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収益性・収支

個人の収益物件を法人へ移すのは何年目か|減価償却が残るうちは初年度から年14万円の逆効果、償却切れ後なら1.7年で回収できた

個人の収益物件を法人へ移すのは何年目か|減価償却が残るうちは初年度から年14万円の逆効果、償却切れ後なら1.7年で回収できた

法人化の議論は、たいてい「これから買う物件を個人で買うか法人で買うか」で終わります。しかし実際に相談が増えるのは、その一歩あとです。すでに個人名義で1棟持っている。減価償却も進んできた。今から法人へ移したほうがいいのか——という段階です。

一般的な解説記事は、ここで登録免許税と不動産取得税を挙げて「数十万円から百万円程度の移転コストがかかります」と書いて終わります。ですが実際に計算すると、コストの過半は税金ではありませんでした。そして年間のメリットは「税率差×不動産所得」では計算できません。減価償却が2回リセットされるため、移すタイミングによって初年度からマイナスになることがあります。

この記事では、木造一棟アパート1棟を保有する個人を想定し、移転コストを3層に分解したうえで、保有1年目から17年目までのどの時点で移すと何年で回収できるかを実際に計算しました。あわせて、回収に必要な個人の限界税率の下限を逆算しています。

この記事で検証する疑問

検証するのは次の3点です。

  1. 個人所有の収益物件を資産管理法人へ移すとき、移転コストは何でできているか
  2. そのコストは何年で回収できるか。移転を実行する年によってどう変わるか
  3. 回収が成立するには、個人の課税所得(限界税率)がいくら以上必要か

逆に、この記事では「法人化そのものが得か」は扱いません。新規取得時に個人と法人のどちらで買うかは法人化は家賃収入いくらから有利になるのかで検証済みで、制度全体の整理は不動産投資の法人化 完全ガイドにまとめています。ここで扱うのはすでに個人で持っている物件を動かすかどうかだけです。

基準ケースの設定と、その根拠

この分析で必要なのは「高額物件かどうか」ではなく、個人に減価償却がどれだけ残っているかと移転時にどれだけの残債があるかです。そのため、価格の大きさそのものは主役にしていません。検証の目的から逆算して、次の条件を置きました。

  • 物件種別:木造一棟アパート8戸。個人名義で1棟目を保有している層が最も多いレンジで、かつ中古木造は償却期間が短く「償却切れ」が現実に起きるため、この論点を検証するのに適しています
  • 取得時期:6年前に取得。取得時の築年数12年(現在築18年)。長期譲渡(5年超)に該当させるため6年としました
  • 取得価格:6,800万円(土地2,720万円/建物4,080万円)。後述の家賃・利回り・LTV・DSCRと整合する水準として設定しています

項目

設定値

算出

年間満室家賃

595.2万円

月額6.2万円×8戸×12ヶ月

表面利回り

8.75%

595.2万円÷6,800万円

稼働率

95%

実効総収入565.4万円

運営費

満室家賃の20%=119.0万円

管理料・修繕・固定資産税・保険

NOI

446.4万円

NOI率75.0%/実質利回り6.56%

借入

6,120万円(LTV90%)

金利2.0%・期間25年

年間返済額

311.3万円

元利均等

DSCR

1.434倍

446.4÷311.3

個人の減価償却

年340.0万円

中古木造:(22−12)+12×0.2=12年

この条件だと、個人の減価償却は取得から12年目で終わります。これが今回の分析の分岐点になります。なお本記事の金額はすべて条件を固定したシミュレーションであり、実際の物件統計ではありません。税率・制度は2026年9月29日時点で確認したものです。

移転コストは3層に分かれる

個人から法人へ物件を移す方法は、実務上ほぼ「売買」です。この売買で発生するコストを、性質の違う3つの層に分けて積み上げました。

①流通税・登記費用

不動産取得税は原則4%ですが、住宅用家屋と土地は令和9年3月31日までの取得について3%へ軽減されます。賃貸アパートも住宅用家屋に該当します。土地はさらに課税標準が評価額の1/2になります(同じく令和9年3月31日まで)。登録免許税は売買による所有権移転が建物2.0%、土地は軽減措置で1.5%(令和11年3月31日まで)です。

いずれも課税標準は固定資産税評価額です。そして木造築18年の建物評価額は、経年減点補正によって簿価よりはるかに低くなります。本ケースでは新築時建物評価額2,200万円×築18年の補正率0.28=616万円と推計しました(土地評価額は時価の70%として1,904万円)。

②譲渡所得税

個人側には譲渡益が出れば課税されます(長期譲渡20.315%)。実務では建物を未償却残高(簿価)で譲渡することが多く、この場合は譲渡益がゼロです。土地も地価が横ばいなら取得費と同額なので譲渡益は発生しません。本ケースの6年後の建物簿価は2,040万円です。

③融資の組み替え費用

ここが見落とされやすい層です。物件に抵当権がついている以上、名義変更には金融機関の承諾が必要で、実務上は法人での借換えになります。融資事務手数料(定額33万円のケースと、借入額×2.2%のケースがあります)、抵当権設定登記(債権額×0.4%)、旧抵当権の抹消費用が発生します。6年後の残債は4,917.0万円です。

4パターンのコスト比較

家賃収入は建物の所有者に帰属するため、建物だけを法人へ移し、土地は個人が持ち続ける選択肢があります(税務署へ「土地の無償返還に関する届出書」を提出して借地権の認定課税を回避します)。土地も移す場合と比較しました。保有6年後に移転する前提です。

パターン

不動産取得税

登録免許税

司法書士・印紙

譲渡所得税

融資組み替え

合計

A 土地+建物/手数料定額33万円

47.0万円

40.9万円

18.0万円

0万円

55.7万円

161.6万円

A 土地+建物/手数料2.2%

47.0万円

40.9万円

18.0万円

0万円

130.8万円

236.8万円

B 建物のみ/手数料定額33万円

18.5万円

12.3万円

9.0万円

0万円

55.7万円

95.5万円

B 建物のみ/手数料2.2%

18.5万円

12.3万円

9.0万円

0万円

130.8万円

170.6万円

読み取れることは2つあります。

第一に、建物のみに絞ると移転コストは161.6万円から95.5万円へ41%下がります。土地は評価額が大きく、しかも経年で下がらないため、流通税の主因は土地側にあります。

第二に、建物のみ・定額手数料のケースでは、コスト95.5万円のうち58.3%(55.7万円)が税金ではなく融資の組み替え費用です。手数料が借入額×2.2%の金融機関なら融資関連は130.8万円まで膨らみ、流通税(不動産取得税18.5万円+登録免許税12.3万円=30.8万円)の4.3倍になります。移転可否を登録免許税と不動産取得税だけで判断すると、コストを半分以下に見誤ることになります。借換えそのものの損益は不動産投資ローンの借換えは金利差何ptから得かで別途検証しています。

借換え後の返済額が今といくら変わるかは、条件によって大きく動きます。残債・残存期間・金利を入れて返済額を試算すると、抵当権設定登記(債権額×0.4%)の概算も同時に把握できます。

年間メリットは「税率差×不動産所得」では計算できない

ここが一般的な解説と最も食い違う部分です。多くの記事は、年間メリットを「不動産所得×(個人の限界税率−法人実効税率)」で説明します。しかし物件を移すと、減価償却が2回リセットされます。

まず法人側です。法人は譲渡価額(=簿価2,040万円)を取得価額として、中古資産の耐用年数を新たに計算し直します。築18年の木造なら (22−18)+18×0.2=7年。年間償却は2,040万円÷7年=291.4万円です。

一方、個人がそのまま持ち続けた場合の残り6年間の償却は年340.0万円。つまり法人へ移すと年間の償却費が48.6万円減り、課税所得はその分増えます。償却期間が引き延ばされるため、総額は変わらなくても各年の課税所得は増えるのです。

次に個人側です。移転後、個人の不動産所得は消えます。ただし本ケースでは移転前の個人の不動産所得が非常に小さい——7年目で446.4万円−利息96.4万円−償却340.0万円=10.0万円しかありません。削れる税金がほとんどない状態です。

法人実効税率は21.36%として計算しました(所得400万円以下・資本金1,000万円以下の中小法人/法人税15%+地方法人税1.545%+法人住民税法人税割1.05%+法人事業税3.5%+特別法人事業税1.295%=表面22.39%を、事業税が翌期の損金になる効果で割り戻した値)。2026年4月1日以後開始事業年度から始まった防衛特別法人税は基準法人税額から500万円を控除した残額に4%課税されるため、この規模では発生しません。

さらに法人維持コストを加えます。法人を新設する場合は年27万円(法人住民税均等割7万円+税理士報酬20万円)、2棟目用にすでに法人がある場合は年6万円(申告対象物件が増える分の追加報酬のみ)としました。

結果①:償却が残っているうちに移すと、初年度から赤字になる

課税所得900万〜1,800万円(所得税・住民税の限界税率43.69%)の個人が、保有6年後に建物のみを移すケースの年次推移です。比較しているのは税引後キャッシュフロー(NOI−年間返済額−税額−法人維持コスト)で、既存法人あり(年6万円)の前提です。

移転後

個人継続の不動産所得

法人の所得

個人継続の税額

法人の税額

年間差額

累計

1年目

10.0万円

58.6万円

4.4万円

12.5万円

▲14.1万円

▲14.1万円

2年目

14.4万円

62.9万円

6.3万円

13.4万円

▲13.2万円

▲27.3万円

4年目

23.3万円

71.9万円

10.2万円

15.4万円

▲11.2万円

▲50.7万円

6年目

32.6万円

81.2万円

14.2万円

17.3万円

▲9.1万円

▲69.9万円

7年目(個人の償却切れ)

377.4万円

86.0万円

164.9万円

18.4万円

+140.5万円

+70.6万円

8年目(法人の償却も切れ)

382.3万円

382.3万円

167.0万円

81.7万円

+79.4万円

+150.0万円

10年目

392.4万円

392.4万円

171.4万円

83.8万円

+81.6万円

+312.1万円

最初の6年間、法人へ移した側のほうが税引後キャッシュフローが少ないという結果です。理由は上で述べた通り、法人側の償却が薄まる一方で、個人側にはもともと削れる税金がほとんどなかったからです。累計は6年目に▲69.9万円まで沈み、個人の償却が切れる7年目にようやくプラスへ転じます。移転コスト95.5万円を回収するのは7.3年後です。

この「7年目の急変」は減価償却が終わった年、税引後CFは93万円減ったとデッドクロスは何年目に来るのかで扱った現象そのものです。今回のケースでは、償却切れ後の個人の税引後キャッシュフローは年▲29.8万円(NOI446.4−返済311.3−税164.9)と持ち出しに転落します。法人化の効果は、この持ち出しを止める点にこそ現れます。

結果②:移転タイミング別の回収年数

ならば、移す年を変えるとどうなるか。保有1年目から17年目まで、実行年だけを動かして計算しました。条件は課税所得900万〜1,800万円・既存法人あり・建物のみ・手数料定額33万円で固定しています。

移転を実行する年

築年数

建物簿価

譲渡価額

譲渡益

残債

法人の償却年数/年額

移転コスト

初年度の差額

回収年数

1年目

13年

3,740万円

3,740万円

0

5,929万円

11年/340.0万円

115.1万円

▲6.0万円

12.9年

3年目

15年

3,060万円

3,060万円

0

5,537万円

10年/306.0万円

107.8万円

▲12.7万円

10.7年

6年目

18年

2,040万円

2,040万円

0

4,917万円

7年/291.4万円

95.5万円

▲14.1万円

7.3年

9年目

21年

1,020万円

1,020万円

0

4,259万円

5年/204.0万円

90.1万円

▲29.8万円

4.4年

11年目

23年

340万円

513万円

173万円

3,798万円

4年/128.3万円

121.1万円

▲43.9万円

2.6年

12年目(償却切れ)

24年

0万円

477万円

477万円

3,561万円

4年/119.2万円

179.9万円

+103.7万円

1.7年

14年目

26年

0万円

440万円

440万円

3,071万円

4年/110.0万円

168.7万円

+104.0万円

1.6年

17年目

29年

0万円

440万円

440万円

2,299万円

4年/110.0万円

165.6万円

+107.5万円

1.5年

転換点は明確です。個人の減価償却が終わる12年目を境に、回収年数は2.6年から1.7年へ落ち、初年度の差額が▲43.9万円から+103.7万円へ147.6万円反転します。11年目までは初年度がマイナスで、回収は「いずれ来る償却切れ」を待つ形になります。

もう1つ注意すべき動きがあります。移転コストは単調に下がりません。11年目までは残債と建物評価額が下がるので95.5万円→90.1万円と減っていきますが、簿価がゼロに近づくと簿価での譲渡ができなくなり、固定資産税評価額(本ケースでは477万円)を譲渡価額とせざるを得ません。すると譲渡益が発生し、譲渡所得税96.8万円が乗ってコストは90.1万円から179.9万円へ約2倍になります。それでも年間メリットの増加が大きいため、回収年数は短くなります。

この「償却で減らした分は売却時に精算される」構造は減価償却で減らした税金は、売却時にいくら返すことになるのかと同じ性質のものです。法人への移転も譲渡である以上、例外ではありません。

結果③:課税所得別の回収年数と、逆算した下限

年間メリットの源泉は個人と法人の税率差です。個人の限界税率が低ければ、そもそも移す意味がありません。課税所得帯別に、償却中(6年目)と償却切れ後(12年目)の両方を計算しました。

個人の課税所得

限界税率(所得税+住民税)

6年目移転:初年度差額

6年目移転:回収年数

12年目移転:初年度差額

12年目移転:回収年数

195万〜330万円

20.21%

▲16.5万円

残存期間内に回収せず

+15.1万円

残存期間内に回収せず

330万〜695万円

30.42%

▲15.5万円

10.2年

+53.6万円

3.3年

695万〜900万円

33.48%

▲15.2万円

8.9年

+65.2万円

2.7年

900万〜1,800万円

43.69%

▲14.1万円

7.3年

+103.7万円

1.7年

1,800万〜4,000万円

50.84%

▲13.4万円

6.9年

+130.7万円

1.4年

限界税率20.21%(課税所得195万〜330万円)の行は、償却切れ後に移しても融資の残存期間13年では回収できません。年間の差額は+15.1万円あるものの、移転コスト179.9万円に届く前に融資期間が終わります。

ここから下限を逆算しました。償却切れ(12年目)に移転し、残存13年以内に回収するために必要な限界税率は次の通りです。

前提

必要な限界税率

対応する課税所得

既存法人あり/手数料定額33万円

24.30%以上

330万円超(30.42%)が最低ブラケット

法人を新設/手数料定額33万円

29.45%以上

同上

法人を新設/手数料2.2%

30.30%以上

同上

限界税率は階段状なので、24.30%と30.30%はいずれも「課税所得330万円超」という同じ結論に丸まります。逆に言えば、課税所得330万円以下(限界税率20.21%)の投資家にとっては、条件をどう整えても既存物件の法人移転は回収に届きません。この場合は既存物件を動かさず、次に買う物件から法人で取得するほうが合理的です。

結果④:借換え金利が上がるケース

ここまでは法人が同じ金利2.0%で借換えできる前提でした。実際には、法人設立直後の借換えは条件が悪化することがあります。3シナリオで比較しました(12年目移転・課税所得900万〜1,800万円・建物のみ・残債3,561万円/残存13年)。

シナリオ

借換え金利

法人の年間返済額

移転コスト

初年度の差額

回収年数

13年累計

BASE:同金利・既存法人

2.0%

311.3万円

179.9万円

+103.7万円

1.7年

+1,211.3万円

STRESS:金利+1.0pt・法人新設

3.0%

331.1万円

179.9万円

+70.3万円

2.5年

+735.5万円

SEVERE:金利+1.5pt・法人新設・手数料2.2%

3.5%

341.3万円

225.2万円

+63.8万円

3.5年

+631.2万円

金利が1.5pt上がり、法人を新設し、手数料が2.2%になる最悪の組み合わせでも、償却切れ後に移すなら3.5年で回収し、13年累計では631.2万円のプラスです。BASEの1,211.3万円と比べて効果は52%まで落ちますが、方向は変わりません。

言い換えると、償却切れ後なら借換え条件の悪化は結論をひっくり返しません。しかし償却が残っているうちは、借換え条件の悪化が回収年数を融資期間の外へ押し出します。判断の感度が高いのは金利ではなく、償却の残り年数です。

結果から分かること

  • 移転コストの過半は税金ではない。建物のみ・定額手数料のケースで、95.5万円のうち58.3%が融資の組み替え費用。手数料2.2%の金融機関なら融資関連は130.8万円で、流通税30.8万円の4.3倍になる
  • 土地を残すと流通税は41%減る。161.6万円→95.5万円。家賃は建物所有者に帰属するため、節税目的なら建物のみで足りることが多い
  • 償却が残っているうちに移すと、初年度から税引後CFが減る。法人側の中古耐用年数が個人の残存期間より長くなり、年間償却が48.6万円減るため。6年目移転では初年度▲14.1万円、回収7.3年
  • 転換点は個人の減価償却が終わる年。12年目移転なら初年度+103.7万円、回収1.7年。11年目と12年目で初年度差額が147.6万円反転する
  • ただし償却切れ後の移転はコストが2倍になる。簿価がゼロで譲渡できず、固定資産税評価額477万円が譲渡価額となり譲渡所得税96.8万円が発生。90.1万円→179.9万円
  • 回収に必要な限界税率は24.30〜30.30%。階段構造により実質「課税所得330万円超」が下限。それ以下では条件を整えても融資期間内に回収しない

投資判断への使い方

この分析から取り出せる判断手順は3ステップです。

  1. まず自分の建物の残存償却年数を確認する。ここが移転の可否ではなくタイミングを決めます。残りが5年以上あるなら、移転はまだ早い可能性が高い
  2. 次に自分の課税所得ブラケットを確認する。330万円以下なら既存物件は動かさず、次の取得から法人を使う判断に切り替える
  3. 最後に金融機関の融資事務手数料の方式を確認する。定額か借入額×2.2%かで移転コストが75.1万円変わります。これは移転を検討する前に聞けることです

注意点として、この結論は「移転コストの回収」だけを見たものです。法人化には、役員報酬による所得分散、株式の生前贈与による相続対策、欠損金の10年繰越といった、回収年数には現れない論点があります。逆に、個人の不動産所得が赤字のときに使える給与所得との損益通算(法人化ガイドで整理)は法人化すると使えません。金融機関の見方の違いは不動産投資ローンは法人と個人でどう違うかにまとめています。

今回の試算は金利2.0%・稼働率95%・運営費率20%で条件を固定しています。実際の借換え後の返済額とNOIの組み合わせによって、税引前の手残りは大きく変わります。自分の家賃・運営費・借換え条件でキャッシュフローを試算すると、移転後に返済比率とDSCRがどう動くかを先に確認できます(このツールは個人・法人の税率差までは扱っていないため、税額の比較は別途必要です)。

なお今回のように、償却の残り年数・借換え金利・手数料方式・課税所得の4つが同時に効く判断は、表計算では条件の組み合わせが増えて追いにくくなります。RE-AIでは収益性・融資・出口を同じ条件セットで並べて確認できるよう設計していますが、個別の税務判断そのものは扱えません。移転の実行前には必ず税理士へ確認してください。

この分析で分からないこと

  1. 建物の適正な譲渡価額。本記事は簿価(簿価がゼロに近い場合は固定資産税評価額)を用いましたが、税務上の原則は時価です。不動産鑑定や近隣事例で時価が簿価を上回ると認定されれば、譲渡所得税が増え、同時に法人の償却基礎も増えるため、結論は両方向に動きます
  2. 固定資産税評価額の実額。本記事の建物評価額は新築時2,200万円×経年減点補正率という推計です。実際は再建築費評点方式で市町村が算定するため、ずれます。手元の課税明細書の数字に置き換える必要があります
  3. 金融機関が借換えに応じるか。設立直後の法人・実績のない法人には応じないケースがあります。応じない場合、この移転はそもそも実行できません
  4. 住宅用土地の不動産取得税減額。中古住宅の取得に係る減額は自己居住用が要件のため本記事では適用していませんが、自治体の運用によって扱いが異なる可能性があります
  5. 役員報酬・所得分散の効果。法人実効税率21.36%で法人に利益を残す前提で計算しており、家族への役員報酬で分散した場合の効果は含んでいません。これを入れると回収年数はさらに短くなる方向に動きます
  6. 消費税の扱い。居住用賃貸のみの個人は通常免税事業者で、建物譲渡に消費税は発生しない前提です。店舗・駐車場収入がある物件では判定が変わります(インボイス経過措置の記事で関連論点を扱っています)
  7. 将来の税制。不動産取得税3%・宅地1/2(令和9年3月31日まで)、土地の登録免許税1.5%(令和11年3月31日まで)、中小法人の軽減税率15%(令和9年3月31日開始事業年度まで)はいずれも期限付きの措置です

まとめ

個人所有の収益物件を資産管理法人へ移すかどうかは、「法人税率が低いから得」という一般論では判断できません。今回の条件で計算した限り、判断を決めていたのは税率差そのものではなく、個人の減価償却がいつ終わるかでした。

償却が残っているうちに移すと、法人側の中古耐用年数が引き延ばされて年間償却が48.6万円減り、初年度から税引後キャッシュフローが14.1万円減ります。回収は7.3年かかり、借換え条件が悪化すれば融資期間の外へ出ます。逆に償却が切れた12年目に移せば初年度から103.7万円のプラスで、譲渡所得税96.8万円が乗ってコストが2倍になっても1.7年で回収しました。

そしてこの結論には前提があります。個人の課税所得が330万円を超えていることです。それ以下では、必要な限界税率24.30〜30.30%に届かず、条件を整えても回収しません。

もちろん、法人化の目的が節税だけとは限りません。相続・事業承継を主目的にするなら、回収年数より先に検討すべきことがあります。この記事が答えているのは、あくまで「移転コストは何年で戻るか」という一点です。

参考資料・出典

情報確認日:2026年9月29日

本記事の試算は、上記の公開情報にもとづき条件を固定して計算したシミュレーションです。実際の物件統計や取引実績ではありません。物件価格・家賃・金利・固定資産税評価額はすべて架空の設定値であり、個別の税務判断については税理士にご確認ください。

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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