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収益物件オーナーが認知症になったら|家族信託の設定費用は、成年後見の報酬を何年で上回るか

収益物件オーナーが認知症になったら|家族信託の設定費用は、成年後見の報酬を何年で上回るか

木造一棟アパートを複数所有する65歳のオーナーが、最近もの忘れが増えた父や自分自身の将来を考えて「もし認知症になったら、この賃貸経営はどうなるのか」と不安になるのは自然なことです。本記事では、判断能力が低下した場合に賃貸経営のどこが止まるのか、家族信託と成年後見制度のどちらが適しているのか、そして両者のコストを数字で比較します。

認知症になると、賃貸経営の何が止まるのか

所有者本人の判断能力が低下すると、法律上は「自分の意思で有効な契約や取引ができない」状態とみなされます。これは本人を保護するための民法上の原則ですが、賃貸経営の現場では次のような支障につながります。

  • 銀行が本人の意思を確認できなくなり、修繕費や管理費の支払いに使う口座からの大口の引き出しや契約手続きが止まる
  • 金融機関との間で新規融資や借換えの契約を結べなくなる(既存ローンの約定どおりの返済自体は代理人が窓口で行える場合が多いが、条件変更は別問題になる)
  • 賃貸借契約の更新・解約、大規模修繕の発注といった意思決定が本人名義のままでは進められなくなる

家族が代わりに窓口へ行っても、本人の意思確認ができない以上、金融機関や契約相手は手続きを進められません。これが「口座凍結」と呼ばれる状態の実態です。

家族信託と成年後見制度、何が違うのか

判断能力が低下した場合の備えとして代表的なのが「家族信託」と「成年後見制度」です。両者は目的と仕組みが異なります。

家族信託の仕組み

家族信託は、本人(委託者)が判断能力があるうちに、信頼できる家族(受託者)と契約を結び、不動産や預貯金の管理・処分を託す仕組みです。契約内容に沿って、受託者が自分の判断で修繕発注や契約更新を進められるのが特徴です。ただし、本人の判断能力が既に低下した後では新たに契約を結ぶことができません。備えは「健康なうちに」行う必要があります。

成年後見制度の仕組み

成年後見制度には、判断能力が低下した後に家族の申立てで家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見」と、判断能力があるうちに本人が将来の後見人を自分で決めておく「任意後見」があります。法定後見は、専門家が後見人に選ばれることも多く、不動産の処分や大きな財産管理には家庭裁判所の許可や監督が必要になります。本人保護の観点からは手厚い一方、賃貸経営の機動的な意思決定には制約が伴います。

既存ローンがある物件は信託できるのか

抵当権付きの物件を信託する場合、ローン債務そのものは信託財産に含めるのが難しく、債務は委託者本人に残したまま不動産の所有権だけを受託者に移す形が一般的です。この変更には金融機関の同意が必要になることが多く、すべての金融機関が応じるとは限りません。既存ローンがある物件で家族信託を検討する場合は、契約前に融資を受けている金融機関へ相談しておく必要があります。

コストを比較する|設定費用は何年で「逆転」するか

家族信託と成年後見制度では、コストの発生パターンがまったく異なります。家族信託は契約時の一時費用が中心、法定後見は選任後に継続して発生する報酬が中心です。ここでは、理解しやすくするために単純化した架空例で比較します。

想定したケース

今回は、相続や事業承継を意識し始める60代後半の個人オーナーが、木造一棟アパート2棟(不動産の固定資産税評価額の合計を土地3,000万円・建物2,400万円、計5,400万円と設定)を所有している場面を想定しました。物件価格ではなく資産全体の承継リスクを扱うテーマのため、特定の物件価格帯に結論が依存しないよう、不動産評価額と手元の預貯金額を分けて設定しています。

家族信託の一時費用の目安

不動産の信託登記にかかる登録免許税は、土地が固定資産税評価額の0.3%(国土交通省の資料によれば2029年3月31日までの軽減措置)、建物が0.4%です。上記の評価額に当てはめると、土地3,000万円×0.3%=9万円、建物2,400万円×0.4%=9.6万円で、登録免許税の合計は約18.6万円になります。これに加えて、信託契約書の作成や登記を司法書士・弁護士に依頼する専門家費用がかかります。専門家費用は事務所や資産規模によって数十万円から100万円超まで幅があり、一律の相場はありません。本記事では、登録免許税と合わせた一時費用の目安を50万円〜100万円の範囲で試算します。

成年後見制度の継続コストの目安

法定後見で専門家が後見人に選ばれた場合の報酬は、大阪家庭裁判所が示す目安では、管理財産額(預貯金・有価証券等の流動資産の合計で、不動産の評価額そのものは含まれない点に注意)が通常の場合で月額2万円、1,000万円超5,000万円以下で月額3万円〜4万円、5,000万円を超えると月額5万円〜6万円とされています。不動産の評価額が大きくても、手元の預貯金が少なければ基本額のままになる可能性がある点は、見落とされがちなポイントです。

預貯金等の管理財産額

報酬の目安(月額)

年額換算

通常(目安として5,000万円以下目安の基本額)

2万円

24万円

5,000万円超

5万円〜6万円

60万円〜72万円

何年で逆転するか

一時費用50万円〜100万円を、法定後見の継続コストの年額で割ると、累計額が一時費用を上回る年数の目安が出ます。管理財産額が通常区分(年24万円)なら約2.1年〜4.2年、5,000万円超の区分(年60万円)なら約0.8年〜1.7年です。法定後見は原則として本人が死亡するまで続くため、発症から10年、15年続けば、累計の報酬は一時費用の数倍から十数倍に達する可能性があります。もっとも、これは家庭裁判所が個別事情で報酬額を決めるための「目安」であり、実際の金額や家族信託の専門家費用は事案ごとに異なります。数字はあくまで比較の考え方を示すものとして捉えてください。

自分のケースではどちらを検討すべきか

コストだけで判断するのは早計です。法定後見には家庭裁判所の監督という本人保護の仕組みがあり、親族間でのトラブルを防ぐ効果もあります。家族信託は機動的に動ける一方、本人保護のチェック機能は法定後見より弱く、受託者を誰にするか、信託監督人を置くかなど、設計には専門家の助言が欠かせません。どちらも「判断能力があるうちに動けるかどうか」で選択肢の幅が大きく変わる点は共通しています。

複数の収益物件を保有し、将来的に資産管理法人の設立を検討している場合は、法人化のタイミングと合わせて検討する視点も有効です。代表者个人の判断能力に賃貸経営が直結しにくい法人の仕組みは、承継対策の選択肢の一つになります。法人化の判断基準については「不動産投資の法人化 完全ガイド」で詳しく整理しています。また、相続が発生した場合の税務上の論点は「収益物件の相続税評価はどう決まる?」、生前に収益物件を取得する場合の注意点は「相続前5年以内に買った収益物件は、相続税評価額が1.69倍になる」で解説しています。ローン返済そのものが既に厳しくなっている場合は、信託や後見の前に「不動産投資ローンの返済が苦しくなったら」を確認してください。日常の管理を誰に委ねるかという観点では「管理会社を変更すべきタイミングとは?」も参考になります。

売却タイミングやデッドクロスなど出口戦略全体の考え方は「収益物件の出口戦略完全ガイド」で整理しています。相続税評価や出口戦略まで含めて物件全体の状況を見直したい場合は、RE-AIの無料診断で収益性・価格・融資・リスク・出口をまとめて確認することもできます。家族信託や成年後見そのものの判断は、司法書士・弁護士・税理士など専門家に相談してください。

まとめ

認知症などで判断能力が低下すると、口座からの支払いや新規融資、契約更新といった賃貸経営の意思決定が止まるリスクがあります。家族信託は判断能力があるうちにしか準備できず、成年後見制度は発症後でも利用できますが報酬が継続的に発生し、家庭裁判所の監督下で手続きに時間がかかる場面もあります。どちらが適しているかは資産構成や家族関係によって異なるため、早い段階で専門家に相談し、比較検討を始めることが重要です。

【情報確認日】本記事の登録免許税・成年後見人報酬の目安は2026年11月5日時点で確認した情報に基づいています。税制・裁判所の運用は変更される可能性があるため、実際の手続きの際は最新の情報を専門家にご確認ください。

参考資料・出典

  • 国土交通省「登録免許税の特例措置」(土地の信託登記 0.3%・2029年3月31日まで)
  • 大阪家庭裁判所「成年後見人等の報酬の目安」
  • 租税特別措置法・登録免許税法に基づく登録免許税率(建物の信託登記 0.4%)

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この記事を書いた人

鈴木基公

鈴木基公

RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者

不動産投資収益物件分析融資分析出口戦略

1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。

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