
区分マンションを1戸買っただけなのに、確定申告はどこまで必要なのか。青色申告にすれば65万円控除が使えると聞いたが、本当に自分のケースでも使えるのか。初めての確定申告を控えた会社員大家の方に向けて、判定の仕方・必要書類・申告方法までを整理します。
給与所得者の場合、給与以外の所得が年間20万円を超えると所得税の確定申告が必要になります(国税庁タックスアンサーNo.1900)。不動産投資でいえば、家賃収入から必要経費を差し引いた「不動産所得」がこの20万円ルールの対象です。区分マンション1戸でも、家賃収入が経費を上回れば申告対象になり得ます。
注意したいのは、20万円ルールは所得税の確定申告だけの話だという点です。住民税にはこの特例がなく、不動産所得が20万円以下でも、原則として市区町村への住民税の申告は必要です。所得税の申告をすれば住民税の情報も自動的に連携されますが、申告不要と判断して所得税の申告を省略した場合は、住民税の申告を別途忘れないようにしてください。
また、不動産所得が赤字になった年は、20万円以下であっても確定申告をした方が有利になることがあります。給与所得と損益通算できるためで、この仕組みは「不動産投資の損益通算とは?」で解説しています。
確定申告には白色申告と青色申告があります。白色申告は単式簿記(家計簿に近い記帳)で済み手間は少ない一方、控除は原則ありません。青色申告は複式簿記による記帳と貸借対照表・損益計算書の添付が必要になりますが、所得から一定額を差し引ける「青色申告特別控除」が使えます。
青色申告を選ぶには、原則としてその年の3月15日まで(1月16日以降に新たに不動産所得が生じた場合は、その日から2か月以内)に「青色申告承認申請書」を税務署に提出しておく必要があります。申告の直前に思い立っても、その年からは間に合わない点に注意してください。
ここが見落とされがちなポイントです。青色申告特別控除は、複式簿記で記帳して期限内に申告しても、それだけで65万円になるわけではありません。65万円(e-Taxでの電子申告または優良な電子帳簿保存が条件)または55万円の控除を受けられるのは、不動産の貸付けが「事業的規模」と認められる場合に限られます。
国税庁は事業的規模の形式基準として、貸間・アパート等はおおむね10室以上、独立家屋はおおむね5棟以上という、いわゆる「5棟10室基準」を示しています(国税庁タックスアンサーNo.1373)。区分マンションを1戸だけ保有している状態は、原則としてこの基準に届きません。この場合、複式簿記で記帳しても青色申告特別控除は10万円にとどまります。
つまり「青色申告にすれば65万円引ける」という理解のまま区分マンション1戸のケースに当てはめると、想定より控除額が55万円少なくなり、納税額の見込みが狂う可能性があります。保有戸数が増えて事業的規模に近づいてきた場合の考え方は、「家賃収入960万円、法人化すべきタイミングはいつか」でも扱っています。
書類 | 入手先 | 用途 |
|---|---|---|
確定申告書 | 国税庁サイト/税務署 | 所得・税額の申告本体 |
収支内訳書(白色)/青色申告決算書(青色) | 国税庁サイト/税務署 | 不動産所得の収入・経費の明細 |
賃貸借契約書の写し | 自分で保管 | 家賃収入の根拠 |
家賃の入金がわかる通帳・管理会社の入金明細 | 金融機関/管理会社 | 収入金額の裏付け |
売買契約書・重要事項説明書 | 購入時に受領 | 取得価額・減価償却費の計算根拠 |
ローンの返済予定表・年末残高証明書 | 金融機関 | 利息額の計算、(住宅ローン控除がある場合は残高証明) |
固定資産税・都市計画税の納税通知書 | 市区町村 | 経費計上 |
管理費・修繕積立金、管理委託料の明細 | 管理会社 | 経費計上 |
火災保険・地震保険の証券 | 保険会社 | 経費計上(複数年契約は按分) |
修繕・リフォームの領収書 | 施工業者 | 修繕費または資本的支出の判定 |
以下は理解しやすくするために単純化した架空例です。初めて不動産投資を始めた会社員が、中古区分マンション(価格1,480万円、自己資金200万円、借入1,280万円・金利2.5%・返済期間30年)を購入し、満室想定で運用した1年目という設定です。
項目 | 金額(年間) |
|---|---|
家賃収入 | 87.6万円 |
管理費・修繕積立金 | ▲19.2万円 |
管理委託料(家賃の5%) | ▲4.4万円 |
固定資産税・都市計画税 | ▲6.5万円 |
火災保険料(按分後) | ▲1.1万円 |
ローン利息(1年目概算) | ▲31.6万円 |
減価償却費(建物価格800万円・残存耐用年数33年、定額法) | ▲24.2万円 |
その他諸経費(交通費・通信費等) | ▲2.0万円 |
不動産所得 | ▲1.4万円 |
この例では、家賃収入だけを見ると黒字ですが、ローンの利息と減価償却費という「現金が出ていかない、または元本部分は経費にならない」項目を差し引くと、帳簿上の不動産所得はわずかに赤字になります。この赤字は給与所得と損益通算できるため、確定申告をすること自体にメリットが出るケースです。減価償却費の考え方や、構造によって金額がどれだけ変わるかは「同じ8,000万円の中古アパートでも、木造とRCで年間減価償却費は321万円違う」で試算しています。
自分の物件でこの内訳を先に試算しておきたい場合は、キャッシュフローシミュレーターで満室想定家賃と運営費を入力して試算すると、確定申告書を作成する前の概算把握に使えます。ただし、減価償却費や利息の按分など税務上の最終的な金額は、確定申告書等作成コーナーまたは税理士の確認が必要です。
必要経費として認められるかどうかの基本的な考え方は「不動産収入を得るために直接必要な支出かどうか」です。固定資産税、火災保険料、管理費、ローン利息(建物取得部分に対応する分)、減価償却費などは経費になりますが、ローンの元本返済部分は経費になりません。また、修繕であっても資産価値を高める工事は「資本的支出」として、一括ではなく減価償却で少しずつ費用化する扱いになる場合があります。この境目で手残りがどれだけ変わるかは「修繕費で落とせないと手残りはいくら減るのか」で具体的に試算しています。
確定申告は税務署に提出して終わりではありません。次に物件を追加で購入する際、金融機関は確定申告書や青色申告決算書(収支内訳書)の不動産所得の内容を、審査資料の一つとして確認します。経費の計上の仕方によって帳簿上の不動産所得が変わるため、節税を優先して所得を圧縮しすぎると、次の融資でDSCR(返済余力)の評価に響く可能性があります。逆に、経費をきちんと積み上げず所得を大きく見せても、実態とのズレは金融機関に見抜かれます。確定申告は単年の税金だけでなく、その後の融資判断にもつながる書類だという視点を持っておくと、経費計上の判断がぶれにくくなります。
申告方法は主に3つです。国税庁の確定申告書等作成コーナーでe-Tax送信する方法、印刷して税務署に持参・郵送する方法、税理士に依頼する方法があります。65万円の青色申告特別控除(事業的規模かつ複式簿記の場合)を受けるには、e-Taxでの電子申告か、電子帳簿保存法に基づく優良な電子帳簿の要件を満たす必要があります。
なお、令和8年度税制改正では、青色申告特別控除を2027年分の申告(2028年に提出する分)から75万円へ引き上げる方向性が示されています。制度の詳細や適用開始時期は今後の国税庁の案内で確定するため、申告時には国税庁サイトで最新情報を確認してください。
区分マンション1戸から不動産投資を始めた場合、確定申告そのものは白色申告でも青色申告でも行えますが、「青色申告なら65万円控除」という理解は、事業的規模に届かない多くの1戸・2戸保有の投資家には当てはまりません。まずは自分の不動産所得が申告対象かどうか、事業的規模にあたるかどうかを確認したうえで(5棟10室基準の数え方と、事業的規模になると変わる手取り額は別記事で整理しています)、必要書類を早めにそろえておくことが、初めての確定申告を落ち着いて進める近道です。税額の最終判断や記帳方法の選択は、税理士や国税庁の窓口に確認することをおすすめします。
情報確認日:2026年9月25日
本記事は特定の申告方法や節税手法を推奨するものではありません。数値はすべて記載した条件下での単純化した試算例であり、実際の税額や控除額を保証するものではありません。税務の取り扱いは税理士、融資条件は金融機関に必ずご確認ください。
この記事を書いた人

鈴木基公
RE-AI開発者・不動産投資分析サービス運営者
1件の物件を買うか判断するために、4時間。 場合によっては、答えが出るまで何日もかかる。 その間にも、良い物件は他の投資家に買われていきます。 「分析に時間を使うのではなく、判断に時間を使うべきではないか。」 この疑問から開発したのが「RE-AI」です。 数時間かかっていた分析をAIがサポートし、投資家が本来やるべき『比較・現地調査・意思決定』に時間を使える環境を目指しています。