「この物件で返済が続けられるか」だけでなく、「自分の自己資金でこの融資条件を実行できるか」という点です。用意できる自己資金が800万円程度であれば、Case1は実行できてもCase2は最初から選択肢に入りません。自分の物件条件・自己資金でDSCRやCCRがどう変わるかは、RE-AIのDSCRシミュレーターにNOIと融資条件を入れると、その場で確認できます。
なお、国税庁は相続税・贈与税の財産評価において、市街化調整区域内の雑種地を評価する際、周辺の宅地価格を基準に「しんしゃく割合(減価率)」を控除する取り扱いを公表しています(国税庁No.4628「市街化調整区域内の雑種地の評価」)。これは相続税評価のための算定ルールであり、金融機関の担保評価や実勢の売買価格をそのまま示すものではありませんが、行政側も市街化調整区域の土地評価を市街化区域内の土地と区別して扱っていることを示す一次情報として参考になります。
市街化調整区域の物件は、売却時の買い手層が限定されやすい点にも注意が必要です。マイホーム取得層にとっては生活利便性や将来の建て替え条件の不透明さがネックになりやすく、投資家層にとっても、担保評価が伸びにくいために現金購入者かノンバンク融資に頼れる層に絞られがちです。買い手が投資家中心になると、売却価格は相場観よりも収益還元法をベースにした金額に収束しやすくなります。収益還元価格の考え方は収益物件の価格査定完全ガイドで整理しています。
買い手が限定されるということは、「売りたい時期に、希望する価格で売れるとは限らない」ということでもあります。保有期間や出口のタイミングをどう考えるかは、収益物件の出口戦略完全ガイドで扱っている一般的な論点に加えて、市街化調整区域の場合は「そもそも買える人がどれだけいるか」という一段前の制約が加わる点を踏まえておく必要があります。
ここまでの整理を踏まえると、市街化調整区域の物件は次のような場合に検討の余地があると考えられます。属人性要件がなく、適合証明書などで再建築可能性が確認できていること。自己資金に余裕があり、担保評価が厳しく出ても自己資金比率50%前後を実行できること。そして、短期売却を前提とせず、長期保有でインカムゲインを回収する方針であることです。これらの条件が揃わない場合、特に自己資金に制約がある方や、再建築不可物件・既存不適格物件の検討経験がまだ浅い方は、再建築不可物件は「投資」になるかや借地権付き収益物件は買いかで扱ったような「流動性の低い物件」に共通する注意点も踏まえて、慎重に判断することをおすすめします。
市街化調整区域だから一律に良い・悪いと言い切れるものではなく、許可の種類・属人性の有無・自己資金の水準によって結論は変わります。表面利回りの高さだけで判断せず、購入前リスクチェックの全体像は収益物件購入前のリスクチェック完全ガイドもあわせて確認してください。
市街化調整区域の物件は、建築制限や賃貸需要の弱さから価格が抑えられ、表面利回りが高く見えやすい一方で、担保評価が下がることで自己資金負担とCCRが大きく変わります。今回の試算では、担保評価が価格の70%から50%に下がるだけで自己資金は480万円増え、CCRは19.8%から13.1%まで低下しました。DSCRが高いから安心、ではなく、自分の自己資金でその融資条件を実行できるかどうかを、購入前に必ず確認してください。
本記事の試算は理解のために単純化した架空例であり、実際の担保評価・融資条件は金融機関ごとに異なります。個別の物件については、金融機関・宅地建物取引士・土地家屋調査士など専門家への確認をおすすめします。
参考資料・出典:
国税庁 タックスアンサー No.4628「市街化調整区域内の雑種地の評価」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4628.htm)
都市計画法第29条・第43条(開発許可・建築許可の制度概要)
情報確認日:2026年9月21日
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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