
自己資金欄に、物件価格とほぼ同じ金額を入力した診断がありました。融資額はごくわずかになるはずなのに、RE-AIの融資AIはこの条件に95点をつけていました。借入がほとんど無いのに、なぜ最高評価に近い点数が出ていたのか。原因を追うと、融資AIの採点の仕方そのものに無理があることが分かりました。
RE-AIの融資AIは、LTV(物件価格に対する融資額の割合)とDSCR(返済余力を示す指標)を見て点数をつけています。ある診断で、自己資金の欄に物件価格とほぼ同額を入力したケースがありました。価格欄と自己資金欄はどちらも万円単位の数値が並ぶ画面上の位置にあり、入力を取り違えても気づきにくい構成になっています。
この条件では、融資額は物件価格の7%程度(諸費用に相当する金額)だけになり、LTVは7.0%まで下がります。借入がほとんど無いため、返済余力を示すDSCRは8倍を超えます。従来の融資AIはこの状態を「DSCRが高い」「LTVが低い」という好条件としてそのまま加点し、95点を返していました。
融資AIの採点ロジックは、LTVが低いほど、DSCRが高いほど加点する設計でした。借入負担が軽い物件ほど融資面のリスクが低い、という考え方自体は間違っていません。ただしこのロジックは「ある程度の借入を伴う購入」を前提にしており、借入がほぼゼロになるケースを想定していませんでした。
借入がほとんど無ければDSCRが高く出るのは当然で、それは物件の収益力の高さを示しているわけではありません。「借りていないから返済に余裕がある」という自明の結果を、融資AIは好条件として加点し続けていました。この加点は統合スコアを一律で押し上げる方向に働き、販売価格が市場推定価格の2倍という物件でも、統合判定が「条件付き購入」まで上がってしまうケースがありました。価格に見合わない物件を、融資面の評価だけが引き上げてしまう状態です。
ここで考えたのは、点数の付け方を調整することではなく、「この条件では融資AIは評価を成立させられない」と認めることでした。借入がほぼ無い状態に加点すれば「借りないほど有利」になり、逆に減点すれば「現金で買えるのに不利」になります。どちらの方向に振っても実態を表しません。融資という観点そのものが機能しない入力条件がある、という前提に立ち直しました。
LTVが10%を下回る場合、融資AIは加点も減点もせず、中立スコアの50点を返して評価を打ち切るようにしました。コメントには、DSCRが極端に高く出ているのは返済がほぼ無いことの裏返しであり、融資条件が良いことを意味しない、という説明を添えています。
あわせて、入力ミスの可能性にも対応しました。自己資金額が物件価格の90%以上になった時点で、入力欄の直下にその旨を表示するようにしています。また結果画面でも、前提条件を示すカードが画面下部にあり見落とされやすかったため、スコアより先に「全額現金購入の前提で試算しています」という表示が目に入る位置に変更しました。
【開発記録】既存の診断データのうち、該当する16件を新しいロジックで再計算したところ、8件で最終判断が下がりました。すべて実態に近づく方向の変化です。数字を並べて加点していくやり方が、必ずしも実態を反映するとは限らないということを、この修正を通じて確認しました。
以前は「良い指標が並んでいる」ことを「良い評価」だと捉えていましたが、指標が成立する前提を外れた場合は、点数をつけること自体をやめるという選択肢があると考えるようになりました。
今回の16件は、これまでに蓄積された診断データを新しいロジックで再計算した結果です。今後、同じような入力の取り違えがどの程度の頻度で起きるのかは分かっていません。また、自己資金欄と価格欄の並び自体を見直すべきかどうかは、まだ判断していません。当面は入力時点での警告表示で様子を見る予定です。
融資AIと同じように、他のAIエージェントの採点にも「前提が成立しない入力では評価しない」という考え方を当てはめられる箇所がないか、確認していく予定です。DSCRという指標そのものについては、DSCRとは何か、1.2を下回ると融資が厳しくなる理由で扱っています。金融機関ごとの審査の違いに関心がある方は、金融機関3タイプで審査の見られ方がどう違うかも参考にしてください。金利や空室率の変動がキャッシュフローにどう影響するかは、金利上昇×空室率の同時悪化を試算した記事で扱っています。
今回の変更を反映した融資AIの評価は、現在の無料診断から確認できます。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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