
「うちは住居の家賃収入だけだから、インボイス制度は関係ない」——収益物件のオーナーからよく聞く言葉です。実際、住宅の家賃は消費税が非課税のため、この理解自体は正しいケースが大半です。ただし、敷地内駐車場や1階の店舗・事務所区画からの収入がある一棟物件では話が変わってきます。ちょうど2026年10月1日から、インボイス制度の経過措置(仕入税額控除の割合)が段階的に縮小されるタイミングを迎えます。当初は2026年10月から50%へ一気に下がる予定でしたが、令和8年度税制改正大綱により70%への緩和に修正されました。本記事では、この制度変更の正確な内容と、店舗・駐車場収入のある一棟アパートを例に、DSCR(借入返済余裕率)への影響を試算します。
消費税法上、住宅としての貸付け(契約期間1ヶ月以上)は非課税取引です。一方で、事務所・店舗など事業用途での貸付けや、建物の賃貸借契約と切り離された青空駐車場の貸付けは課税取引に該当します(国税庁の消費税法基本通達に基づく整理)。つまり、居住用の区分マンションや、住戸のみのアパートを保有しているオーナーには、インボイス制度は基本的に影響しません。この「住宅か事業用か」という区分は、物件取得時の消費税還付が使えるかどうかの判定でも同じように重要な論点になります。影響が出るのは、次のような収入源を持つ一棟物件のオーナーです。
免税事業者(インボイス発行事業者に登録していない事業者)からの仕入れについて、課税事業者側が仕入税額控除を受けられる割合には経過措置が設けられています。令和8年度税制改正で見直された最新のスケジュールは以下のとおりです。
期間 | 仕入税額控除の割合 |
|---|---|
2023年10月〜2026年9月 | 80% |
2026年10月〜2028年9月 | 70%(当初予定は50%) |
2028年10月〜2030年9月 | 50% |
2030年10月〜2031年9月 | 30% |
2031年10月以降 | 控除なし(経過措置終了) |
当初の制度設計では2026年10月から一気に50%まで下がる予定でしたが、中小事業者の実務負担に配慮し、70%への緩和と終了時期の2年延長(当初2029年9月→2031年9月)が決まりました。この経緯を把握せずに、古い情報のまま「2026年10月から控除は半分になる」と考えていると、テナントとの交渉方針を見誤る可能性があります。
店舗・駐車場からの課税売上が年1,000万円以下であれば、オーナーは引き続き消費税の免税事業者でいられます。ただし、テナントが課税事業者(法人など)の場合、オーナーが適格請求書発行事業者でなければ、テナント側は支払家賃の消費税相当額について、上記の割合でしか仕入税額控除を受けられません。控除できない分はテナントにとって実質的なコスト増となるため、賃料の減額交渉や、適格請求書発行事業者への登録要請につながることがあります。逆にオーナーが課税事業者として登録すれば、テナント側の負担は解消しますが、オーナー自身が消費税の申告・納税義務を負うことになります。どちらが有利かはテナントとの関係、課税売上の規模、事務負担によって変わるため、一律に「登録すべき」「不要」とは言い切れません。
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。実際の物件では賃料構成や運営費率が異なるため、個別の数値としてそのまま使わないでください。
項目 | 内容 |
|---|---|
物件 | 木造一棟アパート8戸+1階店舗1区画+敷地内駐車場10台 |
価格 | 6,800万円 |
住戸家賃(非課税) | 平均5.5万円×8戸=月44万円 |
店舗賃料(課税) | 月12万円 |
駐車場収入(課税) | 月6万円(10台) |
自己資金 | 1,360万円(20%) |
借入条件 | 5,440万円、金利2.5%、期間30年、元利均等 |
運営費率 | 実効総収入の35%と仮定(管理費・修繕積立・固定資産税・保険・空室損を含む) |
この前提での年間実効総収入は744万円、NOIは約483.6万円、年間元利返済額は約258万円で、DSCRは約1.87倍です。ここで、店舗テナント(課税事業者)が経過措置の縮小を理由に、消費税相当額(月1.2万円)分の賃料減額を求め、オーナーがこれに応じたケースを試算します。年間家賃収入は744万円から729.6万円に減り、NOIは約474.2万円、DSCRは約1.84倍まで低下します。低下幅は0.03倍程度で、この規模の物件であれば経営が揺らぐほどの影響ではありません。ただし、2028年10月に控除率が50%、2031年10月に控除ゼロまで進んだ場合、同様の交渉が段階的に繰り返される可能性はあり、店舗・駐車場比率が高い物件ほど累積の影響は大きくなります。
課税売上が1,000万円を大きく下回り、テナントが少数であれば、当面は免税事業者のままとし、テナントから登録要請があった際に改めて検討する、という進め方が現実的な選択肢の一つです。テナントとの関係が良好で、賃料減額交渉のリスクが小さいと判断できる場合は、事務負担の増える課税事業者登録を急ぐ必要は必ずしもありません。
これらはレントロールの精査段階で確認できる項目です。レントロールの見方|賃料のばらつきや入居日の偏りが意味するリスクを読み解くも参考にしてください。
住居中心の収益物件であればインボイス制度の影響は限定的ですが、店舗・駐車場収入を含む一棟物件では、2026年10月以降の経過措置縮小を踏まえた賃料交渉リスクを織り込んでおく必要があります。今回の試算では、経過措置が70%に緩和されたこともあり、DSCRへの影響は限定的という結果になりましたが、控除率がさらに下がる2028年以降は前提が変わります。課税事業者登録の要否は、税理士など専門家に相談のうえ、物件ごとの収入構成をもとに判断することをおすすめします。物件の収支やDSCRを含めた購入判断は、RE-AIの無料診断でも確認できます。
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情報確認日:2026年9月24日
本記事は特定の物件・投資手法・税務判断を推奨するものではありません。数値はすべて記載した条件下でのシミュレーション結果であり、実際の物件の収支や税務上の取り扱いを保証するものではありません。消費税の課税事業者登録の要否など税務の判断は税理士に、融資条件は金融機関に、それぞれご確認ください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。